確信 ※シリル=オブ=ウッドストック視点
■シリル=オブ=ウッドストック視点
「やれやれ……せっかくの休暇がパーじゃ……」
ゲートによって皇都へと戻ってくるなり、私は皮肉を込めてオリバーにぼやく。
本当なら、可愛い孫娘と大事な息子と、家族水入らずで過ごすはずじゃったのに……。
「大公殿下、諦めてください。さすがにレオノーラ第二皇妃殿下が行方不明となってしまった以上、責任者不在では皇国の面目が立ちません」
「……皇宮の警備責任者は私ではなく、近衛騎士団長のマクレガン卿じゃが?」
「もちろん、マクレガン閣下も鋭意調査を行っております……皇宮内のみですが」
「ハア……」
オリバーの小言に皮肉で返すが、さらにガッカリな事実を告げられ、私は盛大に溜息を吐いた。
全く……いつまで自分の領分にこだわっておるのじゃ……相変わらず融通の利かん奴よのう……。
「まあいいわい。とにかく、皇宮へ急ぐぞ」
「はっ!」
私とオリバーは馬を走らせ、皇宮に入ると早速調査状況を確認する……が。
「……アーネスト殿下は無事ではなかったのか?」
「はい、無事ではあります。あくまでも、その命は、ですが」
「あはは……あははははははははは……!」
目の前にいるアーネスト殿下が、虚ろな目でよだれを垂らしながら薄ら笑いを浮かべている。
何があったかは知らんが、これでは完全に心を壊されておるではないか……。
「……一応聞くが、例の薬のせい、というわけではないのじゃな?」
「はい。あれから薬を服用してはおりません、念のため治癒師の診察も行いましたが、薬ではなく精神が崩壊しているとのことです」
「そうか……」
“影縫いアビゲイル”め……一体アーネスト殿下に何をしたんじゃ……。
すると。
「大公殿下!」
「なんじゃ、やかましいのう……」
大声で私を呼びながら、マクレガン卿が勢いよくここへやって来たので、私は思わず顔をしかめた。
「此度の件、大公殿下の手を煩わせてしまい、申し訳ございませぬ!」
「わ、分かった、分かったから耳元ででかい声を出すな」
深々と頭を下げ、大声で謝罪するマクレガン卿に、私は耳を塞ぎながらたしなめる。
「そんなことより、オリバーに聞いたがレオノーラ殿下の部屋にシチューがあったというのは誠か?」
「はっ! ただ、シチューのみがテーブルにありました!」
「ふむう……まるで、おとぎ話に出てくる“影縫いアビゲイル”みたいじゃの」
私は顎鬚を撫でながら、白々しくもそんなことを呟いてみる。
「まさか! “影縫いアビゲイル”といえば、所詮は架空の人物ですぞ! とても現実主義者であらせられる大公殿下のお言葉とは思えませぬ!」
「こればかりはマクレガン閣下の言葉に私も賛成です。おそらくは、犯人はおとぎ話を利用し、我々の捜査を攪乱しようという魂胆でしょう」
私の言葉は、この二人によって全否定された。
まあ……事実は小説より奇なり、であるからの。
「いずれにせよ、もう一度皇宮内の使用人、それからレオノーラ殿下が消えた当日の皇宮付近にいた者を洗いざらい調べ上げるのじゃ」
「「はっ!」」
私の指示を受け、マクレガン卿とオリバーは調査へと向かう。
「……骨折り損ですまんのう」
そんな二人の背中を眺めながら、私はポツリ、と呟いた。
◇
レオノーラ第二皇妃殿下が行方不明となってから三日。
マクレガン卿やオリバーが必死に捜索を続けるが、手掛かりすら一向に見つからない状況が続いている。
まあ、当たり前なのじゃが……。
私はといえば、捜索は二人に指揮を任せ、ハルバードを振るって鍛錬に勤しんでいた。
ブランドンの別荘での稽古でも思ったが、婿殿はさらに強くなっておった。
剣術では、その実力は既に大きく水をあけられているのだ。このままでは、皇国の武の象徴として……いや、父親として、面目が立たん。
すると。
「大公殿下」
「む……オリバー、険しい表情をしてどうしたんじゃ?」
捜索から戻ってきたオリバーが、この訓練場に顔を出したのじゃが……どうにも様子がおかしい。
なので、何があったのか尋ねてみると。
「は……捜索していた兵士の一人から、皇都の外れでこのようなものを発見したそうです」
「これは……魔石じゃの」
じゃが、私が知っている魔石とは少し違う。
完全な球体の中央に、魔法陣のようなものが描かれていた。
「それで、早速魔法使いに確認させましたところ、かなりの魔力が秘められていることが分かりました。それも、どうやら複数の魔物の魔石を圧縮して作られたもののようです」
「ほう……?」
なるほど……確かに、そんな珍しい代物が皇都の外れに転がっておったら、嫌でも気になるのも頷けるわい。
「しかもその魔法使いによれば、これだけの高密度の魔石となると、暴発してしまうとかなりの悪影響を及ぼすとのことです」
「悪影響、のう……具体的には?」
「……最悪、この魔石を中心としてかなりの範囲のものが消し飛んでしまうとのことです」
「……そうか」
オリバーのその言葉で、この魔石は悪意をもって作られたことは明白じゃ。
ならば、魔石を作ったのは……皇都の外れに転がしておいたのは誰なのか、ということじゃが……。
「まあ、普通に考えればシェリルの奴、じゃの……」
とはいえ、あやつがそんなすぐに見つかるような場所に、これほど魔石を転がしておくはずもない。
ならば。
「はっは……この私を試すとは、気に入らんのう……」
そう呟き、私は思わずハルバードで目の前の練習用の案山子を粉々に打ち砕いた。
「オリバー。レオノーラ殿下の捜索は中断、すぐに皇都内でこの魔石と同じものがないか、全軍でくまなく調べさせよ」
「はっ!」
オリバーは敬礼をすると、すぐにこの場を離れた。
「ふう……婿殿とメルが帰ってきたら、このことも話しておかねばなるまいの」
できれば私だけで解決しておきたいところじゃが……おそらくは大切なあの二人が、深く関与することになるだろう。
そして。
「……皇都を救うのは婿殿とメル、じゃろうの」
何故か私には、そんな確信があった。
お読みいただき、ありがとうございました!
明日から第三部 原初の魔女編の開始です!
どうぞお楽しみに!
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