シモン王子の悩み
「む……ヒューゴ、メルトレーザ殿……」
「シモン殿下」
門の前でたたずんでいたシモン王子が、僕達を見るなり声をかけてきた。
だけど、その表情はどこか暗い。その一歩後ろに控える、クロエ令嬢も。
「お久しぶりです。それで……二人共、どうかなさったのですか?」
「う、うむ……ちょっとな……」
シモン王子は、どうにも歯切れが悪い。
本当に、何かあるのだろうか……。
「そ、その……ヒューゴは、何があったとしても私の友でいてくれるか……?」
「え、えーと……本当にどうしたんですか?」
「お願いだ……答えてくれ……!」
まるで縋るような瞳で、僕に答えを要求するシモン王子。
だけど、どこか追い詰められているように感じるのは気のせいだろうか……。
「……僕は、シモン殿下がメルザに危害を加えない限りは、あなたの友達ですよ?」
「! そ、そうか……」
シモン王子はどこかホッとしたような、それでいて泣きそうな表情で目を伏せた。
ある意味敵地であるサウザンクレイ皇国にありながら、常に堂々としたたたずまいのシモン王子が、ここまで不安そうな様子を見せるなんて……。
クロエ令嬢もクロエ令嬢で、普段はあまり感情を表情に出さないタイプの女性なのに、明らかに憔悴している。
そんな二人を見て、僕もメルザも困惑していると。
「きょ、今日の授業が終わったら、友であるヒューゴに相談したいことがある……どうか、私に時間をくれないか?」
「は、はあ……」
シモン王子の突然の言葉に、僕とメルザは顔を見合わせる。
ま、まあ、別に急ぎの用事があったりするわけでもないけど……。
「ヒュー……シモン殿下達は何か事情がある様子、話をお伺いしましょう……」
「メルザ……そうですね」
メルザの了解も得られたので、あらためてシモン王子に向き直ると。
「分かりました。では今日の授業が終わったあと、話をお伺いします。それで、場所は……」
「そ、それなら、学舎の屋上でどうだろうか? あそこなら、人もあまりいないからな」
「ええ、それで構いません」
「う、うむ! 本当に、助かる……!」
シモン王子は今にも泣きだしそうな表情で、僕の手を取って何度も感謝の言葉を述べた。
「ありがとう、ございます……!」
クロエ令嬢も、深々と頭を下げる。
「……とりあえず、間もなく授業も始まりますので、教室へ向かいましょう」
「う、うむ! そうだな!」
「はい……」
僕達四人は、一緒に教室へと向かう。
でも……僕は、シモン王子達が抱えているものが何なのか、そればかりを考えていた。
◇
「ヒューゴ! ようやく帰ってきたか!」
午前の授業が終わるなり、第一皇子が満面の笑みを浮かべながらわざわざ教室までやって来た。
な、なんというか、その……第一皇子にお尻に激しく揺れ動く尻尾の幻影が見えるんですけど……。
「全く……この私に断りもなく旅行に行くなど、薄情な奴だ。それで、もちろん土産は用意してあるのだろうな?」
「あ、あはは……」
第一皇子のこの態度に、僕はもはや苦笑するしかできない。
おかしいな……第一皇子といえば、感情をあまり表現せずにどこか不気味な印象を与えるような人だったのに、そんなイメージが完全に崩壊してる……。
「……殿下、ヒューゴ様が戸惑っていらっしゃいますし、もう少し落ち着いてくださいまし」
「む……そうか……」
眉根を寄せる婚約者のリディア令嬢にたしなめられ、第一皇子が少しだけシュン、となった。
リディア令嬢はこういうところは変わらないものの、素直に従っている第一皇子を見るに、どうやら上手くいっているみたいだ。
「ふふ……リディア様も、相変わらずクリフォード殿下には甘いですね」
「え? そうなんですか?」
「はい。ほら、クリフォード殿下を見つめるリディア様の口元が少し緩んで……「あああああ!? メ、メルトレーザ様!?」」
クスリ、と笑うメルザと僕の会話を耳聡く聞いていたリディア令嬢が、顔を真っ赤にして遮ってきた。どうやら図星だったらしい。
まあ、二人の仲が良さそうで何よりだ。
「コホン……と、ところで、二人も昼食はまだなのだろう? なら、これから一緒にどうだ?」
「はい、もちろん構いません。ですが、少々お待ちください」
僕は第一皇子に断りを入れると、席に座ったままのシモン王子とクロエ令嬢のところに向かった。
「シモン殿下、クロエ殿、お昼をご一緒いたしませんか?」
「ヒューゴ……私達が同席すれば、雰囲気が悪くなるだろう。だから、気にせずに君達だけで行ってきてくれ」
「……申し訳ありません」
シモン王子がうつむき、クロエ令嬢は深々と頭を下げる。
……とりあえずは、授業が終わった後に話を聞くまで、そっとしておいたほうがよさそうだ。
「分かりました……もし気が変わったのなら、僕達は食堂のいつもの席におりますので……」
「ああ……せっかく誘ってもらったのに、すまない……」
僕は二人から離れ、メルザと第一皇子達のところへ戻った。
「……シモン殿下は、一週間くらい前からずっとあの調子なのだ」
シモン王子を心配そうに見つめながら、第一皇子がポツリ、と呟く。
「……今は、そっとしておきましょう」
僕達は、シモン王子とクロエ令嬢を教室に残し、食堂へと向かった。
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