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親子の付き合い

「うわあ……! さすがは皇国一の保養地、活気がありますね!」


 無事に“ブランドン”の街に到着し、僕は思わず感嘆の声を上げる。

 この街は、元々は小さな漁師の街だったけど、三十年前に温泉が発見されたことにより、今のような一大保養地となったのだ。


「はっは! では婿殿、早速別荘へ行って、温泉に入ろうぞ!」

「はい!」


 ということで、まずはこの街にあるウッドストック家の別荘へと向かう。

 今回、ブランドンの街へ旅行することになった時に大公殿下にお伺いしたのだけど、この街に温泉が発見されると、大公殿下はすぐに別荘を建てたらしい。

 元々病弱だった、大公殿下の奥方様のために。


 そして。


「はあ……素晴らしい温泉ですね……」

「はっは、じゃろう?」


 大公殿下と僕は、湯船に浸かりながら至福の溜息を漏らす。

 温泉は熱すぎずぬるすぎず、ちょうどいい湯加減だ。


「こうやって、温泉に浸かりながらワインを飲むのが最高なんじゃ」


 そう言って、大公殿下はグラスになみなみと注がれたワインを一気にあおる。


「じゃが、メルも一緒に入ればいいのにのう……せっかく、こんなに気持ちよいというのに……」

「た、大公殿下、お願いですからそれは……!」


 残念そうにする大公殿下に、僕は慌てて釘を刺す。

 もちろんメルザと一緒に温泉に入りたくないかといえば、入りたいに決まっているけど、そ、その……多分、僕はメルザの一糸まとわぬ姿を見てしまったら、心臓がどうにかなってしまうと思う……。


「はっは! 婿殿も今どきの若い者には珍しいくらいウブじゃのう!」

「うう……メ、メルザなんですから当然ですよ……」


 豪快に笑いながら、僕の背中をバシバシ叩く大公殿下。

 でも、メルザみたいに世界一美しくて素敵な女性なら、僕みたいになってしまうのは仕方ないというものだ。


「全く……婿殿は、若い頃の私にそっくりじゃわい……」

「それは当然です。だって僕は、大公殿下の息子ですから」

「はっは、そうじゃったの……」


 そう言うと、大公殿下は少し寂しげに笑った。


「……もう一人の息子……つまりメルの父親は、逆に私とは正反対の奴での……剣術も槍術も、武に関する全てが苦手な奴じゃった……」


 それから、大公殿下はメルザの父君……“オラシオ=オブ=ウッドストック”について色々と話してくれた。


 皇国の武である大公殿下とは異なり、子どもの頃から武術そっちのけで書物を読み漁っていたこと。

 何度も武術に興味を持たせようとあの手この手と画策するも、結局は本に埋もれているような人らしい。


 奥方様から、『オラシオの好きにさせてあげてください』との言葉を受け、大公殿下は渋々諦めたらしい。


 その後、皇立学院ではその優秀な頭脳から頭角を現し、“皇国の麒麟児”と呼ばれるまでに至ったのだとか。


 そして、ゆくゆくは皇国を支える柱となることを期待されていた、んだけど……。


「……私がオルレアン王国との遠征に同行させたことが、仇となってしもうた……」


 そう言うと、大公殿下は悔しそうに眉根を寄せる。

 それほど、大公殿下の心に傷となって残ってしまっているんだろう……。


 でも。


「大公殿下……以前、メルザが言っていました。メルザの母君はヴァンパイアの真祖だから簡単に死んだりなんてことはないはず。そのうち、父君と一緒に帰ってくるのではないか、と……」

「うむ……そうじゃの……」


 僕の言葉に、大公殿下は力なく頷いた。


 ◇


「ふわあ……こ、これは……!」


 温泉から上がり、僕達は料理長が作った、ブランドンの街で獲れた魚介類の料理に舌鼓を打っているんだけど……ふわあ!


「ふふ! ヒューの美味しそうに食べる姿は、いつ見ても可愛いですね!」

「で、ですけど、こんなに美味しい料理を食べてしまっては仕方ないですから!」


 嬉しそうに笑うメルザにそんなことを言われてしまい、恥ずかしいけれど我慢できなくてそんな言葉を返してしまった。


「うむ! 婿殿、こちらの料理も美味いぞ!」

「ヒュー! これも食べてみてください!」


 とまあ、二人から次々と料理を勧められ、僕はすぐにお腹いっぱいになってしまった。


「も、もう食べれません……」

「そうですか……もう少々、ヒューの食べる姿を拝見していたかったのですが……」


 そう言って、メルザは少し寂しそうな表情を浮かべる。

 で、できればメルザの要望に応えたいけど、これ以上は……。


「どれ、ならば腹ごなしに剣術の稽古でもするかの?」

「あ、あと少しだけお待ちいただいてもいいですか……?」


 うん……今激しい運動をしたら、食べたものが逆流しそう……。


 ということで、一時間ほどお茶を飲んで休憩した後、大公殿下と訓練場へ向かった。


「さあ、まいれ!」

「はい!」


 木の槍を持つ大公殿下に、僕は木剣を構えて攻撃を仕掛ける。

 あはは……思えば、こうやって大公殿下と剣を合わせるのは何回目だろう……。

 僕の剣を受け止めてくださるたびに、大公殿下の鋭い一撃を受けるたびに、その厳しさと優しさを感じる。


 僕は、大公殿下とのこの時間が大好きだ。


 そんな至福の時を堪能していると。


「……お館様。皇都より急ぎの伝令がまいりました」

「む? 伝令じゃと?」


 執事からの報告を受け、大公殿下が顔をしかめる。


「……私は休暇中なんじゃが……」

「申し訳ありません。急ぎお戻りください」

「むむ!? オリバーがわざわざ来るじゃと!?」


 なんと、パートランド卿がわざわざここまでやって来た。おそらく、ゲートを使ったんだろう。

 だけど、そうまでして大公殿下を呼びに来た理由って一体……。


「それで、何があったんじゃ?」


 眉根を寄せながら大公殿下が尋ねる。


「はっ! 皇宮の北東に幽閉されていた、レオノーラ第二皇妃殿下が忽然と消えました」

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