守ってあげる ※レオノーラ第二皇妃視点
■レオノーラ=フォン=サウザンクレイン視点
「失敗したってどういうことなの!?」
あのウッドストック大公の後継者、ヒューゴ=オブ=ウッドストック及び令孫であるメルトレーザ=オブ=ウッドストックへ放った刺客の一人の報告に、私は思わず手に持っていたワイングラスを投げつけた。
「そ、それが……あのヒューゴという者、思っていたより腕が立ちまして……こちらの用意した刺客二人では、相手になりませんでした……」
「だったらもっと手練れを用意すればよかったじゃない! この失態、どうしてくれるのよ!」
「は……」
私が大声で罵倒しても、刺客は首を垂れて恐縮するばかり。
全く……せっかく高い金を払って作った私直属の暗部だというのに、本当に頼りにならないわね……。
「……それで? そのヒューゴに刺客がやられたのは分かったけど、その後の処理はどうするのかしら? 死体を向こうに押さえられたのでしょう?」
「そ、それが……」
「? まだ何かあるの?」
「実は……一人が生きたまま捕らえられてしまいました……」
「はあ!?」
な、何を考えているの!?
それじゃ、ソイツの口から私のことが割れてしまうじゃない!?
「で、ですが、あの者も厳しい訓練を受けた私の部下、決して口を割ることはありません。隙を見て、自決するはずです」
「そんな保証がどこにあるのよ!」
私は近くにあったものをつかみ、手当たり次第に目の前の刺客にぶつける。
まずい……本当にまずい。
このままでは、あの大公に全てが露見する危険がある。
そうなってしまったら、アーネストの皇位継承どころか、私達の立場そのものが危うくなってしまう……。
「……ねえ、あなた」
「は、はっ……」
「だったら、この際だからウッドストック大公も始末しなさい」
「っ!? あ、あの“戦鬼”をですか!?」
私の言葉に、刺客が驚きのあまり顔を上げ、身体を仰け反らせる。
「む、無理です! さすがに“戦鬼”相手では、こちらが束になっても敵うはずがありません!」
「そう? なら、あのヒューゴの時のように、毒を使ってみたら?」
「それも今となっては不可能です! “カンタレラ”の調達と運び役だったアーキン伯爵も既に消されてしまい、特定不可能な毒を別途手に入れられません!」
ハア……何よコイツ。
さっきからできないの一点張りで、何の役にも立たないわね。
「だったら、あの大公が大人しく従うしかできないようにすればいいじゃない。例えば、大事なものを奪うとか」
「……そ、それなら」
本当に、そんな簡単なことも思いつかないだなんて……この件が片づいたら、別の者を雇うしかないわね。
「だったらいつまでもそこにいないで、すぐに動きなさい! この役立たず!」
「は、はっ!」
刺客は一瞬にして私の目の前から消え、この部屋には私だけとなった。
あの役立たず、逃げ足だけは一流ね。
「それにしても……面倒なことになったわね……」
額に手を当て、私はかぶりを振る。
今回の刺客の件もそうだけど、ダイアナ皇妃とクリフォード皇子を失脚させるため、わざわざこの皇国では入手困難な“カンタレラ”まで用意したというのに、今では全て裏目に出てしまっているような状況だわ……。
「……そもそも、“カンタレラ”はこの国の人間には判別不可能だったのではないの? なのに大公は、むしろ“カンタレラ”を特定した上で調査に当たっているし……」
そう……私は、あの者からそのように聞かされた。
“カンタレラ”を使えば、調査の手は絶対に私にたどり着くようなことはない、と。
でも、現実は違う。
早々に“カンタレラ”は特定され、さらには“カンタレラ”をここまで運ばせた子飼いのアーキン伯爵が、何者かによって消された。
おそらく、あの大公の手によるものだろう。
「……本当に、一時の感情に任せてしまったのは失敗だったわ」
元々は、あのヒューゴという坊やが私のアーネストに対して失礼な真似をしたから、その罪を償わせるのと併せて、目障りな第一皇妃と第一皇子に全部なすりつけてやろうとしたものだった。
とりあえずは、貴族達に第一皇妃と第一皇子への不信感を募らせることには成功したけど、それ以上に自分の首を絞める結果になってしまった。
「……あの刺客が、無事彼女を奪ってくればいいのだけど……」
窓の外を眺めながら、私はポツリ、と呟く。
ウッドストック大公が、目に入れても痛くないほどに溺愛している孫娘。
そして、私のアーネストを侮辱した、もう一人の人物。
うふふ……大公を始末したら、あの小娘にどんな苦しみを与えてやろうかしら?
愛する婚約者の前で、代わるがわる男達に嬲られる姿を見せるのも面白そうだし、何だったら男じゃなくて魔物を相手にさせるというのも面白いかもしれないわ?
そんな想像をし、私は口の端を夜空の三日月のように吊り上げていると。
――コン、コン。
「母上……」
いつものように、アーネストが私の部屋を訪ねてきた。
うふふ……本当に、可愛いのだから……。
「どうしたの? 今日も眠れないのかしら?」
「母上……私は、本当に皇帝になれるのでしょうか……?」
「もちろんよ。あなたほど、このサウザンクレイン皇国の皇帝に相応しい者はいないわ」
どうやら、今日も意味のない劣等感に苛まれているみたいね……。
あんな、いずれ消えてしまうような第一皇子や、所詮はこの私の手で消されるヒューゴなど、アーネストの敵ではないというのに……。
本当にあの二人、忌々しい。
「うふふ……アーネスト、ほら、いつものお薬よ?」
「あ、ああ……!」
白い粉薬を見せると、アーネストが歓喜の表情を見せる。
そう……嫌なことや苦しいことは、この薬を飲んで忘れてしまえばいい。
「さあ、おいで」
私はニコリ、と微笑んでアーネストを手招きする。
「母上……母上え……!」
まるで赤ん坊のように抱きしめるアーネストを、私は優しく受け入れる、
ああ……可愛いアーネスト。
――あなたは、この私が守ってあげる。
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