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阻止する男 ※シモン=デュ=オルレアン視点

■シモン=デュ=オルレアン視点


「むう……ヒューゴめ、私に内緒で旅行に行くなんて、酷いではないか……」


 午前の授業が終わって食堂で昼食を摂っている中、わざわざ私達の席に来たクリフォード第一皇子が愚痴を吐く。

 正直、そんなことを私に言われても困るのだが……。


「それなら、ヒューゴ達が向かった旅行先に行って合流すればよいのでは?」

「っ! そ、そんな真似ができるわけがなかろう! 万が一、そのせいでヒューゴ達に嫌われでもしたらどうするのだ!」


 せっかく提案したのに、クリフォード皇子は声を荒げる。

 いや、気持ちは分かるが、だからといってどうしろというのだ……。


「フフ……殿下、落ち着いてくださいまし。せっかくの家族水入らずなのです、私達はメルトレーザ様達のお土産話を楽しみに待ちましょう」


 そう言って微笑みながら、優雅にお茶を口に含むリディア令嬢。

 あれほどメルトレーザ殿に心酔していたはずなのに、この余裕はなんだろうか……。


「……リディアはよいなあ。旅行に行く前に、メルトレーザから教えてもらっておったのだから」

「フフ、実は旅先からお手紙も頂戴しているんです」


 そう言って、リディア令嬢はこれ見よがしに手紙を取り出し、それで口元を隠しながら微笑む。

 一方で、それを悔しそうに見つめるクリストファー皇子。


 ……私は一体、何に付き合わされているのだ。


 すると。


「殿下……」


 珍しく別行動をしていたクロエが、青ざめた表情で食堂へ飛び込んできた。


「クロエ……一体どうした?」

「は、はい……」


 心を落ち着けるかのようにクロエが数回深呼吸をし、いつになく真剣な表情で私を見据える。


 そして。


「……たった今、本国から通達がありました。直ちに一時帰還するようにとの王命です」


 ◇


「……お久しぶりです、陛下」


 王命を受け、私とクロエはゲートを通って王都に帰還すると、真っ先に父である国王陛下へと謁見した。


「うむ、息災にしておったか?」

「おかげ様で、サウザンクレイン皇国でも温かく迎え入れてもらっております」

「そうか」


 そう答えると、国王陛下はさして興味もなさそうに息を吐いた。


「今回、お主を呼び戻したのは他でもない。あらかじめ、伝えておこうと思ったからじゃ」

「……何をでしょうか?」


 国王陛下の言葉の意味が分からず、私は思わず尋ね返す。

 ただの伝言であれば手紙だけで済むはずなのに、わざわざ呼び出すほどのことというのは……。


「うむ。これから一年の間に、サウザンクレイン皇国の皇都にいる者全てを、絶望へと導くことにした」

「っ!?」


 国王陛下の言葉に息を飲むも、言っている意味が分からず、私は思わず呆けてしまった。


「そ、その……それはどういう意味、なのでしょうか……?」

「なんじゃ、分からんのか? ならばパスカル、シモンに教えてやるのじゃ」

「は、は……」


 答えられなかった私を口の端を持ち上げながら眺めていた第一王子のパスカルが、国王陛下に突然話を振られて顔から大量の汗を流している。

 どうやらパスカルも、この件については教えてもらっていないようだ。


 見ると、第二王子のロマンや第一王女のリュディヴィーヌも、自分に飛び火しないようにと祈るかのように、そっと目を伏せている。


「ハア……やれやれ、仕方ないのう……」


 国王陛下は溜息を吐き、かぶりを振った。


「よいか。サウザンクレイン皇国は二度の混乱により、今はその体制も脆弱じゃ。そこへ、余はさらなる混乱(・・・・・・)を招いてやるのじゃ」

「……そのさらなる混乱(・・・・・・)、とは……?」

「なに、皇都に住む者……それこそ、皇帝も含めて何もかもを消し去ってやるのじゃ」

「っ!?」


 消す!? あの巨大な皇都全てを!?


「そ、それは、武力をもって破壊し尽くす、ということでしょうか?」

「いや、違う。そのような無駄なことをせずとも、もっと効率的に、しかも一瞬で可能じゃ」


 ば、馬鹿な……。

 あの皇都には、平民達も含めると百万人は優にいるのだ……そのような真似、できるはずもない……。


「まあよい。とにかく、早ければ半年以内にも、それが実行に移されることになるじゃろう」

「は、は……」

「さて、シモン……今の話で分かったじゃろう。つまり、お主もあの皇都におったままでは、半年後には一緒に消えることとなる」

「……では、今回の私の帰還命令は、戦火から逃れるための陛下の温情、ということでしょうか?」

「そうじゃな……要はその時をかの国で迎え、全てを見届けよ、ということじゃ」


 ……そうか。どのような方法かは分からんが、この私を皇国に置いたままにして相手を油断させておき、その隙を突いてそれ(・・)を実行するということか。


 つまり……私は切り捨てられたのだな。


「……かしこまりました。では、用件はこれでお済みということでよろしいでしょうか?」

「うむ、下がってよい」

「はっ」


 私は立ち上がって恭しく一礼し、嘲笑を浮かべた兄弟姉妹達の視線を受けながら謁見の間を去ろうとして。


「ああ、そうそう」


 出口で立ち止まり、国王陛下を見据える。


「サウザンクレイン皇国に留学し、一つ分かったことがあります」

「……何じゃ?」

「かの国には、“戦鬼”シリル=オブ=ウッドストックを超える者がおります」

「ほう……何者じゃ?」


 国王陛下が身を乗り出し、謁見して初めて興味深そうに尋ねた。

 そう……ウッドストック大公家の後継者である、まさに、サウザンクレイン皇国の輝く原石。


 そして、この私の唯一無二の友。


「――“ヒューゴ=オブ=ウッドストック”」


 彼の名を……国王陛下の思惑を阻止するであろう男の名を告げ、私は今度こそ謁見の間を退室した。

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