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乗せられた結末

「せっかくここまで準備を整え、帝国の太陽であらせられる皇帝陛下をお招きしてまで開いた私のお茶会を、このように水を差すとは何事なのですか?」

「それと、何やら例の毒による僕の殺害未遂にも関連していると聞こえたのですが」


 メルザと僕は、大公殿下や皇帝陛下、それに第二皇妃殿下達の下へ来ると、威圧的にそう告げた。

 もちろん、その言葉は全て第二皇妃殿下へ向けて。


「そ、そうです! ヒューゴが飲んだ“カンタレラ”の毒について、ダイアナ殿下が関与していたという話なのです! あなたを殺害しようとしたのは、まさに彼女です!」


 この期に及んでも、まだ第一皇妃殿下に罪をなすりつけようとする第二皇妃殿下。

 そんな彼女の言葉に、支持をしている第二皇子派の貴族達も同調の声を上げた。


 だけど。


「おかしいですね……先程、レオノーラ皇妃殿下ご自身がおっしゃったではないですか? 『私は(・・)誰とも(・・・)会っていない(・・・・・・)』と」

「そうよ! ヒューゴの言うとおり私は誰とも会っていないわ! 誰かが……そう、ダイアナ殿下が私の名を(かた)って罪を着せようとしたのよ!」

「ですがこの書類を拝見すると、明確にレオノーラ皇妃殿下の署名がありますね……すいません、パートランド卿。もしよろしければ、そのレオノーラ皇妃殿下と交渉の場に立ち会ったという工作員を、ここに連れてきてはくれませんか?」

「分かりました。おい」


 僕の言葉を受け、パートランド卿は兵士……の格好をしたモニカ教授に声をかけて工作員を連れてくるように指示をした。

 一方で、第二皇妃殿下の顔色は悪く、不安からか時折爪を噛む仕草を見せる。


 さあて……その工作員とやらは、どんな反応を見せるかな?


「連れてまいりました!」

「うむ……おい、貴様。取り調べの時に申していた、その交渉を行ったという者は、この場にいるか?」


 髪を鷲づかみにして工作員の顔を持ち上げ、高圧的に尋ねる。


 すると。


「あ、あの左側に座る貴婦人……間違いない、レオノーラ第二皇妃だ……」

「嘘よ! そんなことはあり得ない!」


 工作員の証言を聞いた瞬間、第二皇妃殿下は立ち上がってわめき散らす。


「だって! やり取りは(・・・・・)全て(・・)手紙だけ(・・・・)の……「そこまでだ」」


 続けて第二皇妃殿下が叫ぼうとした瞬間、皇帝陛下が言葉を(さえぎ)った。


「レオノーラ……貴様、自分から言ったな。オルレアン王国と、どのように取引をしておったのかをな」

「あ……い、いえ、これは……」


 第二皇妃殿下は、思わず口元を押さえて顔を背けた。

 まあ、このような場で突然犯人扱いを受けたんだ。動揺して失言してしまうのも無理はない。


 何より、最大の失言(・・・・・)はそれよりも前にしている。


「ところで……どうして僕が飲んだ毒が、“カンタレラ”だと分かったのですか?」

「っ!? そ、それは、その書類に書いて……」

「いいえ、毒に関する取引記録はありますが、“カンタレラ”だったとは、一言も書いてありませんよ」


 そう……今日この時のために、僕達は準備をした。

 工作員の襲撃をでっち上げたこともさることながら、この場にいる工作員も僕達の仕込み。

 さらには、第二皇妃殿下を騙すために書類すらも偽造した(・・・・)


 “カンタレラ”の調査も、僕達はその毒の名前について情報統制をしてあるから、知るはずがない。

 いや……第二皇妃殿下が毒の種類を知ろうと誰かに接触していたのだとしたら、それこそ自分が犯人であると言っているようなもの。


 つまりは、これ以上どう言い逃れしようとも、第二皇妃殿下が犯人だということは、誰の目からも明白だということだ。


「レオノーラ……残念だ。まさか、ウッドストック卿の大切な後継者を手にかけようとしたばかりか、このサウザンクレイン皇国を売るような真似をした」

「へ、陛下! どうか私の話を……!」

「そ、そうです父上! 私の(・・)母上が、そのようなことをするはずがありません! どうか、あらためての調査と、弁明の機会をお与えください!」


 突然の事態にただ呆けていただけの第二皇子が我に返り、第二皇妃殿下と共に縋るように必死に訴える。

 でも、これだけの証拠を突き付けられ、二度も失言してしまっている以上、あらためて裁判を執り行ったとしても、結果は目に見えている。


 ここに至っては、第二皇子派の貴族達も自分に飛び火しないよう、誰も第二皇妃殿下達の擁護をしようとする者は現れない。


 第二皇妃殿下と第二皇子は、終わったのだ。


「……レオノーラ第二皇妃は王宮北塔の最上階に幽閉、アーノルド第二皇子は無期限謹慎とする」

「っ!? 陛下! 陛下!」

「父上!?」

「連れていけ」

「はっ!」


 皇帝陛下が無情に告げると、第二皇妃殿下はモニカ教授に、第二皇子は別の兵士に引きずられるようにこのお茶会を後にする。


 第二皇子派の貴族達は目を伏せ、第一皇子派の貴族達は目の前の出来事にただ呆然とする。


 そして。


「わ、私は……私は……あああああ……っ」

「そんな……あ、あはは……」


 今度こそ貴族としての終わりを迎えたダリル=グローバーは、嗚咽(おえつ)を漏らしながらテーブルに突っ伏す。

 隣に座るジーンも、呆けながら薄ら笑いを浮かべていた。


 そんな絶望するグローバー家の面々を見て、ヘレンとセルマは歓喜の涙を(こぼ)しながら、口の端を吊り上げていた。

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