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旅行へ行こう

「ヒューゴ様、おはようございます!」


 第二皇妃殿下を断罪したお茶会の日から一か月経ち、今朝も元気に僕を叩き起こしに来た。


「うう……もう少し……」

「駄目ですよ? 早く起きて支度をしませんと、メルトレーザ様に嫌われてしまいます」


 うぐう……それを言われるとつらい……。

 僕は渋々ベッドから降りると、目を覚ますために用意されている洗面器で顔を洗う。


「さあ、お風呂の用意もできておりますので」

「……別に朝からお風呂はいいんじゃないのか?」

「いいえ、せっかくのメルトレーザ様との旅行なのですから、身を清めませんと」

「はい……」


 僕は言われるがまま、お風呂へと入る、んだけど……。


「それで、どうして一緒に入ってくるんだ?」

「うふふ、お身体を拝見するのは初めてではないのですから、恥ずかしがる必要はありません」


 いや、それでも僕は恥ずかしいんだけど……。


「それに、相変わらず僕の背中を触るのはやめてくれ。もう必要ないだろう?」

「いいえ、お仕えする主の健康管理はメイドとして当然ですから」

「むうう……」


 僕はさも当然とばかりに言い放つ彼女を見て、口を尖らせて唸った。

 全く……こういうところ、全然変わってないな……。


 すると。


「ああー! お姉ちゃん(・・・・・)、ヒューゴ様のお世話は私の役目ですよ!」

「何を言ってるの。私はヒューゴ様を五年もお世話してきたんですよ? だったら、引き続き私がお世話をするのが筋でしょう」


 頬を膨らませて抗議するセルマに、ヘレンはそんなことをのたまう。

 なお、ヘレンはお茶会の日以降、正式に大公家の屋敷でメイドとして働くことになった。


 当初はまたオルレアン王国に戻る予定だったのだが、メルザが引き留めたのだ。

 というのも、やはりセルマ一人で僕達二人を世話するのは忙しいと判断してのことだった。


 まあ、二人は姉妹……みたいなものだし、上手くやってくれている。

 たまに、目の前で繰り広げているような喧嘩をすることもしばしばあるけど。


「それにしても……グローバー家が消える(・・・)のは早かったな」

「うふふ……本当に」

「はい!」


 僕の呟きに、二人がニタア、と口の端を吊り上げた。


 第二皇妃殿下が幽閉され、復興の手立てを一切失ってしまったグローバー家は悲惨だった。


 後ろ盾を失くした焦りからか、再起を図ろうとしてグローバー家の現当主は、あのアーキン伯爵と共謀して違法行為に手を染めたことが発覚した。

 どうやら、アーキン伯爵を手伝うことで、色々とおこぼれに預かり、そのノウハウを盗む魂胆だったらしい。


 なので、当然ながら違法行為に関する罪に問われ、財産を全て没収された上で貴族としての地位すらも失って平民へと落とされた。


 さらに。


「とうとう耐え切れなくなったダリル=グローバーは首を吊って自殺、現当主とその弟のジーンは、領地を追われて行方不明、か……」

「「当然の報いです」」


 ヘレンとセルマが、声を揃えて頷く。

 決して自分達の手で復讐を果たせたわけではないけど、グローバー家の末路を見て、ようやく溜飲も下がっただろう。


「それよりも……うふふ、私の()は、本当に素敵な男性に成長しました……」

「いや、いつから僕はヘレンの弟になったんだよ……」


 それについては、あの日(・・・)の地下牢で明確に拒絶しただろうに。懲りないなあ……。


 ◇


「メルザ……」


 お風呂から上がって着替えを済ませた僕は、メルザの部屋へ顔を出した。


「あ……ヒュー……」


 ……うん。旅行用の服装を着るメルザも、なんて素敵なんだろう。

 今回の旅行は、本当に楽しくなりそうだ。


「ヒュー? どうしたのですか?」

「あ、あはは……すいません、あなたの可愛さに見惚れてしまいました」

「あう……すぐにヒューはそういうことばかり言うのですから……その、ありがとうございます……」


 メルザは恥ずかしそうにうつむきながら、そっと僕の胸に頬を寄せた。


「ふふ……今日のヒューは、ローズマリーの香りがします」

「ひょっとして、気に入りませんでしたか?」

「まさか……この香り、私は大好きです」

「なら良かった」


 僕は、スン、スン、と僕の胸元をかぐメルザの黒髪を優しく撫でる。


 その時。


「おおい! メル、婿殿、準備はできたかの!」


 扉の向こうから、大公殿下が大声で僕達を呼ぶ声が聞こえた。


「ふふ! 今回の旅行、どうやらお爺様が一番楽しみにしているようですね!」

「あはは、本当ですね!」


 僕とメルザは笑いながらおでこをこつん、と合わせた。


「さあ! 大公殿下を待たせてはいけませんので、僕達も下に降りましょう!」

「はい!」


 メルザの手を取り、僕達は大公殿下のいる玄関ホールへと笑顔で向かった。

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