僕達には通じない
「っ!? あああああああああッッッ!?」
僕の抜刀術によって両腕の肘から上を切断され、サウセイル教授が悲鳴を上げる。
この技こそ、“カンタレラ”の毒によって存分に身体を動かすことができなかった僕が、苦肉の策として編み出した技。
それが結果として、最速の剣技として昇華することになったんだから、まさに怪我の功名だった。
「……サウセイル教授、まだやりますか?」
うずくまるサウセイル教授に、僕はサーベルを鞘へ納めてから無情の言葉を告げた。
「……あ、あらあら……まさか、これで勝ったつもり……です、か~……?」
脂汗を流しながら、サウセイル教授が引きつった笑みを浮かべる。
「先程で分かったでしょう? 僕のサーベルの間合いに入れば、一瞬でこうなる、と。確かにあなたの転移魔法などは瞬間的に移動が可能ですが、だからといってあなた自身が瞬時に動けるわけじゃない」
そう……魔法の発動などに関しては確かに一瞬だけど、メルザに手を伸ばした瞬間に斬り伏せることができるように、サウセイル教授自身の動きは決して早くない。
なら、魔法を使用する一瞬の動作の隙間で、僕のサーベルの間合いの範囲内であれば、絶対に負けない。
それに、仮に距離を取って攻撃魔法を仕掛けても、今度はメルザの魔法の餌食になるだけ。
つまり……もうサウセイル教授に打つ手はない。
「……とはいえ、何があるか分かりませんので、念のため」
「っ!? あううううううう……ッ!?」
僕はサーベルを抜き、サウセイル教授の魔法陣を映し出している両の瞳を一瞬で斬った。
「ヒューゴ君……なにもそこまでする必要はなかったのではないのか……?」
見かねたモニカ教授が、殺気を放ちながら尋ねてきた。
「ではモニカ教授にお聞きしますが、サウセイル教授の魔眼によって不測の事態が起こり、メルザに危害が及んだらあなたが責任を取ってくださるのですか?」
「…………………………」
僕がそう尋ね返すと、モニカ教授は押し黙る。
「僕は“深淵の魔女”を過小評価して、愛する女性を危険に晒すような愚は犯しませんよ」
「ヒュー……ありがとうございます」
メルザが僕の背中に寄りかかり、嬉しそうに感謝の言葉を告げた。
「サウセイル教授……あなたは、これから大公殿下に引き渡します。人身売買の罪や、あなたの実験に関することについては、大公殿下自らが尋問されるでしょう。ですが、その前に聞きたいことがあります」
歯を食いしばり、痛みに耐えているサウセイル教授に、僕は低い声で告げる。
「“カンタレラ”について、聞いたことはありますか?」
「……あらあら……それって、ヒューゴ君が飲んだ毒のことかしら~……?」
「ええ……今、僕達はその“カンタレラ”を盛った者が誰なのか探っているのですが……知っていること、全て話してくれませんか?」
「うふふ……私も、それが毒だということしか知りません~……」
僕はメルザへと視線を向けると、彼女はゆっくりと頷く。
どうやら、言っていることは本当みたいだ。
「ですが、アーキンが言ってました~……『“カンタレラ”を届けるだけで大金が転がってくるのだから、ボロい商売だった』と~……」
「届けるだけ……? 誰に届けるとか、そういったことは話していませんでしたか?」
「いえ、興味がなかったので聞いていませんでした~……」
「そ、そうですか……」
サウセイル教授の答えに、僕は肩を落とす。
だけど……届けるだけ、か……。
つまりその相手先は、オルレアン王国との繋がりがある人物、ということになるな……。
「……サウセイル教授、情報提供ありがとうございます」
「いえいえ~……私としては、お礼よりも見逃してくれるほうが嬉しいんですが~」
「すいませんが、それはできません」
昨日の大公殿下の表情を見てしまっては、ね……。
「あらあら、じゃあ仕方ありませんね~」
突然、サウセイル教授がニタア、と口の端を吊り上げた。
その瞬間。
「「「っ!?」」」
『うふふ、申し訳ありませんが、大公殿下に合わせる顔がありませんので、このまま失礼しますね~……それと、その両腕はヒューゴ君にプレゼントします~』
何の動作もなく一瞬で転移したサウセイル教授は、遠くから拡声魔法でそう言い残し、その姿を消してしまった。
「……仕方、ありませんね」
僕はサウセイル教授の両腕を拾い上げ、肩を竦める。
そして……どこか、ホッとしている自分がいて……。
「はい……まずは、お爺様のところに向かいましょう」
「ええ……」
僕とメルザは頷き合い、その場を去ろうとすると。
「ま、待ってくれ……」
モニカ教授が、僕達を呼び止めた。
「私も……君達や大公殿下の捜査メンバーに加えてくれ……」
「……どうして、ですか?」
唇をキュ、と噛みながらそう頼み込むモニカ教授に、僕は尋ねる。
すると。
「……私が、シェリルの親友だからだ」
モニカ教授は、声を無理やり絞り出すように、そう告げた。
「……分かりました。では、一緒に大公殿下のところへ行きましょう」
「ああ」
僕達三人は、馬車に乗りこんで大公殿下の元へと向かった。
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