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地下室の標本

「何も、ない……」


 サウセイル教授の屋敷の中は、もぬけの殻だった。


「と、とにかく、隅々まで調べるのじゃ!」

「「「は、はい!」」」


 大公殿下、モニカ教授、そして僕とメルザの三手に分かれて屋敷内を探し回る。

 だけど、どの部屋も、どの階にも、調度品はおろか家具の一つもないがらんどうの状態だった。


「ヒュー……これは、どういうことなのでしょうか……」

「分かりません……サウセイル教授が、僕達が屋敷に来る前に全てを処分した、ということも考えられなくもないですが、それにしても、たった一人(・・・・・)でこの短時間に全てを処分するなんてあり得ません……」


 不安そうに尋ねるメルザに、僕はそう答えてかぶりを振った。

 壁やカーペットに日焼けによる変色もなく、家具などによるカーペットのへこみもないことから、おそらくはそういった家具や調度品を、そもそも最初から置いていなかったと考えるほうが正しいだろう。


「でも……絶対に買い取った人間に関する何らかの痕跡はあるはず……」

「はい……」


 まるで自分に言い聞かせるようにそう呟くと、メルザも頷いた。


 すると。


「大公殿下! ヒューゴ君、メルトレーザ君! 地下への階段があったぞ!」

「「っ!?」」


 モニカ教授の叫びを聞き、僕とメルザは彼女の元へ急行する。


「モニカ教授!」

「ああ! これを見てくれ!」


 モニカ教授が指差した先には、確かに地下へと続く階段があった。


「モニカ! メル、婿殿!」

「「「大公殿下!」」」


 大公殿下も合流し、僕達は地下への階段の入口を囲む。


「この先に、何かの手掛かりが……」

「分からん……じゃが、行くしかあるまい」

「はい」


 僕達は頷き合い、階段へと足を踏み入れた。

 先頭は僕、次にメルザ、殿(しんがり)は大公殿下。

 なお、モニカ教授については万が一のことがあった時のために、階段の入口で待機してもらっている。


 階段は天井も幅も狭く大公殿下はハルバードを置いてきているし、この狭い範囲でも、僕のサーベルなら取り回しもきく。

 何より、僕の抜刀術なら瞬時に対応が可能だからね。


「ヒュー……気をつけて」

「はい……」


 心配そうに声をかけるメルザに、僕は頷く。

 そのまま階段を下りていき、しばらくすると階段が終わり、地下へと到着した。


「ここに、何かが……」

「部屋を照らしますね」


 メルザがその白い手から魔法で作った光の球体を生み出すと、視界が明るくなる……っ!?


「こ、これは……何、なんだ……?」


 目の前に現れた異様な光景に、僕達は声を失う。


 ガラスの筒の容器のようなものが立ち並び、その中には人間の身体の一部……腕や脚、眼球、内臓……それに脳などが容器一杯まで入れられた水の中に浮かんでいた。


「……これは、買い取られた人間の末路、かもしれんの……」


 僕の後ろで、大公殿下がガラスの容器を見つめながらポツリ、と呟く。


「ヒュー、これを見てください!」


 メルザが指差した容器を見ると、そこには人間ではなく……これは、魔物……いや、魔族か!?


「まさか、魔族までこのように標本にしているなんて……」

「……これも、人間同様に買い取ったものなのでしょうか……」

「いや……少なくともアーキンの取引の内容に、魔族はなかったぞ……?」


 となると……アーキンとは別の取引先、もしくはかなり以前に入手したものの可能性もあるな……。

 そうして、ガラスの容器をくまなく調べていると。


「……この容器だけ、明らかに他のものとは違いますね」

「はい……」


 それは、金属でできた棺桶のような容器で、ちょうど顔がある位置だけガラスになっていた。

 さらに、その容器には管がいくつも付いており、壁と繋がっている。


 その容器は、全部で六つ(・・)


「じゃが、中は空っぽじゃわい」

「ひょっとしたらですが、買い取った人間がこの中に入っていたのかもしれませんね……ただし、その目的に関しては皆目見当がつきませんが……」

「うむ……」


 その後も地下を調べてみるけど、手掛かりとなるようなものは何一つ見つからなかった。


「……この地下に関しては、大公軍で改めて調査をすることにして、いい加減、外に出るかの」

「はい……」


 大公殿下の言葉に頷き、僕達はモニカ教授がいる一階へと戻った。


「っ! 大公殿下、いかがでしたか?」

「……あまり、手掛かりとなるようなものはなかったわい……じゃが、収穫はあった」


 詰め寄りながら尋ねるモニカ教授に、大公殿下は地下で見たものについて説明した。


「そ、そんなものが、この地下に……」

「うむ。とはいえ、ほとんどほこりを被っておったから、そもそもシェリルの奴はこの家に住んでおらんのかもしれんの」

「そ、そうですか……」


 モニカ教授は肩を落とし、落ち込んだ様子を見せる。


「やれやれ……元々は婿殿に毒を盛った犯人捜しをするのが目的じゃったのに、色々なものが絡んできてややこしくなってきたわい……」


 白い顎鬚(あごひげ)を触りながら、大公殿下が溜息を吐いた。


「ヒュー……」

「メルザ……まず、僕達にできるところから手をつけていきましょう。闇雲にあれもこれも手を出しては、それこそ収拾がつかなくなってしまいますから……」

「はい……」


 僕はメルザを抱き寄せ、その黒髪を優しく撫でた。

 まるで、メルザだけでなく自分も落ち着かせるかのように。

お読みいただき、ありがとうございました!


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