表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/241

目的

「グス……す、すいません……」


 心配する二人に、僕は立ち上がって謝罪する。


「い、いえ……ヒュー、大丈夫なんですか……?」

「はい……大公殿下は、ずっと手加減してくださってましたから」

「そ、そうですか……」


 それを聞いてようやく安心したのか、メルザは胸を撫で下ろした。


「じゃが、どうして泣いてしまったのか、教えてくれんかの……?」

「は、はい……こうやって厳しくも優しく教えていただいたことが、その……初めてで、嬉しくて……」


 心配そうに尋ねる大公殿下に、僕は素直に話した。


「そ、そうか……じゃが、私でよければいくらでも稽古をつけてやるとも! それこそ、皇国最強にしてみせようぞ!」


 大公殿下は顔を上気させ、僕の背中をバシバシと叩く。

 はは……痛いけど嬉しい……。


「あ、そ、それよりも、メルザは外に出ても、その……大丈夫なんですか?」

「え? どうしてですか?」

「いえ……ヴァンパイアは、太陽の光に弱いと……」


 キョトン、とするメルザに僕はそう言うと。


「ふふ……大丈夫です。こうやって傘も差していますし、陽にあたったとしても少し赤くなってヒリヒリするだけですから」


 彼女はなんでもないとばかりに微笑んで見せた。


「で、でも! 赤くなってしまうのなら建物の中に入らないと!」

「本当に、大したことはないですから……」

「そ、そうはいっても、その白くて綺麗な肌が赤くなってしまうんですから!」

「あう……も、もう……ヒューは思ったよりも過保護なんですね」


 僕の顔を(のぞ)き込みながら、メルザが苦笑した。

 でも、どこか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか……。


「はっは! これはこれは、たった一日でそこまで仲良くなるとは、嬉しい限りじゃわい!」

「ふふ……だってヒューですもの、当然です」

「はは……」


 豪快に笑う大公殿下と、嬉しそうに胸を張るメルザ。


 僕はそんな二人を眺めながら、口元を緩めていた。


 ◇


「す、すごい……!」


 軽く汗を拭いてから食堂に来ると、テーブルの上に所狭しと並べられている料理の数々に、僕は思わず感嘆の声を漏らした。


 え、ええと……これって朝食、だよね……?


「ふふ、料理長が腕に縒りをかけて作ったんですよ?」

「そ、そうなんですね……」

「はっは、まずは席に着こうではないか」


 大公殿下に促され、僕はメルザの向かい側に座った。


「では……ヒューゴ君、ようこそウッドストック家へ。そして、新たに家族(・・)となるヒューゴ君に……乾杯!」

「乾杯」

「か、乾杯」


 大公殿下の音頭によって、乾杯をする。

 僕はといえばこんなことは初めてなので、緊張しながら同じように見よう見まねでグラスを持ち上げた。


「ヒュー、この鴨のテリーヌは料理長の得意料理なんです」

「そ、そうなんですね」


 い、一応、テーブルマナーについても勉強して訓練してきたから、だ、大丈夫だよね……?


「なんじゃヒューゴ君、動きが固いぞ?」

「そ、そうでしょうか……」

「ふふ……ヒュー、緊張しなくても大丈夫ですよ」


 はは……どうやらメルザには全部お見通しらしい。

 僕はたどたどしく鴨のテリーヌをナイフで一口サイズに切ると、口に運んだ。


「お、美味しい……」

「ふふ、でしょう?」

「はい! うわあ……こんな美味しいもの、生まれて初めて食べました……!」


 いつもは固いパンや、野菜くずしか入っていないスープばかりだったとはいえ、世の中にはこんなに美味しいものがあるんだな……。


 僕は何度も噛みしめてその味を堪能していると。


「「…………………………」」

「あ……ど、どうしました……?」


 二人にジッと見られ、僕は思わずたじろいでしまう。

 や、やっぱり僕のマナーがなっていなくて、不快な思いでもさせてしまったんだろうか……。


 すると。


「ヒュー……こ、こちらの料理も美味しいですから!」

「そ、そうじゃそうじゃ! これも食べるとよいぞ!」

「は、はあ……」


 何故か二人が、鼻息荒く次々と料理を勧めてくるんだけど……。


 そんな感じで、僕は二人に次々と料理を勧められたけど、その全部が美味しくて、ひょっとしたらこれが最後の晩餐(ばんさん)になるんじゃないかと錯覚してしまうほどだった。


 そして、食後の紅茶がカップに注がれると。


「さて……ヒューゴ君、私に話したいことがあるんじゃないかの……?」


 打って変わって険しい表情になった大公殿下が、話を振ってきた。

 ひょっとして……。


 チラリ、とメルザを見やると……彼女は真紅の瞳で僕を見つめながら、静かに頷いた。

 本当に……君は……。


「……僕は、このウッドストック大公家で果たしたい目的(・・)があって、こうしてやってきました」

「ほう? 目的(・・)というのは何じゃ?」

「はい……」


 さあ、言おう。

 僕は……僕の目的(・・)を果たすために。


「……僕が、グレンヴィル侯爵家に……家族に復讐をするために、ウッドストック大公家の力を手に入れることです」

お読みいただき、ありがとうございました!


少しでも面白い! 続きが読みたい! と思っていただけたら、

『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!


評価ボタンは、モチベーションに繋がりますので、何卒応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ