二通の手紙
メルザの微笑みで場の雰囲気が和やかになり、お茶会が無事始まったのはいいんだけど……。
「「…………………………」」
「「「…………………………」」」
先程から、僕達はずっと無言のままだ。
こ、これは僕とメルザから会話をしたほうがいいんだろうか……。
僕はチラリ、とメルザを窺うと……あ、彼女も窺うように僕を見ていた。
何故か僕は、それが妙におかしくなってしまって。
「あははっ」
「ふふっ」
ついつい、第一皇妃殿下の前であるにもかかわらず、吹き出してしまった。
そして、それはメルザも同じで。
すると。
「ハハ……本当に、初めて二人に出会った時に、警戒していた私が馬鹿であったな……」
第一皇子が、そんなことをポツリ、と言った。
そういえば、第一皇子の誕生パーティーでも、物腰は柔らかそうな態度ではあったけど、どこか値踏みしていた節があったし、メルザの能力でも第一皇子からあまり良い感情は受けなかったという評価だったな……。
「その……僕達の何を警戒されていたのですか?」
「う、うむ……」
第一皇子は、少し苦笑いしながら話してくれた。
皇宮内では第二王妃殿下や第二皇子との関係もあり、常に神経を尖らせていたこと。
特に、第二皇子派の貴族達からは、あまり語らない性格も相まって、幼い頃から陰口を叩かれていたこと。
酷い時には、皇宮内で露骨な嫌がらせを受けたこともあるらしい。
「……それだけではない。今は味方である第一皇子派の貴族達も、所詮は未来は閉ざされた本であるからな……とても、信頼できない……」
第一皇子は、悔しそうに唇を噛む。
……そんなことがあるなら、初対面である僕達を警戒するのは、仕方のないことかもしれない。
あれは、第一皇子にとっての自衛の表れだったのか……。
「ふふ……でしたら、ヒューがそのような下賤な輩とは違うこと、お分かりいただけたかと」
メルザは手に持つ扇で口元を隠しながら、クスクスと笑う。
「ああ……皇位継承争いなど一切関係なく、ヒューゴ……君とは心から友になりたい」
第一皇子は真剣な表情で真っ直ぐに僕を見つめ、そう口にした。
メルザも、その言葉に嘘はないと、ゆっくり頷く。
「クリフォード殿下……正直申し上げますと、僕はあなたのことが分かりません。何故なら、あなたが心を開いて話されたのは、これが初めてだからです」
「う、うむ……」
僕の言葉を受け、クリフォード殿下は寂しげな表情で目を伏せた。
「……ですから、これからは本音で付き合ってください。僕もそのようにいたします。僕と殿下が友達になるために、まずはそこから始めましょう」
「っ! あ、ああ!」
そう告げた瞬間、第一皇子は勢いよく顔を上げ、不器用な笑顔を見せた。
でも……その表情は、今までで一番輝いていた。
◇
「本日はありがとうございました」
「素敵なお茶会でした」
僕とメルザは、玄関まで見送りに来てくれた第一皇妃殿下達に恭しく一礼した。
「う、うむ! 私も楽しかったぞ!」
「メ、メルトレーザ様! また是非いらしてください!」
……うん。来た時とは打って変わり、二人がものすごくグイグイ来る……。
「ホホ……二人共、ヒューゴとメルトレーザが困っているわよ」
「「は、はい……」」
第一皇妃殿下にたしなめられ、二人が少し落ち込んだ。
「だけど……ヒューゴ、メルトレーザ……この子達を、よろしくお願いするわね……」
「ダイアナ皇妃殿下……かしこまりました」
僕とメルザは再度一礼をし、馬車に乗り込んでウェッジウッド家を後にした。
そして。
「「ハア……」」
僕達は、盛大に溜息を吐いた。
「な、何というか……いろいろな意味で疲れましたね……」
「はい……ですが、ふふ……」
苦笑する僕に、メルザはクスリ、と微笑む。
「それにしても、リディア令嬢は可愛らしい御方でしたね……『二人のように、クリフォード殿下と仲睦まじくなるにはどうすればいいか』って、真剣に尋ねられた時には驚きました」
「あはは、その後にクリフォード殿下が緊張しながら僕達の真似をしたのにも、びっくりしましたよ」
とにかく、今日のお茶会で色々と分かった。
あの三人、不器用すぎる。
「あの第一皇子の誕生パーティーや前回のお茶会で抱いていた印象が、一気に変わりましたね」
「ええ」
それからも、僕達は屋敷に戻るまであの三人の話題で花を咲かせた。
で、屋敷に到着すると。
「ヒューゴ様、メルトレーザ様、お帰りなさいませ!」
セルマが笑顔で僕達を出迎えてくれた。
その隣には、恭しく一礼する執事長の姿も。
「ヒューゴ様に手紙が二通届いております」
「僕に手紙、ですか?」
僕は手紙を受け取り、開封する。
「……こちらは、イライザ令嬢からのお茶会の招待状ですね。しかも、何故か僕だけとなっています」
「あの女……!」
メルザが僕の手から招待状を奪い、そのまま破り捨てた。
いや、メルザ一人を招待するというのならともかく、どうして僕だけを招待するんだよ……。
「……イライザ令嬢が何を考えているのか分かりませんが、これは第二皇子を通じて厳重に抗議しましょう」
「もちろんです! よりによって、第二皇子という婚約者がありながら、私のヒューに手を出そうなどと……!」
怒り狂うメルザを、僕はその黒髪を撫でてなだめる。
こんなくだらないことで、メルザに嫌な思いをしてほしくないからね……。
「もう一通も、同じようなものではありませんよね!」
そう言って、メルザは勢いよく手紙を開封すると。
「あ……ふふっ」
「……あははっ」
手紙を読んだ瞬間、僕達は思わず笑みが零れる。
「セルマ、これを読んでごらんよ」
そう言って、僕はセルマに手紙を渡した。
すると。
「あ……ああ……!」
セルマは口元を押さえ、ぽろぽろと大粒の涙を零した。
「セルマ、あと三日ほどで着くだろうから、準備だけ頼むよ」
「はい……はい……!」
顔をくしゃくしゃにしながら何度も頷くセルマを見つめながら、僕とメルザは口元を緩めていた。
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