王位簒奪をそそのかす
「むうう……やはり、私達も一緒に行くべきだったか……!」
「あ、あはは……」
食堂に来た僕達は、さっそく第一皇子とリディア令嬢にせがまれて旅行の話をしたんだけど……うん、ものすごく悔しがっている。
「で、ですが殿下……その、私達も一度ブランドンの街に……」
「あ、う、うむ……そうだな……」
リディア令嬢が顔を真っ赤にしてうつむきながら、消え入りそうな声でそう告げると、第一皇子も同じく顔を赤くしながら頷いた。
おおー……リディア令嬢、かなり勇気を振り絞ったんじゃないだろうか。
「ふふ……二人の仲睦まじい姿を見ると、羨ましくなってしまいますね」
「そうなんですか? でしたら……」
クスリ、と微笑むメルザの呟きを受け、妙に対抗意識を燃やしてしまった僕はテーブルの下からそっと彼女の手を握ると。
「あ……ふふ、ヒューったら……」
メルザは頬を染め、嬉しそうにはにかんだ。
うん……第一皇子とリディア令嬢の仲が良いのは構わないけど、僕とメルザは世界一仲が良いんだからね。こればかりは譲れない。
「ところで、僕達はともかくお二人は何か変わったことなどはございましたか?」
「む……まあ、な……」
僕がそう尋ねると、第一皇子は言いにくそうに言葉を濁した。
何かあったんだろうか……。
「その……お二人は聞き及んでいらっしゃるかもしれませんが、レオノーラ皇妃殿下とアーネスト殿下が……」
「ああ……」
そうだったな……第二皇妃はアビゲイルに調理され、第二皇子は壊れてしまったと聞いている。
ひょっとしたら、アビゲイルは第二皇子にも何かしたのかもしれないな……今度、店を訪ねてみよう。
「……確かにアーネストとは、仲の良い兄弟と呼べなかったのは事実だ。だが、皇位継承について決着したあかつきには、共に手を取り合える時が来ると思っていたのだが……」
そう言うと、第一皇子は悔しそうな表情を浮かべ、テーブルに置いていた右手の拳を強く握りしめた。
「……クリフォード殿下、いつか、そのような時が来ますよ……」
「う、うむ……そうだな……」
僕は永遠にそんな日が来ないと分かっていながらも、そんな気休めを言う。
だけど、それを承知の上で第一皇子は静かに頷いた。
◇
「では、今日の授業はここまでとする」
モニカ教授の終了の合図を受け、生徒達は帰り支度を始める。
「さて……」
僕とメルザは頷き合って席を立つと、シモン王子とクロエ令嬢の席へと向かった。
「二人共……わざわざすまない……」
「いえ。それより、早く屋上に向かいましょう」
「う、うむ……」
僕達四人は、教室を出て屋上へとやって来た。
へえ……ここには入学してから初めて来たけど、学院が一望できてなかなかの景色だな。今度はメルザと二人きりで来よう。
「それで……相談、というのは……?」
「う、うむ……」
おずおずと声をかけると、シモン王子は言いにくそうに目を逸らしてしまった。
そしてすぐにこちらへと向き直り、顔を上げると。
「実は……これから半年の間に、オルレアン王国はこの皇都を消す、そうだ……」
「「っ!?」」
シモン王子のたどたどしい言葉に、僕とメルザは思わず息を飲んだ。
だけど……この皇都を消す……?
「そ、それはどうやって!? 目的は!?」
僕は思わずシモン王子に詰め寄って問い質す。
他の者の言葉だったなら、僕は与太話として笑い飛ばすかもしれないが、これはオルレアン王国の第三王子であるシモン=デュ=オルレアンの言葉だ。その様子からも、信ぴょう性は非常に高い。
「……分からぬ。だが、国王陛下は自信があるようだった……」
唇を噛み、うつむくシモン王子。
彼としても、このことに反対なんだろう。
「それで……半年以内ということは、それまでにシモン殿下は王国に戻られるのですか?」
「いや……陛下から言われたよ。『その時をかの国で迎え、全てを見届けよ』とな……」
なるほど……結局は、皇国がオルレアン王国への警戒を薄めるための、捨て駒にされたということか……。
「……シモン王子は、これからどうされます?」
「どう……とは?」
「決まっています。このまま捨て駒として終えるのか、それとも、こんな仕打ちをしたオルレアン王国に、国王に……父親に、一矢報いるのか」
「っ!?」
「ヒュ、ヒューゴ様!?」
僕の言葉に、シモン王子が息を飲み、クロエ令嬢が声を荒げる。
こんな反応を示すのも当然だ。だって、僕はシモン王子にオルレアン王国を裏切れと言っているのだから。
「シモン殿下……僕はつい二年前まで、実の父……家族に虐げられ、操られ、利用されてきました」
僕の言葉にシモン王子は何も言わずに耳を傾ける。
オルレアン王国がグレンヴィルにクーデターをそそのかしたのだから、第三王子であるシモン王子が知っていてもおかしくはない、か……。
「でも、ここにいるメルザと出逢えたおかげで、僕はその呪縛から解かれ、報いることができました」
「…………………………」
「シモン殿下、経験者としてハッキリと言います。このまま父親の言葉に従ったところで、あなたに未来はありません。なら……僕と手を組みませんか?」
そう言って、僕は右手を差し出す。
「あなたは……オルレアン王国の“若獅子”は、こんなところで終わるつもりはないのでしょう? この手を取ってくださるのなら、僕はシモン殿下がオルレアン王国の頂点に立つため、全力で支援します」
さあ……あとは、シモン王子次第。
僕は厳しい選択を迫ったけど、それでも、シモン王子だって理解しているはずだ。
生き残るには、もう、この道しかないのだということを。
だからこそ、この僕に相談を持ちかけたのだろうから。
「……ヒューゴ。君は私を支援してくれることへの見返りとして、何を求める?」
「僕が求めるものなんて、たった一つしかありません」
「それは……?」
おずおずと尋ねるシモン王子に、僕は左手でメルザの手を握った。
「愛するメルザとの、生涯幸せな日々です」
僕の言葉にシモン王子とクロエ令嬢が目を見開く。
「ヒュー……!」
メルザも、最高の笑顔を見せながら僕に胸に飛び込んできた。
そして。
「フフ……アハハハハハハ! そうか! 相変わらず君はブレないな!」
シモン王子は、左手で顔を覆いながら愉快そうに大声で笑った。
「ああ! ヒューゴ、君の言うとおりだ! 私はこのままでは終わらぬ! 必ずや、オルレアン王国の王として、あの地に戻ってみせる!」
「殿下!」
僕の差し出した右手を握りしめ、力強く宣言したシモン王子に、クロエ令嬢は歓喜の涙を零しながら跪く。
そんな二人を、僕とメルザは優しく見つめていた。
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