ミラー子爵家を傘下に
「ということで、ヘレンにはクロエ令嬢との調整役をお願いしたい」
シモン王子の相談を受けた後、僕とメルザは帰宅するなりヘレンを呼んでそんな話をした。
「はい、承知しましたが……それを、どうして私に?」
ヘレンは了承するものの、何故僕がヘレンに依頼したのか理解できないようで、おずおずと尋ねる。
「あはは、簡単な話だよ。まず、ヘレンは数か月の間、オルレアン王国に潜伏してもらっていたから、あの国の状況にそれなりに明るいこと、それと……これは追って正式に大公殿下から話をしてもらおうと思っているんだけど……」
僕は隣にいるメルザを見ると、彼女はゆっくりと頷いた。
「……実は、君……いや、セルマの実家であるミラー子爵家を、いずれ大公家の子にしたいと思っている」
「っ!?」
僕の言葉に、ヘレンは目を見開いた。
「そ、それは……」
「ミラー子爵家の跡継ぎであったジミー子息の悲劇について、元々中立派だったミラー家だったからこそ、後ろ盾もなくグローバー家に対して強く出ることができなかった」
「…………………………」
ヘレンは、視線を落としながら悔しそうに唇を噛む。
「でも、大公家の子となれば、サウザンクレイン皇国最大の貴族、ウッドストック大公家が後ろ盾となって理不尽な目に遭うこともない」
「は、はい……ですが、ここまでしていただいた上に、さらにそのような……これでは、あまりにも過分すぎます……」
「はは、まさか。僕達にだって打算はあるよ。だって……ここまでの恩を売れば、ミラー子爵家は絶対に僕達を裏切らないからね」
「っ! 当然です! ミラー家は、末代に至るまでウッドストック大公家に忠誠を誓います!」
ヘレンは身を乗り出し、胸に手を当てて宣言する。
そう……この皇国内で、絶対的な立場にいる大公家ではあるけれど、大公殿下自身が先代皇帝陛下の弟君……つまり皇族であることと、皇国軍の全てを司っていることもあり、実は大公家に子が……いや、大公派と呼べる派閥が存在しない。
でも、僕の代となれば皇族からは離れることになるし、いざという時のための支持者を確保しておく必要もある。
何より、場合によっては退位予定の二年を待たずに現皇帝を排除し、クリフォード第一皇子を僕達に都合の良い皇帝として擁立するためにも、国内の貴族達をまとめたい。
「……だから、僕はこれから多くの貴族達を大公派に組み入れたい。ミラー家は、その第一歩だよ」
「は、はい! ミラー家を一番にお引き立ていただき、この上ない名誉です!」
「あはは、ヘレンはミラー家とは一切関係ないのに、お礼を言うだなんておかしな話だな」
「あ……そ、そうでした……」
僕が苦笑しながらそう言うと、ヘレンは恐縮した。
「そういうことだから、ヘレンはこれからクロエ令嬢との調整を頼む。それと……サファイア鉱山の管理と運営も、ミラー子爵家に任せるからそのつもりで。取り分は、大公家が六、ミラー家が四ということでいいかな?」
「っ!?」
僕の言葉に、ヘレンが絶句する。
「ひょっとして、取り分が少なかったか……?」
「と、とんでもありません! むしろそんなにいただいて、その……ほ、本当によろしいのですか……?」
「もちろんだ。追って正式にミラー家と採掘権に関する契約を交わそう」
「は、はい……!」
ヘレンは、肩を震わせながらぽろぽろと涙を零した。
「……何度も言うように、これはあくまでも大公家の……ひいては僕とメルザのためなんだ。だから、感謝も遠慮も必要はないよ」
「はい……はい……!」
ヘレンは何度も頷いたあと、部屋を出て行った。
「ヒュー……ヘレンも言っていたとおり、ミラー家に採掘したサファイアの四割も与えるのは、さすがに過分だと思うのですが……」
「そうだね。でも、これはミラー家を手っ取り早く大きくするために必要なんだ」
そう……ミラー子爵に潤沢な資金を与え、グレンヴィルのクーデターや第二皇妃の暗躍によって多くの貴族家が没落している中、台頭させて有力貴族の一つにする。
そうすれば、後はミラー家を中心として多くの子や孫を組み込ませ、仕切らせることで、より効率的に大公派を形成できるからね。
「なるほど……ヒューは、そこまで考えていたのですね」
「まあ、考えていたというほどではないですが、メルザとの幸せな未来のためには必要なことですからね」
「あ……ふふ、嬉しいです……」
メルザが少し頬を赤らめながら、僕に抱きついた。
「ね……ヒュー……」
「はい……どうぞ」
僕はシャツの一番上のボタンを外し、首筋を露わにすると。
「ちゅ……かぷ……んく……んん……ぷは」
メルザはまず僕の首筋に愛おしそうに口づけをしてから、その牙を突き立てて血を飲む。
僕達が出逢ってからの、メルザと僕の愛のかたちだ。
「メルザ……」
「はあ……ヒュー……ヒュー……ちゅ、ちゅく、ちゅ……!」
血を飲んで歓喜に震えるメルザが、いつもよりも激しく口づけをした。
「愛しています……愛しています……!」
「メルザ……僕も、僕もあなたを愛しています……!」
その後も、僕達は時間の許す限りお互いの唇を堪能した。
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