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茶番劇

「メルザ、お疲れさまでした」

「ふふ……、まだお茶会は始まったばかりですよ? ですが、ヒューに心からの労いの言葉をいただくと、今まで頑張ってきたことが全て報われるのが分かりますね」


 クスリ、と微笑みながら、メルザは僕の手を愛おしそうに頬ずりした。

 あはは……でも、今回のお茶会の準備で分かったけど、メルザはものすごく頑張り屋だから、僕もしっかり支えないといけないな……。


 すると。


「「あ」」


 貴族の一人の付き添いとして、シレっと席に座っているアビゲイルを発見した。

 しかも、コッチににこやかに手なんて振ってるし……。


「ま、まあ……今回の一件では彼女も一役買っているから、顛末には興味あるか……」

「……私は、ヒューにさえちょっかいを出さなければ、今回だけは(・・・・・)目を(つむ)りますよ……」


 僕とメルザは溜息を吐くと、第一皇子達の座る席へと向かった。


「メルトレーザ、見事なお茶会だ。リディアもよく頑張ったな。さすがは自慢の婚約者だ」

「あ……ありがとうございますわ……」


 はは、第一皇子に褒められて、リディア令嬢が照れてる。


「クロエ、よくやった」

「ありがとうございます」


 うん、こちらはこちらで、相変わらずの主従だなあ……。

 二組を眺めながらそんなことを考えていると、メルザが僕のサーコートの袖を引っ張った。


「? どうしました?」

「あれを見てください」


 僕はメルザの視線の先を見ると……あー、第二皇子がものすごく睨んでいるな。

 これじゃまるで、僕が第一皇子派に(くみ)しているともとれるからね。


「あはは……第一皇子派ってわけではないですが、友人ではありますからね……」

「! う、うむ! ヒューゴは間違いなく私の友だ!」


 あー……第一皇子、ものすごく嬉しそう。


「フフ、それならばこの私も、ヒューゴとは友人同士だがな」

「いや、ヒューゴの一の友人は当然私であろう」

「いやいや」

「いやいや」


 ……この二人、何を言い争っているんだよ。

 別にどちらでもいいんだけど。


「それより、そろそろかな……」

「ふふ、そうですね」


 今もなお言い争っている第一皇子とシモン王子を無視し、微笑むメルザと一緒に会場の入口を見つめていると。


 ――ザッ! ザッ!


 騎士の一団が大挙してやって来て、このお茶会の会場を取り囲んだ。


「何事だ!」

「はっ! 皇都にオルレアン王国の工作員を発見。取り調べを行ったところ、このウッドストック大公家への襲撃を企てておりました!」

「な、なんじゃと!?」


 叫ぶ大公殿下にパートランド卿がそう報告した瞬間、会場が騒然となる。


「ど、どういうことだ!? クロエ!」

「わ、私にも分かりません!」


 シモン王子とクロエ令嬢が顔を真っ青にしながら困惑する。

 あー……こんな茶番に付き合わせてしまい、二人には申し訳ないことこの上ない。


「そ、それで、どうなったんじゃ!」

「はっ! 襲撃をしようとしていた工作員のほとんどは捕縛しましたが、まだ残っている可能性があります! そのため、緊急事態として大公殿下の指示を待たずにまいりました! それと」


 パートランド卿は隣に控える兵士から書類を受け取ると、それを大公殿下に渡す。


「これは?」

「捕えた工作員の一人が持っておりました!」

「ふむ……っ!? こ、これは……!」


 手渡された書類をパラパラとめくると、大公殿下がわざとらしく驚きの声を上げた。


「……お爺様」


 メルザが思わずこめかみを押さえる。

 どうやら彼女にとって、大公殿下の演技は及第点以下だったみたいだ。


「皇帝陛下、こちらを」

「……っ!?」


 大公殿下が書類を見せると、皇帝陛下は声を失った。

 当然だ。あの書類は、シモン王子が用意し、ヘレンが持ってきてくれた第二皇妃殿下の“カンタレラ”の取引記録及び第二皇子が皇位継承した場合のオルレアン王国との覚書なのだから。


「レオノーラ。貴様、これはどういうことだ?」

「っ!?」


 皇帝陛下が書類を見せびらかしながら詰め寄ると、第二皇妃殿下が目を見開いた。


「な、何かの間違いです! いえ! これは、私を(おとし)めようとした何者かの陰謀です!」


 そう言って、全力で否定する第二皇妃殿下。

 まあ、これを認めるなんて真似をするはずがないのは分かっている。


「ダイアナ皇妃殿下! そこまでして私が憎いのですか! 私は……私は、この皇国のために共に手を取り合っていけると信じていましたのに……!」


 へえ……“カンタレラ”の時みたいに第一皇妃殿下に罪をなすりつけ、さらには泣き真似をして皇帝陛下や貴族達の同情を買おうとしているのかな。


 そんなもの、何の意味もないのに。


「オリバー、その工作員がこの書類を持っていたということは……?」

「はっ! 尋問した結果、取引に直接立ち会っていたとのことです!」

「そ、そんなはずないわ! 私は(・・)誰とも(・・・)会って(・・・)いないわよ(・・・・・)!」


 ……語るに落ちたな。

 パートランド卿は、工作員が誰と(・・)立ち会ったか(・・・・・・)なんて一言も語っていない。

 なのに、第二皇妃殿下は自分から言ってしまった。


 とはいえ、そういった失言を引き出すために、こんな茶番を仕組んだんだけど。


「メルザ、僕達もあの場に行きましょう」

「ふふ……ええ。ヒューを毒殺しようとした女の、絶望した顔を見に」

お読みいただき、ありがとうございました!


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