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陰謀

「……僕が、グレンヴィル侯爵家に……家族に復讐をするために、ウッドストック大公家の力を手に入れることです」


 僕は、静かにそう告げた。

 でも……もっと驚くかと思ったのに、大公殿下は僕をジッと見つめたままだ。


「ふむ……何故復讐したいのか、そして、この大公家の力を利用して何をするつもりなのか、詳しく話してくれんかの?」

「は、はい……」


 予想外の反応に少し面食らってしまったが、気を取り直して僕は話した。


 実は僕が、既に六回(・・)も死に戻りをしていて、これが七回目(・・・)の人生だということ。

 過去六回の人生において、全て家族の手によって殺されてきたこと。

 これまで一度も家族としての扱いを受けたことがなかったこと。

 メルザのおかげで分かったことだけど、僕には精神魔法がかけられていて、家族……グレンヴィル家に好意をもつように洗脳されていたこと。


「……僕は、六回目(・・・)の死を迎える時に誓ったんです……もう、家族なんていらないと。絶対に、あの連中を奈落の底に突き落としてやるんだと……!」


 そう告げた瞬間、僕は胸が苦しくて、思わずギュ、と胸倉を握りしめた。

 少しでも、このつらさを紛らわすために。


「……そうか」


 大公殿下は目を(つむ)り、一言だけそう告げた。


 そして。


 ――ダアンッッッ!


「あの青二才めが! この私が今すぐ、素っ首()ねてくれるッッッ!」


 激高した大公殿下が、テーブルを叩き折った。


「お爺様……復讐を果たすべきはヒューです。私達はただ、彼を後押しするのみ」

「おう! ヒューゴ君! このシリル=オブ=ウッドストック、君の悲願を果たすため、全面的に支援をするわい!」

「あ……」


 まさか、大公殿下からもこんな言葉をもらえるとは思わなかった。

 だって僕は、この大公家の力を手に入れるためにやって来て、そのために、あなたの大切な孫娘であるメルザを利用して……。


「ヒュー……あなたは一人じゃないですから。あなたには、この私が、お爺様が……家族(・・)がいますから……」

「メ、メルザ……」


 いつの間にか(そば)に来たメルザが、僕を抱きしめてくれた。

 そんな彼女の体温が温かくて……僕のすさんだ心を包み込んでくれて……っ!


「ヒューゴ君、泣くでない。君はこれから、グレンヴィル侯爵家に復讐するのじゃぞ」

「あ……は、はい!」


 大公殿下にたしなめられ、僕はグイ、と袖で涙を(ぬぐ)う。


「そうじゃ、それでいい」


 そう言うと、大公殿下が口の端を持ち上げた。


「さて……あやつ等に鉄槌を下すとして、どのようにするつもりじゃ?」

「はい……実は、考えていることがあります」

「ほう?」


 僕は、過去六回の人生で知ったことを交え、二人に説明する。


 まず、一回目と六回目で分かったことだが、あの父だった男はこのサウザンクレイン皇国を手中に収めようと画策していたこと。

 そのための軍備を整えるため、武器の調達や傭兵の雇用、そのために必要な資金の確保などに奔走していたこと。

 それと並行して、要人などの暗殺を行っていたこと。もちろん、それには一回目(・・・)の人生で僕も加担していたことだ。


「……このようなことからも、あの男は国家転覆を図っていると思われます」

「なんと……」


 僕の説明を聞いてすぐさまメルザを見るが、頷く彼女を見て大公殿下は声を失った。

 信じられないのかもしれないが、メルザは僕の言葉が嘘じゃないと証明してくれたので、事実なのだと認めるしかない。


「それで……ヒューはどうするのがいいと考えているのですか?」

「はい。実は資金の確保と武器の調達、傭兵の雇用に関して、動き出すタイミングが全て同じなんです。なので、その時に出鼻をくじいてやれば……」

「ほう……それはいつなんじゃ?」


 大公殿下が身を乗り出して尋ねる。


「はい……今から四年後の、皇立学院の卒業式の日の前後です」


 そう……これは、二回目の人生の時、毒を飲まされて床でのたうち回っている中、ルイスが(わら)いながら言ったんだ。


『ハハハ! 兄さんが俺の代わりに学院に通ってくれて、色々と動きやすかったよ! そのおかげで、資金調達にも目途が立って、ようやく連中(・・)と交渉のテーブルに着くことができるんだからな!』

『れ……連中(・・)……』

『最後のはなむけとして教えてやるよ。俺と父上は、この皇国を手に入れるんだ! そして、腐敗した世界を正してやるんだよ!』


 ルイスが恍惚(こうこつ)とした表情で延々と語る様が、今も僕の目に焼き付いている……。


「なら、その前に連中の企みを全て潰してやれば……」


 そう呟くメルザに、僕はかぶりを振った。


「違うんですか?」

「それじゃただ計画が失敗するだけですし、場合によってはグレンヴィル家に対して責任を追及できない可能性がありますから」

「まあのう……誰か()……つまり、下についておる伯爵家や子爵家あたりを身代わりにするじゃろうな……」


 顎髭(あごひげ)を撫でながら、大公殿下が頷く。


「なので、僕は全ての準備が整ったその時に、連中を奈落へと叩き落としたいんです……!」

「つまり……皇立学院の、卒業式で……」

「はい」


 そうだ……その時こそが、アイツ等の最後の時だ。

 あの恍惚(こうこつ)の表情を、絶望へと変えてやる……!


「……大まかなことは分かったわい。じゃが、万が一に備えて、どうやって資金を確保するのか、武器をどこから調達するのか、また、雇い上げる傭兵共はどんな連中なのか、それも教えてくれるかの?」

「はい」

「ふふ……それはいいとして、とりあえずの話もまとまったことですし、純粋にお茶を楽しみませんか?」


 クスクスと笑いながら、メルザがそう提案した。


「はっは! そうだったわい! なにせヒューゴ君……いや、婿殿の歓迎会なのじゃからな!」


 大公殿下が頭を撫でながら豪快に笑う。


 そんな二人を見て。


「はは……あはははは!」


 僕は生まれて初めて、声を出して心から大声で笑った。

お読みいただき、ありがとうございました!


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