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旅行からの帰宅

「お爺様は、結局間に合いませんでしたね……」


 帰りの馬車の中、メルザが寂しそうにポツリ、と呟いた。


「さすがに大公殿下は皇国軍の最高責任者ですので、仕方ありません……」


 しかも、売国奴に成り下がったとはいえ、行方不明になったのはレオノーラ第二皇妃。

 たとえ発見されることも、犯人が見つかることもないことを知っているとはいえ、大公殿下だけ離れてしまっては部下達にも示しがつかないだろうしね……。


「なので、申し訳ないとは思いますが、ブランドンの街で買った大量のお土産で溜飲を下げていただくしかありませんね……」

「あ……ふふ、お土産で思い出してしまいました」


 そう言うと、メルザは僕を見てクスクスと笑った。


「え、ええとー……」

「ふふ、すいません……だってヒューったら、お土産のほとんどが食べ物ばかりだったんですもの」

「う……」


 メルザに指摘され、僕は声を詰まらせてしまった。

 た、確かにそうかもしれないけど、その……あの街は美味しいものが多すぎるのがいけないんだ。


「ですが、またヒューとの思い出ができましたね……」

「ええ……あなたとの、生涯忘れることのできない、素敵な思い出が……」


 僕はメルザの隣に席を移ると、そっと彼女を抱き寄せた。


「で、ですが、メルザの唇は、その……すごく柔らかかったです……」

「あう……は、恥ずかしいですから、あまり言わないでください……」


 メルザは恥ずかしそうに、両手で顔を覆ってしまった。


 でも。


「メルザ……もう一度、あなたの唇の感触を確かめてもいいですか……?」


 僕はメルザの両手の隙間から彼女の顔を覗き込み、おずおずと尋ねる。


 すると。


「……(コクリ)」


 メルザは顔を隠したまま、頷いてくれた。

 だから、僕はメルザの白い手を取ってその美しい顔を露わにする。


「あ……は、恥ずかしい……」


 顔を赤くしたメルザは、少しだけ困った表情を浮かべながら視線を泳がせた。


 そんな彼女の反応が、この上なく可愛くて……。


「ん……ちゅ……」


 僕はメルザのその桜色の唇に、そっと口づけをした。


「ん……そ、その、ヒューの血をいただくのも幸せですが、こうして口づけを交わすのも、この上なく幸せに感じますね……」

「僕もです……あなたの唇の感触を覚えてしまったら、僕はもう何度でも求めずにはいられません……」

「あ……ん……ちゅ、ちゅ……ふあ……」


 結局、僕とメルザは馬車の中で飽きることなく口づけを交わし続けた。


 ◇


「はっは! やっと帰ってきおったわい!」

「「お帰りなさいませ! ヒューゴ様! メルトレーザ様!」」


 皇都の大公家の屋敷に着くなり、玄関で大公殿下、ヘレンとセルマ、それに使用人のみんなが盛大に出迎えてくれた。


 グレンヴィル家にいた時は、精々エレンだけしか出迎えはいなかったけど、今はもうこうしてみんなが僕を歓迎してくれる。


 僕は、それがどれだけありがたいことなのか、心から理解している。

 だから、絶対にみんなへの感謝の気持ちは忘れない。


「では、早速土産話でも聞かせてもらおうかの!」

「ふふ! お爺様にお話しすることが多すぎて、どれにしようか迷ってしまいます!」


 大公殿下が待ちきれないとばかりにそんなことを言うと、メルザは両手を合わせながら嬉しそうにはにかむ。


「あ、そうそう。ヘレン、セルマ、それにみんなの分のお土産もあるから、ちゃんと受け取ってね」

「「「「「ありがとうございます!」」」」」


 僕はあらかじめ用意しておいたお土産リストをヘレンに渡して、大公殿下とメルザの後をついて応接室に向かった。


「それで、向こうではどう過ごしておったんじゃ?」

「はい!」


 メルザは、ブランドンの街でのことを大公殿下にたくさん話した。


 街で魚介類の屋台でたくさん買って食べたこと。

 カフェで珍しいジュースを飲んだこと。

 夜空に燦然と輝く花火を、砂浜で二人並んで眺めたこと。


 さ、さすがに、花火の後にメルザと口づけを交わしたことは言わなかったけど……。


「……あの街でヒューと過ごした全てが、まるで夢のようでした……」

「はっは! それはよかったわい! なら、ヒューと結婚したあかつきには新婚旅行はブランドンの街でもいいかもしれんの!」

「あ、あはは……た、確かに、それはいいですね……」


 新婚旅行の話が飛び出し、僕は妙に緊張してしまった。

 だって、あと二年と少しすれば、僕はメルザといよいよ夫婦になるわけで……うう、正直待ち遠しくて仕方がない。


 メルザと夫婦として過ごす日々は、どれほど満ち足りたものなんだろうか……。


「あ……ふふ、ヒューったら、結婚式のことか新婚旅行のこと、そのどちらかを考えていたでしょう?」

「あはは、残念ながらはずれです。僕は、結婚した後のメルザとの幸せな日々を想像していました」

「あう……も、もう……」


 メルザは予想外の答えに、頬を赤らめながらも嬉しそうにはにかむ。


「うむうむ、二人共仲睦まじく過ごしていたようで何よりじゃ」

「あ、あはは……それで、大公殿下のほうは、お仕事はいかがでしたか?」

「うむ……それなんじゃが……」


 すると、大公殿下は僅かに視線を落とした。


「ええと、どうかしたんですか?」

「そうじゃの……二人には、話しておこう」


 大公殿下の真剣な表情を見て、僕とメルザは居住まいを正した。


「実は、皇宮を中心として円を描くように、皇都の外れで圧縮された魔石が発見された」

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