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犯人

「……メルと婿殿が怪我人を連れて帰って来たと聞いて来てみれば……」


 屋敷に到着し、腕と脚を切断した不審者を地面に転がしていると、大公殿下がやって来て不審者を見るなり顔をしかめた。


「はい、アビゲイルの店から出て大通りを歩いていたところを、この男ともう一人が僕達を襲おうとしたので、一人はその場で斬り伏せ、この男は身動きを取れなくして連れて帰りました」

「ふむ……」


 大公殿下はしゃがみ、男の髪を無造作につかんで持ち上げた。


「ぐう……っ」

「貴様、よくもこの私の宝(・・・)に手を出そうとしたの。このままくびり殺してもよいが……貴様が私の問いに答えるなら、一瞬で楽にしてやろう」


 まるで諭すように静かに語りかけているけど、大公殿下が心の底から怒っていることが分かる。

 下手をすれば、つかんでいるあの大きな手でこのまま不審者の頭蓋を砕いてしまいそうだ。


「ふふ……お爺様、勝手に死なないように口に詰め物をしている状態では、話したくても話せませんよ? ですので、首を縦に振るか、それとも左右に振るかで答えさせてはいかがでしょうか?」

「おお、それは良い考えじゃ」


 クスクスと(わら)いながらメルザが提案すると、大公殿下は嬉しそうに頷く。

 とはいえ、二人共その瞳は一切笑っていないけど。


「では、まずは何から尋ねるとするかのう……」


 大公殿下が顎鬚(あごひげ)を撫でながら思案する。


「ヒュー、どのような質問がよろしいですか?」

「僕ですか? そうですね……では、まずは誰の指示で僕達を襲ったのか、尋ねてみましょうか」

「ぬお!? わ、私もそれを言おうと思っておったのに!」


 僕の言葉を聞き、大公殿下が慌てて声を上げた。


「あはは、では大公殿下からご質問をどうぞ」

「う、うむ……じゃが、これでは私が大人げないみたいじゃのう……」

「お爺様、実際大人げないですから」


 少し落ち込む大公殿下に、メルザが容赦なく言い放つ。

 な、何も言えない……。


「な、なら、貴様は誰の指示でこのような真似をしたのじゃ!」

「…………………………」


 不審者は一切答えず、目を伏せる。


「……お爺様、口に詰め物をしていると言ったばかりですよ? 話せない以上、『はい』か『いいえ』で答えられるものにしてください」

「そ、そうじゃったわい……」


 メルザにジト目で睨まれ、大公殿下が頭を掻く。


「では、僕が聞いてもいいですか?」

「……もう婿殿に任せるわい」


 半ば拗ねてしまった大公殿下に、少し投げやりに言われてしまった……。

 ま、まあ、気を取り直して……。


「なあ、オマエは皇室の誰か(・・・・・)から依頼を受けたのか?」

「……(フルフル)」


 僕の質問に、不審者は素直に首を左右に振った。

 メルザを見ると……どうやら()は言っていないみたいだ。


 でも、念のためもう一度。


「聞き方を変えよう。オマエは皇室の誰かから依頼を(・・・)受けた者(・・・・)の指示で、僕達を襲ったのか?」

「……(フルフル)」


 不審者は、先程と同じように首を左右に振る。

 だけど……今度はメルザも同じようにかぶりを振った。


 つまり……コイツは()を吐いている。


「なるほど、ね……なら、次の質問だ。オマエに指示した奴は、ダイアナ第一皇妃殿下の依頼を受けたのか?」

「……(コクリ)」


 僕の問いに、不審者がゆっくりと頷くが、メルザはそれが()だと僕に教えてくれた。


「なら、クリフォード第一皇子か?」

「…………………………ぐむッッッ!?」」

「早く答えろ」


 答えようとしない不審者の脚の切断面を思いきり蹴り飛ばし。答えを促す。


「……(フルフル)」

「……最初からそうしていれば、痛い目に遭わずに済む」


 その後も、皇帝陛下や第二皇子についても同様の質問をしたが、結局は第一皇妃殿下の時にしか首を縦に振らなかった。


「……では次、レオノーラ第二皇妃殿下はどうだ?」

「……(フルフル)」


 こちらも、不審者は同じようにかぶりを振る。


 だけど。


「ヒュー……どうやら、そのようです……」


 そう言って、メルザはかぶりを振った。


 つまり……僕達を襲ったのは、第二皇妃殿下の仕業だったということだ。


「な、なんじゃと!? 何故レオノーラ殿下が、メルと婿殿を亡き者にしようとするんじゃ!」

「っ!?」


 大公殿下が不審者の胸倉をつかみ、大声で叫ぶ。

 不審者も、どうして依頼主のことがバレてしまったのかと、目を見開いて困惑していた。


「……分かりません。ですが、少なくともこれでハッキリしました。第二皇妃殿下は、この僕とメルザの()であると」


 第二皇妃殿下が僕達を消そうとしている理由は分からない。

 ひょっとしたら、そもそも僕達を消して第一皇妃殿下に全てをなすり付けることで、大公殿下の支持を得ようとしたのかもしれない。


「……いずれにせよ、これで対策も立てやすくなりました。今後、アーネスト殿下を含め、第二皇子派の連中との接触を避けます」

「うむ! あの女め……優し気な顔をして、なんという腹の黒さじゃ……」


 大公殿下は苦虫を噛み潰したような表情でそう告げる。

 確かに、第一皇妃殿下が苛烈なイメージを持たれているのに対し、第二皇妃殿下は世間でも評判が高い。


 結局、それも仮面だったわけだけど。


 でも。


「……ようやく、繋がった」


 そう呟き、僕は拳を握りしめた。

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