目的
「グス……す、すいません……」
心配する二人に、僕は立ち上がって謝罪する。
「い、いえ……ヒュー、大丈夫なんですか……?」
「はい……大公殿下は、ずっと手加減してくださってましたから」
「そ、そうですか……」
それを聞いてようやく安心したのか、メルザは胸を撫で下ろした。
「じゃが、どうして泣いてしまったのか、教えてくれんかの……?」
「は、はい……こうやって厳しくも優しく教えていただいたことが、その……初めてで、嬉しくて……」
心配そうに尋ねる大公殿下に、僕は素直に話した。
「そ、そうか……じゃが、私でよければいくらでも稽古をつけてやるとも! それこそ、皇国最強にしてみせようぞ!」
大公殿下は顔を上気させ、僕の背中をバシバシと叩く。
はは……痛いけど嬉しい……。
「あ、そ、それよりも、メルザは外に出ても、その……大丈夫なんですか?」
「え? どうしてですか?」
「いえ……ヴァンパイアは、太陽の光に弱いと……」
キョトン、とするメルザに僕はそう言うと。
「ふふ……大丈夫です。こうやって傘も差していますし、陽にあたったとしても少し赤くなってヒリヒリするだけですから」
彼女はなんでもないとばかりに微笑んで見せた。
「で、でも! 赤くなってしまうのなら建物の中に入らないと!」
「本当に、大したことはないですから……」
「そ、そうはいっても、その白くて綺麗な肌が赤くなってしまうんですから!」
「あう……も、もう……ヒューは思ったよりも過保護なんですね」
僕の顔を覗き込みながら、メルザが苦笑した。
でも、どこか嬉しそうに見えるのは気のせいだろうか……。
「はっは! これはこれは、たった一日でそこまで仲良くなるとは、嬉しい限りじゃわい!」
「ふふ……だってヒューですもの、当然です」
「はは……」
豪快に笑う大公殿下と、嬉しそうに胸を張るメルザ。
僕はそんな二人を眺めながら、口元を緩めていた。
◇
「す、すごい……!」
軽く汗を拭いてから食堂に来ると、テーブルの上に所狭しと並べられている料理の数々に、僕は思わず感嘆の声を漏らした。
え、ええと……これって朝食、だよね……?
「ふふ、料理長が腕に縒りをかけて作ったんですよ?」
「そ、そうなんですね……」
「はっは、まずは席に着こうではないか」
大公殿下に促され、僕はメルザの向かい側に座った。
「では……ヒューゴ君、ようこそウッドストック家へ。そして、新たに家族となるヒューゴ君に……乾杯!」
「乾杯」
「か、乾杯」
大公殿下の音頭によって、乾杯をする。
僕はといえばこんなことは初めてなので、緊張しながら同じように見よう見まねでグラスを持ち上げた。
「ヒュー、この鴨のテリーヌは料理長の得意料理なんです」
「そ、そうなんですね」
い、一応、テーブルマナーについても勉強して訓練してきたから、だ、大丈夫だよね……?
「なんじゃヒューゴ君、動きが固いぞ?」
「そ、そうでしょうか……」
「ふふ……ヒュー、緊張しなくても大丈夫ですよ」
はは……どうやらメルザには全部お見通しらしい。
僕はたどたどしく鴨のテリーヌをナイフで一口サイズに切ると、口に運んだ。
「お、美味しい……」
「ふふ、でしょう?」
「はい! うわあ……こんな美味しいもの、生まれて初めて食べました……!」
いつもは固いパンや、野菜くずしか入っていないスープばかりだったとはいえ、世の中にはこんなに美味しいものがあるんだな……。
僕は何度も噛みしめてその味を堪能していると。
「「…………………………」」
「あ……ど、どうしました……?」
二人にジッと見られ、僕は思わずたじろいでしまう。
や、やっぱり僕のマナーがなっていなくて、不快な思いでもさせてしまったんだろうか……。
すると。
「ヒュー……こ、こちらの料理も美味しいですから!」
「そ、そうじゃそうじゃ! これも食べるとよいぞ!」
「は、はあ……」
何故か二人が、鼻息荒く次々と料理を勧めてくるんだけど……。
そんな感じで、僕は二人に次々と料理を勧められたけど、その全部が美味しくて、ひょっとしたらこれが最後の晩餐になるんじゃないかと錯覚してしまうほどだった。
そして、食後の紅茶がカップに注がれると。
「さて……ヒューゴ君、私に話したいことがあるんじゃないかの……?」
打って変わって険しい表情になった大公殿下が、話を振ってきた。
ひょっとして……。
チラリ、とメルザを見やると……彼女は真紅の瞳で僕を見つめながら、静かに頷いた。
本当に……君は……。
「……僕は、このウッドストック大公家で果たしたい目的があって、こうしてやってきました」
「ほう? 目的というのは何じゃ?」
「はい……」
さあ、言おう。
僕は……僕の目的を果たすために。
「……僕が、グレンヴィル侯爵家に……家族に復讐をするために、ウッドストック大公家の力を手に入れることです」
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