全ては、あなたのために
「ふう……今帰ったわい……」
夜になり、大公殿下が政務から帰ってきた。
だけど……かなり疲れているご様子だな……。
「「お帰りなさいませ」」
「おお、メル、婿殿……いやあ、今日は骨が折れたわい……」
「どうかなさったんですか?」
コキ、コキ、と首を鳴らす大公殿下に、僕はおずおずと尋ねる。
「うむ……例の皇都での魔石の調査なんじゃが……とりあえず、続きは執務室で話そうかの」
「「はい」」
僕達は大公殿下の執務室へ行くと、ソファーに座る。
「それで……結局、魔石は今日一日で二十個も見つかっての……しかもオリバーの奴、この私にまで探させるモンじゃから、腰が痛くてかなわん……」
そう言って、大公殿下は自分の腰を軽く叩いた。
「二十個……カモフラージュにしては、やけに多いですね……」
「そうなんじゃ。こうなってくると、単なる目くらましとも思えん……」
でも、少なくとも簡単に発見されるような真似をする時点で、本来の目的を隠しているはずだし……。
「……となると、魔石を集めさせることを目的としている……?」
「ヒュー、それはどういうことですか?」
僕の呟きを拾ったメルザが尋ねる。
「こう言っては何ですが、たった一日で魔石が二十個も発見されるのは異常です。おそらく、明日も皇都を調べればさらに魔石は見つかるでしょう」
「は、はい……」
「皇国に見つかることを前提でばら撒く……いえ、むしろ見つけてもらうために魔石を設置いているんです。だったら、こうやって回収されることも当然ながら計算に入れているでしょう」
問題は、魔石を集めさせた後のことなんだけど……。
「大公殿下……それで、魔石の分析はいかがですか?」
「うむ……一つ目が見つかってから、まだ数日しか経っておらぬでな。ほとんどのことが分かっておらぬよ」
「そうですか……」
ウーン……魔石には魔法陣の紋様があるから、仕掛けが絶対にあるはずなんだけど……。
ただ、どんな仕掛けがあるか分からない以上、打てる手は打っておこう。
「でしたら、分析用の魔石を一つだけ残し、あとは皇都の郊外……できれば、皇宮から魔石が見つかった場所までの距離と同程度離れた場所に保管するようにしましょう」
「む、それはどうしてじゃ?」
「はい。少なくとも、皇宮から等間隔で魔石を配置しているということは、皇宮そのものが狙いの一つの可能性があるということ。もう一つは……」
僕は、今日シモン王子から聞いた話を大公殿下に報告する。
半年以内に皇都の人間を一瞬にして消し去るという、常識で考えれば到底あり得ない計画を。
「……今の話、誠か?」
「はい。シモン王子とクロエ令嬢の言葉に、悪意や嘘は一切ありませんでした」
「むう……」
僕の説明を聞いた瞬間、大公殿下は訝しげな表情を浮かべたが、メルザにそう言われてしまい、唸ってしまった。
「なので、皇宮から魔石があった場所までの距離以上に離れた場所に保管しておけば、万が一の事態が生じても皇都に影響はありません」
「確かにの……分かった、明日にでも皇都の郊外に魔石の保管施設を設置するようにしよう」
「ありがとうございます」
さて、これで少なくとも魔石による被害は最小限に食い止められるとして……。
「次に、どうやって皇都から全ての人間を消し去るのか、ですが……」
「ううむ……こればっかりは、想像もつかんわい……」
「はい……」
僕達三人は顔を見合わせると、そのままうつむいてしまった。
「……今のところ、僕が考え得る策として、このような手を打っています」
僕は、例のサファイアによる資金をシモン王子に提供し、オルレアン王国内でシモン王子派を勢力拡大させる件について説明する。
さすがに半年で王位簒奪は厳しいかもしれないけど、それでも王国内に一大勢力を築けばシモン王子の立場も変わり、オルレアン王国の企みが分かるかもしれないしね。
それと併せて、そのサファイア鉱山の管理と運営をミラー子爵家に任せることも伝えた。
将来のウッドストック大公家を支える、大公派の領袖として。
「いやはや……確かにサファイア鉱山は婿殿に与えたが、まさかこのような使い方をするとはの……」
そう言って、大公殿下が苦笑する。
「あ……ま、まずかったでしょうか……?」
「はっは! まさか! 私利私欲ではなく、あくまでも皇国のため、ウッドストック家のためにしておること! 婿殿の大胆なやり口に、驚いてしもうただけじゃ!」
「あ、あはは……」
破顔した大公殿下に乱暴に頭を撫でられ、僕は思わず苦笑いを浮かべた。
だ、だって、シモン王子への資金提供も派閥作りも、全てメルザとの僕の幸せのためなんだから、思い切り私利私欲だし……。
「ふふ……ですが、私は分かっておりますよ?」
メルザがクスクスと笑いながら、僕の手にその白く細い手を重ねた。
うん……あなたに分かってもらえるなら、僕はそれだけで充分……いや、これ以上ないくらい満たされるんだ。
「そういうことじゃから、婿殿は好きにやるのじゃ! 全ては、このシリル=オブ=ウッドストックが持つわい!」
「はい!」
正式に大公殿下の許可をいただき、僕は強く頷いた。
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