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証拠

「それで婿殿、これからどうするんじゃ?」


 襲ってきた刺客から情報を聞き出して始末した後、大公殿下が尋ねる。


「……やはり、まずは証拠集めでしょう。単に先程の刺客の言葉だけで、第二皇妃殿下を糾弾するには足りません。決定的な何か(・・)がないと……」

「ですがヒュー……そうおっしゃっても証拠になりそうなものを、そう簡単に残しているとは思えません……」


 メルザの指摘はもっともだ。

 実際、アーキン伯爵の屋敷とその周辺をくまなく探しても、結局は第二皇妃殿下との関連は確認できなかったんだし。


「……こうなれば、私がヴァンパイアであることを明かした上で、第二皇妃殿下の()を看破する、というのは……」

「「それは絶対に駄目です(じゃ)!」」


 メルザの提案に、僕と大公殿下は同時に否定した。


「とにかく……こうやって僕達に刺客を送り、そして捕らえられたことを知っている以上、第二皇妃殿下は何かしらの行動を起こすはずです。その時に、動かぬ証拠を手に入れることができるのを期待するしかありません」

「はい……」


 メルザが、不安そうな表情で頷く。


「こうなった以上、大公殿下にすらも危害が及ぶ可能性があります。こと戦闘に関して大公殿下が遅れを取ることなど絶対にないとは思いますが、僕を“カンタレラ”で毒殺しようとしたように、(から)め手でくる可能性が高いと思われます」

「う、うむ……」

「なので、これからは万が一のことを考え、口に入れるものは全て毒見をするようにしましょう。あと、ほんの僅かな傷から毒を混入させる可能性もあるので、周囲に誰も近づけず、人混みも避けてください」


 僕は二人……特に大公殿下に、念を押すようにそう告げる。

 メルザに関しては、常に一緒にいるから僕が防ぐことができるけど、大公殿下は元々の強さもあるから、そういったことに疎かになる危険がある。


 大切な家族(・・)を守るためにも、少しでも釘を刺しておかないと……。


「……はっは、息子(・・)に心配されるというのも、悪い気はせんのう……」

「ふふ……お爺様、口元が緩んでいらっしゃいますよ?」

「おっと、しまったわい」


 メルザに指摘され、大公殿下が思わず口元を隠した。


「それにしても……婿殿の言うとおり気をつけるとして、ただ向こうから来るのを待つというのは、なかなか厳しいのう……」

「はい……おっしゃるとおり、常に神経をすり減らさないといけないため、こちらへの負担が大きいのが難点です……」

「ですが、それしかない、のですよね……」


 僕達は、思わず肩を落とした。


 ◇


「私達はともかく、お爺様は大丈夫でしょうか……」


 あの後、僕達はメルザの部屋に戻り、ベッドに腰かけながら肩を並べている。


「……大公殿下には切れ者のパートランド卿がいらっしゃいます。あらかじめこのことを伝えておけば、必ず対処してくださると思います」


 少しでもメルザを不安にさせないよう、僕はそう言って慰めた。


「それと……大公殿下の前では言っておりませんが、一つ考えがあります」

「考え、とは……?」


 メルザが僕の顔を(のぞ)き込みながら尋ねる。


「はい……この皇国で第二皇妃殿下と一連の事件を結び付けようとすると、どうしても証拠をもみ消されてしまいます。ですので、皇国の外で(・・・・・)証拠を手に入れてはどうかと」

皇国の外で(・・・・・)証拠を?」


 驚くメルザに、僕はゆっくりと頷く。

 唯一結びつく手掛かりだったアーキン伯爵との関係を示すものが見つからない今、また別の繋がりを見つけなければいけない。


 そこで僕が目を付けたのは、“カンタレラ”。


 あのサウセイル教授の言葉を信じるなら、アーキン伯爵はあくまでも“カンタレラ”の運び役であって、実際にやり取りをしたのはその先……つまり、第二皇妃殿下ということだから。


「……そして、第二皇妃殿下が取引をした相手。それは……」

「“オルレアン王国”、ということですね……?」

「はい」


 そう……オルレアン王国側なら、あの第二皇妃殿下の影響力は一切及ばない。

 なら、“カンタレラ”の取引などに関して何かしらの情報が残っているはず……。


 何より。


「“カンタレラ”のやり取りがある以上、第二皇妃殿下は前々からオルレアン王国と繋がっていた可能性が高いでしょう。ということは、オルレアン王国としても第二皇妃殿下……いや、第二皇子が次代皇帝になったほうが都合がよいということでもあります」

「……ここでも、オルレアン王国が介入しているのですね……」


 すると、メルザが心配するような表情で、僕を見つめた。


「あのグレンヴィルも、オルレアン王国の関与でクーデターを画策した……いえ、ひょっとしたら、オルレアン王国に持ちかけられたからこそ、クーデターなどということを考えたのでしょう……」


 つまりは、僕の六回の人生における不幸も、全てオルレアン王国の仕業によるものと言えなくもない。


「それで……話は戻りますが、証拠を手に入れるために、オルレアン王国に向かうのですか?」

「いえ……上手くいくかは分かりませんが、別の手(・・・)を考えています」

「別の手?」


 僕はメルザの耳元に顔を寄せ、ささやく。


「……なるほど」

「これ以外だと、襲ってくるのを待つことしか取れる方法がない以上、やれるだけやってみましょう」

「はい……私は、いつもヒューと共に……」

「メルザ……」


 僕は、メルザをそっと抱き寄せた。

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