第二皇子と婚約者
「それはもちろん、イライザが二人と楽しくお茶を飲みながら談笑したかったから……そして、私もヒューゴと仲良くなりたかったからだ」
僕の問いかけに、第二皇子は真剣な表情で答えた。
「……その仲良くなりたいというのは、どういう意味で、ですか……?」
「もちろん、同い歳の友人として、だ」
そんな第二皇子の言葉が到底信じられず、僕はメルザを見るけど……ええー……第二皇子、本気なんですか……?
「は、はあ……」
結局僕は、曖昧に返すのが精一杯だった。
「ウフフ……アーネスト殿下とヒューゴ様が仲良くなれば、またこうやって一緒にいられますね」
そしてイライザ令嬢……どうしてそんな、潤んだ瞳で僕を見るんですかね?
第二皇子も第二皇子で、そんな彼女を気にも留めていない様子ですし……。
「そうですね……またこのように、私とヒューの仲睦まじい姿がお二人にとってお目汚しにならないのであれば」
メルザは、イライザ令嬢に強烈な皮肉を言い放つ。
やはりメルザも、イライザ令嬢の態度が妙におかしいことに気づいているみたいだ。
「ええ! むしろ、そんなお二人の姿を心ゆくまで拝見したいです!」
キラキラした瞳を向けながら、そう答えるイライザ令嬢。
まあ……これ以上は、相手にしないでおこう。
「……それと、これは友としての忠告だ。ヒューゴ、もう兄上に関わるのはやめておいたほうがいい」
「それは、どちらの意味で、ですか?」
眉根を寄せながら話す第二皇子に、僕は意味深に尋ねる。
そう……それは、僕の身を案じてのものなのか、それとも、第一皇子派と距離を置けというものなのか。
「もちろん、両方だ」
「何故です? 毒の件については先日も話しましたとおり、ダイアナ皇妃殿下やクリフォード殿下の仕業とは限りません。なら、別に気にしても仕方ないのでは?」
「それでもだ。何より、母上が言っていた。『ダイアナ皇妃殿下と兄上には気をつけるべき』だとな」
そう確信に満ちた表情で言い放つ第二皇子。
その隣では、イライザ令嬢が表情を曇らせていた。
「……レオノーラ皇妃殿下がそうおっしゃっていたのですか?」
「ああ、そうだ。母上は、決してこの私には嘘はつかないからな」
ハア……僕にそれを信じろというつもりなのだろうか……。
何より、メルザを見れば第二皇子の言葉に悪意も嘘もないみたいだし、余計に質が悪い……。
「……分かりました。ご忠告、感謝します」
「! ああ!」
僕が忠告を受け入れたと思ったんだろう。
第二皇子は満面の笑みを浮かべ、僕の手を取った。
だけど……これはこれで、面倒だな……。
◇
「今日はありがとうございました」
四人でのお茶会はお開きとなり、玄関まで見送りに来てくれた第二皇子とイライザ令嬢に、僕達は恭しく一礼した。
「ハハ! 友であるこの私に、そのような堅苦しい挨拶は不要だぞ! ヒューゴ!」
「は、はあ……」
「ヒューゴ様……また是非、お越しくださいませ……」
「え、ええ……」
詰め寄って来る二人に、僕は身体を引きながら曖昧に返事した。
「……ヒュー、行きましょう」
「そ、そうですね。では、また学院で」
「ああ!」
僕とメルザは馬車に乗りこみ、大公家の屋敷へと帰路についたけど……あの二人、見えなくなるまで手を振り続けるつもりなのか?
「……それにしても、あのイライザ令嬢の態度……到底許せるものではありませんでしたね……」
メルザが肩を震わせ、そう告げる。
確かに彼女の言うとおり、イライザ令嬢の態度はおかしすぎる。
普通、婚約者がいる前であのような露骨な態度は双方にとって失礼だし、何より、イライザ令嬢から第二皇子とメルザへ話しかけるようなことがほとんどなかった。
それこそまるで、二人を無視しているかのように。
「ヒュー、気づいていましたか? 私達が仲睦まじい姿を見せるたびに、イライザ令嬢が私に対して悪意を向けていたことに」
「そ、それは……」
「ええ、そうです。イライザ令嬢は、あろうことかヒューに色目を使っていたのですよ」
ハア……よりによって、どうして僕なんかに横恋慕しているんだよ……。
そして第二皇子、それに何故気づかない……。
「こんなことを言っては何ですが、第二皇子とイライザ令嬢の仲は、私達と違って到底良いものではないのでしょうね」
「かもしれませんね……」
まあ、僕は本当にありがたいことに、メルザが僕の婚約者だったから良かったけど、政略結婚だと婚約者と恋愛をするのは難しいのかな……。
「いずれにせよ、僕はメルザしか見えていませんが、それでもあなたに不快な思いをさせてしまうのは到底許容できません。今度からあの二人からの誘いは断るようにしましょう」
「ふふ……ありがとうございます」
僕の手を取り、メルザが嬉しそうに微笑む。
「まあでも、皇位継承争いに関しては、母親である第二皇妃殿下が全てを仕切っているようですね」
「ええ……第二皇子のあの第二皇妃殿下に対する盲目的な信頼のおき方……少々気分が悪かったです……」
うん……あれは、完全に母親を心酔している……いや、依存していると言ったほうが正しいか。
「とにかく、第二皇子はもう気にしたところで意味がありません。それよりも、今後は第二皇子派については第二皇妃殿下の動向を探るようにしましょう」
「はい」
僕とメルザは、そう言って頷き合った。
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