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生みの母 ※シェリル=サウセイル視点

■シェリル=サウセイル視点


「……だそうですが、いかがでしょうか?」


 シモン王子が退室したのを見届けると、オルレアン王国国王、フレデリク=デュ=オルレアンが後ろへと振り向いて敬語(・・)で尋ねる。


「ウフフ……確かに、ヒューゴさんはすごい逸材(・・)ですね~」


 私は、いつものように間延びした声で答えた。

 そう……サウザンクレイン皇国が建国されてから今日(こんにち)、その約三百年の時の中で、私も彼ほど資質を備えた者は数えるほどしか知らない。


 ……いや、資質というより、狂気(・・)と言ったほうが正しいかもしれない。


「ほう……? このオルレアン王国の生母(・・)であらせられる、“原初の魔女”であるあなた様にそこまで言わしめるとは……侮れませんな」

「ウフフ、そうでもないわよ~」


 顎をさすりながら頷くフレデリクに対し、私はからからと笑う。

 逸材であることには違いないけど、まだ(・・)私の敵ではない。


 ……まあ、彼の素質を極限まで伸ばせるような師がいて、数十年も鍛えれば違うかもしれないけど。


「その前に、この私が消して(・・・)しまい(・・・)ますし~(・・・・)


 ええ、私の邪魔となる者は全て排除する。

 たとえ、誰であったとしても。


「とはいえ、あのヒューゴさんには真祖(・・)の娘もいるから、少しだけ面倒ですが~」


 先のサウザンクレイン皇国とオルレアン王国の戦に突然介入してきた、魔族の最上位に位置するヴァンパイアの真祖、“エルトレーザ=オブ=ウッドストック”。

 さすがに彼女を相手にした時は、この私も肝を冷やした。


 そのせいで、私は深手を負って治療と魔力の回復に終始することになってしまった。

 まあ……回復にはサウザンクレイン皇国の連中の血で賄い、さらにはいくつかの影(・・・・・・)を落としておいたから、それで溜飲は下げておいたけど。


「……真祖が私と互角に戦えた以上、その娘であるメルトレーザさんも同等の力を持っていると考えておいたほうが間違いなさそうですしね~」

「……全く、とんだ怪物(・・)を落としてくれたものですな……」


 そう言って、フレデリクはかぶりを振った。


「ええ……ですが、あの()と同じで、愛した男が足枷となっていますから、排除するのはそう難しくはありませんが~」


 あの真祖との時は、先に男のほうを始末しようとしたのが間違いだった。

 そのせいで真祖の逆鱗に触れ、私は追い詰められてしまったのだから。


「いずれにせよ、ヒューゴさんとメルトレーザさんに関しては、あの子達(・・・・)だけでも充分です~。それより」


 私はフレデリクの正面に立ち、口の端を吊り上げながら彼の顎を持ち上げると。


「……次も(・・)失敗したら、今度こそこの国を消すぞ?」

「は、はっ……」


 フレデリクは、身体を小刻みに震わせながら目を伏せた。


 ◇


「ふう……ですが、本当に面倒なことばかりしてくれますね~……」


 オルレアン王国の王都にある屋敷に戻ると、私は深く息を吐いた。

 フレデリクにはああ言ったけど、実は私の身体はまだ完全には癒えていない。


 それほど、あの真祖が残した私の傷は深かった。


「……本当に、忌々しい」


 そう呟き、私はギリ、と歯噛みする。

 とりあえずは、グレンヴィルのクーデターやレオノーラ第二皇妃の暗躍をオルレアン王国として仕掛けたことで、サウザンクレイン皇国は混乱させ、国力を低下させることだけは成功した。


 ……まあ、期待していた成果には程遠いけど。


 そして、必要な準備が整い次第、皇国に潜伏していた時に仕掛けておいた、あの魔法陣(・・・)を発動させる。

 そうすれば、皇都の全てを無に帰すことができるのだ。


 とはいえ、皇国には大公殿下やモニカが、それ以外にもパートランド卿などの優秀な人材が今も数多く残っているので油断はできない。

 何より……ヒューゴさんとメルトレーザさんの存在は余計だ。


「……私の身体が万全なら、話は違ったのですがね~」


 まあ、ないものねだりをしても仕方がない。

 私の代わり(・・・・・)は既に用意してあるし、何ならメルトレーザさんを手に入れることができれば、彼女の膨大な魔力を吸収して一気にこの身体を回復することも可能だ。


 そのためには。


「「「「「「シェリル様、お帰りなさいませ」」」」」」


 六人の若い男女が一斉に(ひざまず)き、(こうべ)を垂れて出迎える。

 この私が作り上げた、最高傑作(・・・・)達。


「ウフフ……ただいま~。それより、ちゃんと言いつけは守った~?」

「はい。ご指示どおり、魔族の生息調査は順調です」

「王国南部での捜索は完了し、残すは北西部にある“漆黒の森”のみですわ」

「あ? それは俺の手柄じゃねーか!」

「……うるさい。黙れ脳筋」

「ププ、脳筋だって。ねー!」

「ねー!」


 子ども達(・・・・)は、私に褒めてほしいのか我先にと報告する。

 ウフフ……可愛いわね。


「みんな、よく頑張ったわね~。今日は特別に、可愛がって(・・・・・)あげるわよ~(・・・・・・)?」


 そう告げた瞬間、子ども達が瞳を爛爛(らんらん)と輝かせた。

 本当に、欲に忠実なんだから。


「さあ、大いに楽しみましょう~」

「「「「「「はい!」」」」」」


 いつもの部屋(・・・・・・)に入るなり、早速彼等は私を求め、私は彼等から魔力を貰う。


「ああ……シェリル様、シェリル様あ……!」

「ウフフ……早く逢いたいわ~……!」


 六人が快楽に溺れる中、私はただ、あの人(・・・)を思い浮かべて恋焦がれる。


 ああ……私を裏切り、捨てた“ナイジェル”様……。


 ――今度こそ、あなたを私のものに(・・・・・)

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