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襲撃理由

「ハア……分かりやすいほどの悪者だな……」


 目の前に現れた大勢の刺客を見て、僕は溜息を吐く。

 大体、まだ大通りにもそれなりに人がいる時間帯にもかかわらず、それをこうやって大挙して押し寄せてきたら、それこそ目立って色々と明るみに出る危険が高いというのに……。


「ふふ……ヒュー、どうやらこの者達、かなり焦っているみたいですよ?」

「焦っている?」

「はい……おそらくは、前回の失敗でもう後がないのでは?」

「なるほど……」


 確かにメルザの言うとおりかもしれないね……。

 第二皇妃殿下としても、僕達……いや、大公殿下に“カンタレラ”の存在を知られ、かつ、この前放った刺客を一人僕達に捕獲されてしまっているのだから。


「さて、一応目的を確認しておきたいんだけど、僕達を消しに来た(・・・・・)ということでいいのかな?」

「…………………………」


 ……まあ、刺客がそんなこと言うわけないか。


 だったら。


「前回同様、一人だけ(・・・・)連れ帰って吐かせるか。メルザ……背中をお任せしてもいいですか?」

「ふふ……もちろんです。この者達は、すぐに消し炭にして差し上げます」


 メルザはクスリ、と(わら)いながらそう言うと、その右手に(いかづち)の槍を形成する。


「【雷槍】」

「「「「「っ!?」」」」」


 その言葉が開戦の合図となり、メルザの右手から(いかづち)の槍が超高速で放たれた。


 ――ドオオオオオオオオオンンン……ッ!


 皇都の夜に、すさまじい雷光と衝撃音がこだまする。

 もちろん、僕達の背後にいた刺客達は今の一撃で大半が行動不能(・・・・)となった。


 あはは、本当に僕の婚約者は、誰よりも美しくて、誰よりも優しくて、誰よりも強い!


「っ!?」

「遅いよ。よそ見しすぎだろう」


 メルザの魔法を見て呆けていた刺客の隙を突き、僕は流れるように首を次々と斬り落としていく。

 騎士と違って身体を守っている箇所が少ない分、やりやすくはあるけど、それでも僕は首を刈る(・・・・)ことにこだわった。


 誰がつけたのか分からない不名誉な二つ名、“断頭台”の文字どおりに。


「ふっ!」


 一息吐くごとに、首が一つ、また一つと地面に転がっていく。

 刺客達は混乱を極め、もはや案山子(かかし)と成り下がっていた。


 そして。


「オマエを連れて行くことにしようか」

「っ!? グハッ!? ギャッ!?」


 刺客の頭領らしき者の両腕両脚を瞬く間に斬り落とし、首元を柄頭で殴りつけて意識を奪う。


「メルザ、他にも刺客は残っていそうですか?」

「いえ、今回は逃げ出した者もいないようですし、これで全部のようです」


 メルザがヴァンパイアの能力で周囲を確認した後、そう教えてくれた。


 すると。


「な、なんだこれは!?」

「ヒイイ!?」


 ……ああ、やっぱり野次馬が集まってきたか……。


「……メルザ、残念ですが夜の皇都散策は、また今度にしましょう」

「……本当に、忌々しいですね」


 眉根を寄せるメルザの手を取り、僕は捕獲した刺客を引きずってその場から退散した。


 ◇


「ほう……? 懲りずにまた刺客が、のう?」

「はい。おそらくは、僕とメルザを始末しようと、第二皇妃殿下が放ったものかと」


 大公家の庭の地面に転がる刺客を見やりながら低い声で尋ねる大公殿下に、僕は淡々と答えた。


「ふふ……しかも、ヒューと私を侮っていたようで、たかだか(・・・・)五十人程度で襲いに来たのですから、このような結果になるのは目に見えていました」


 そう言って、メルザはクスクスと笑う。


「よし、念のためメルと婿殿を襲った理由を尋ねるとするかの。おい、起きろ」

「グハッ!?」


 腹を蹴り上げ、大公殿下が刺客を無理やり起こす。


「ぐ、ぐうう……っ!?」

「貴様、何故二人を襲った。答えよ」


 うめき声を上げながら目を覚ました刺客の髪を鷲づかみにして持ち上げ、大公殿下が威圧を込めて尋ねると、刺客は恐怖のあまり全身を小刻みに震わせた。

 僕やメルザは大丈夫だけど、弱っている上に大公殿下のあんな威圧を受ければ、そうなるのも当然か。


「……早く答えぬか」

「は、はいっ! そ、その……レ、レオノーラ皇妃殿下の指示で、ウッドストック大公の孫娘を(さら)う……ギャアアアアアアアアッッッ!?」


 刺客が全部を言い切る前に、僕はいつの間にかサーベルを抜いて刺客の脇腹に突き刺していた。


「……()(さら)う、だって?」

「あぐ……ぎ……ぎい……ッ!?」


 僕は自分でも驚くほど低い声で、突き刺したサーベルを回しながら脇腹を抉る。


「婿殿……お主の怒りは分かるが、まあ落ち着くのじゃ」

「…………………………」


 大公殿下にたしなめられ、僕は渋々サーベルを脇腹から抜いた。


「じゃが……もう、容赦する必要はないの」

「はい。それと、報告が遅くなりましたが、例の“カンタレラ”に関する証拠について、シモン王子の協力を得てオルレアン王国側の取引記録を明日、明後日にも入手予定です」

「ほう?」


 僕の言葉を聞き、顎鬚(あごひげ)を撫でながら身を乗り出した。


「ですので、その証拠を入手しだい、第二皇妃殿下を衆目の場で断罪しましょう」

「そうじゃな……さすがに、あの女は(・・・・)やり過ぎた(・・・・・)


 大公殿下が第二皇妃殿下をあの女(・・・)呼ばわりし、強く頷く。


「ふふ……でしたら、ここで盛大にお茶会でも開きましょうか? さすがに皇国の貴族を代表するウッドストック大公家の招待は断れないでしょうし」

「おお! それはよい! ついでに引きこもっておる皇帝陛下も引きずり出してやるとするかの! 元はといえば、全ての元凶は皇帝陛下と言えなくもないのじゃからの!」

「ああー……」


 大公殿下の言葉には、完全に同意だ。

 元々は、グレンヴィルに隠れて僕の母上と会っていたことから始まり、無責任な責任を取って退位すると言い出し、この皇位継承争いを引き起こしたのだから。


 ……退位して問題が無くなったあかつきには、アビゲイルに“調理”してもらうのもいいかもしれない。

 そのほうが、この皇国のためにもなるだろうし。


「ふふ……ようやく、面倒事が終わりそうですね」

「メルザ……ええ」


 僕の腕にその細い腕を絡めて微笑むメルザに、僕は口元を緩めながら頷いた。

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