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夜デートと不審者

「ふふ、ヒューのおっしゃったとおり、最後は見せつけてやりました」


 そう言って、メルザが上目遣いで、ちろ、と舌を出した。

 ……僕の婚約者が天井知らずで尊さが増していくんだけど。


「あ……ヒューったら、そんなに私のことを見つめてばかりしていると、ぶつかってしまいますよ?」

「メルザに見惚れてぶつかるのなら、それは本望です」


 メルザに苦笑しながらたしなめられるけど、僕は真顔でそう告げた。


「ふふ……本当に、あなたは愛しい人です……」


 メルザは真紅の瞳を潤ませ、僕の頬をそっと撫でた。

 な、何というか、その……アビゲイルの店を出てきてから、メルザの心に余裕があるというか、より魅力的……いや、(つや)があるというか……。


 そんな彼女の変化に戸惑っていると。


「あ、何か美味しそうないい匂いがしますね」


 僕達の鼻をくすぐるような、いい匂いが大通りの向こうから漂ってくる。

 目を凝らしてみると。どうやらその正体は屋台のようだ。


「ちょっと行ってみましょうか」

「はい!」


 僕とメルザは、その屋台へやって来ると。


「へえ……どうやら、豚のスペアリブを焼いたものみたいですね」

「ふふ、美味しそうですね」

「でしたら、せっかくですし食べてみましょうか。すいません、スペアリブを二つください」

「はいよ!」


 屋台の店主からスペアリブを二本受け取り、一本をメルザに手渡した。


「ええと……これはどのようにして食べれば……」


 メルザは夜空にかざしてみたり裏側を(のぞ)き込んでみたり、しげしげとスペアリブを眺めている。

 まあ、大公家の大切な令孫であるメルザが、屋台の食べ物なんて分からないのは当然だよね。


「あはは。メルザ、見ていてください」


 そう言うと、僕はスペアリブに一気にかぶりついた。


「もぐ……うん! ハーブの香りが効いていて、美味しいです!」

「あ、そ、そうやって食べるんですね……では……はむ」


 メルザは桜色の可愛らしい口で、スペアリブにかぶりつく。


「ん……美味しい!」

「あはは! よかったです!」


 どうやらメルザも、スペアリブがお気に召したようだ。


「ふふ! こうやってヒューと食べ歩きするなんて、最高です!」

「それは僕もですよ!」


 そうして、僕達は大通りを練り歩きながら、夜のデートを楽しんでいると。


「……とはいえ、無粋な連中もいるものですね」


 人通りが少ないところに差し掛かった瞬間、メルザがポツリ、と呟いた。

 どうやら、メルザの能力が不審な者を察知したみたいだ。


「それで……何人いますか?」

「後ろから近づいてくる者は二人、一定の距離を保ちながらついて来ている者が一人です」


 僕が尋ねると、メルザが正確に答える。

 本当に、僕の愛する女性(ひと)はどこまですごいんだろう……。


「来ます」

「分かりました」


 僕はサーベルの柄に手をかけ、重心を落とすと。


 ――シュン。


「うああああああああああッッッ!?」

「っ!?」


 振り向きざまに、間合いに入ってきた不審者の脚を切り落とした。


「遅い」

「がひゅ……ッ!?」


 突然のことに(おのの)くもう一人の不審者の喉元をサーベルで掻き斬ると、不審者は血を噴き出しながら前のめりに倒れた。


「さて……どうして僕達を襲おうとした?」

「ぐ……っ」


 片脚を切断された痛みでうめき声を上げるが、不審者は歯を食いしばりながら顔を背ける。

 ……どうやらただの不審者ではなさそうだな。


 なら。


「むぐっ!?」

「変な動きはするな」


 僕は不審者が自決しないよう、ポケットのハンカチを不審者の口の中へ無理やりねじ込んだ。

 先程の反応を見る限り、そういう訓練を受けているようだったからね。

 暗殺者として鍛えられた僕にも、身に覚えがある。


「ヒュー、どうしますか?」

「もちろん、この男は連れ帰り、その素性を調べます。ひょっとしたら、何か手掛かりがつかめるかもしれませんし」


 そう……これが皇都にいるならず者などであればそのまま捨て置いても問題はないけど、訓練された者なら話は別。

 つまり、最初から僕達を狙っていたということだから。


「……このような形でメルザとのデートの邪魔をされてしまったのは、(はなは)だ遺憾ではありますが……」

「ええ、本当に。その罪、万死に値します」

「っ!?」


 メルザに絶対零度の威圧を向けられ、不審者は身体を小刻みに震わせながら額から大量の汗を流す。

 はは……やっぱりメルザは最強だな……。


「では、馬車まで戻りましょうか。おっと、その前に」


 ――ざしゅ。


「ぐううううううううッッッ!?」


 不審者が変な真似できないように、僕はその両腕を肩口から切り落とした。

 さあ、今度こそ行くとしよう。


 僕は不審者の襟首をつかみ、ずる、ずる、と地面を引きずる。


「……ヒュー。残っていた一人が、私達から離れていきます。どうやら仲間を見捨てて逃げたようですね」

「そうですか……まあ、判断としては正しいかもしれませんね」


 本来なら、失敗したこの不審者の息の根を止めたかっただろうけど、そんな真似をしたら逆に僕達に捕まる可能性のほうが高いからね。

 また機会を見て、大公家までコイツの命を奪いに来るかもしれないな。


 まあ、この皇国でそんな度胸がある奴なんて、片手の指でも余ると思うけど。


 そうして、僕とメルザは馬車に合流し、大公家の屋敷へと帰った。

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