陰謀の阻止と、貴族の買収に向けて
「フフ……ヒューゴに話したおかげで……進む道が決まったことで、これまで私を覆っていた霧が一気に晴れたぞ」
シモン王子が笑顔を浮かべながら、何度も頷く。
余程、シモン王子を苦しめ続けていたみたいだな……。
「それで、クロエはどうする?」
シモン王子は振り向き、クロエ令嬢に尋ねた。
これから彼がやろうとしていることは、言うなれば子息による王位簒奪。言い繕ったところで、その事実は変わらない。
クロエ令嬢はあくまでもオルレアン王国の貴族令嬢だから、実家がどんな方針なのかにもよるし、何より、こんな危ない橋を渡る必要だってない。
「……私は、シモン殿下とご一緒してこの皇国にやって来た時から、既に覚悟の上です……」
「…………………………」
「殿下……どうか、このままあなたにお仕えさせてください。お許しいただけるならば、あなたの剣となり、盾となってこの命に代えても、お守りいたします……」
「クロエ……分かった……」
跪き、首を垂れるクロエ令嬢。
そんな彼女を、シモン王子はただ受け入れた。
「これからの私達の進むべき道は決まったが、さて……ヒューゴ、これからどうすればいい……?」
「はい。では、まずは皇国がつかんでいる情報についてお話しておきましょう」
僕は、グレンヴィルのクーデターと第二皇妃の暗躍について、確認の意味も込めて説明した。
とはいえ、シモン王子もオルレアン王国が関与しているのだから、むしろ僕達よりも全容をつかんでいるかもしれないけど。
「……それと、ここ一か月の間に特殊な魔石が皇都で発見されています」
「? 特殊な魔石?」
「はい。ご存知ないですか?」
僕は、あえてシモン王子とクロエ令嬢に尋ねてみた。
「ふむ……そのような話は、聞いたことがないが……クロエ、どうだ?」
「私も存じておりません……」
だけど、二人は揃って首を左右に振った。
「ヒュー。あの魔石については、サウセイル教授の可能性が高いという話だったのでは……?」
「はい。メルザの言うとおり、サウセイル教授の仕業でしょうね」
おずおずと尋ねるメルザに、僕はそう答える。
「だったら、やはりオルレアン王国の件とはあまり関係が……」
「ですがメルザ、考えてみてください。シモン殿下の話と、タイミング的にも状況的にも、あまりにも合致しすぎていませんか?」
そう……魔石は、皇宮を中心として円を描くように皇都の外れで見つかった。
なら、少なくともサウセイル教授は皇都で何か事を起こそうとしていることは明白だ。
それが、どのような手段なのかは分からないけど。
「僕は今回の魔石の件とシモン殿下の話で、あのサウセイル教授がオルレアン王国と繋がっている……いえ、元々オルレアン王国側の人間なのではないかと疑っています」
「っ!? い、いや、だが私は一度たりともサウセイル教授と会ったことはないぞ!? なあ、クロエ!」
「はい。殿下のおっしゃるとおりです」
メルザも頷いているところを見ると、どうやらそれは本当のようだ。
でも、僕にはどうしてもオルレアン王国とサウセイル教授を切り離すことができなかった。
だから。
「……シモン殿下。サウセイル教授について、オルレアン王国内で見た者がいないか、調べてもらってもいいですか? 特に、国王の側近から調べるのがいいと思います」
「う、うむ……」
「それと来る時のために、オルレアン王国の貴族をできる限り買収しておきましょう。特に、お金に困っている貴族なら、お金をちらつかせればすぐに飛びつくと思います。これについてはクロエ殿にお願いしても?」
「はい……元々私の実家も第三王子派ですので、それは構わないのですが……その……レスタンクール家は裕福な家ではないため、お恥ずかしながら先立つものが……」
そう言って、クロエ令嬢は唇を噛んだ。
おそらく、クロエ殿の実家は不器用な家なのだろう。普通なら、もっと有力な第一王子あるいは第二王子の支援に回って勝ち馬に乗るからね。
「もちろん、資金についてはウッドストック家から提供いたします。なにせ、数か月前にサファイア鉱山を手に入れましたから」
「あ……ふふ、そうでしたね」
僕の言葉に、メルザがクスクスと笑った。
グレンヴィルがクーデターの資金としていたサファイア鉱山は、元々は僕のものだ。これがあれば、資金難で頭を抱えているオルレアン王国の貴族を買収するくらい、わけはない。
「ほ、本当にそこまでしていただけるなんて……このクロエ=レスタンクール、ヒューゴ様へどのように感謝をお示しすればよいか分かりません……」
「あはは、別に気にしなくていいですよ。これは、僕達のためにしていることなんですから」
「で、ですが……」
なおも感謝を示そうと詰め寄るクロエ殿に、僕は微笑みながら手で制する。
「それよりも、追ってウッドストック家の使用人を派遣しますので、サファイアに関してはその者と調整してください。もちろん、結果的に余ったお金をどう運用しようと、それはクロエ殿のご実家にお任せいたします」
「はい……本当に、ありがとうございます……!」
クロエ令嬢は涙を零しながら、深々と頭を下げた。
「さあ、そうと決まったらすぐに動き出しましょう。僕達に残された時間は、あと半年しかないんです。その間にオルレアン王国の陰謀を阻止し、シモン殿下が国王や兄弟姉妹達と戦う力をつけないといけないのですから」
「ああ!」
「はい!」
僕が両手を叩いてそう告げると、シモン王子とクロエ令嬢が力強く頷いた。
「ふふ……やっぱり、私のヒューは素晴らしい御方です……」
「あはは、ありがとうございます……」
誇らしげな表情を浮かべながら寄り添うメルザの肩を、僕はそっと抱き寄せた。
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