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魔女の本性

「あらあら。三人共、どうしたんですか~?」


 サウセイル教授の研究室に入ると、珍しく彼女が服を着て起きていた。

 ただ、足場もないほど書類などが散乱している状況は相変わらずだけど。


 そして……僕は、この人に問い(ただ)さなければならない。

 どうして、人身売買なんかをしていたのかを。


「サウセイル教授……あなたにお尋ねしたいことがあります」

「……なんでしょうか~?」


 僕の雰囲気を察したのか、サウセイル教授は間延びした口調こそ変わらないが、僅かに身構えた。


「単刀直入にお聞きします。あなたはアーキン伯爵から、定期的に人間を買っていますね?」

「っ!?」


 僕の言葉に、サウセイル教授ではなくモニカ教授が息を飲んだ。


「ま、待てヒューゴ君! それは一体何の話だ!? なぜシェリルが、そんな違法行為を行うというのだ!」


 僕の言葉が信じられないのだろう。

 モニカ教授は、眉根を寄せながら僕に詰め寄る。


「……先日、アーキン伯爵やその家族、使用人に至るまで、全て何者かによって殺されました。大公軍による調査の過程で、アーキン伯爵が人身売買や麻薬密売など、数々の違法行為に手を染めていたんです。そして……その顧客名簿の中に、サウセイル教授の名前も」

「し、しかし……シェリル! 君も反論すべきだ! こんなことはあり得ない!」


 モニカ教授は、サウセイル教授へ視線を向けて必死に訴える。

 まだモニカ教授は、サウセイル教授のことを信じているのだろう……。


 でも。


「……あらあら。あの男、いつか身を滅ぼすとは思っていましたけど、まさか全員消されているとは思いませんでした~」


 サウセイル教授は頬杖をつきながら、軽く溜息を吐いた。


「それで、質問の答えはどうなのですか……?」

「うふふ、あなたのおっしゃったとおり、私はあの男から人間を買っておりました~」


 意外にも、サウセイル教授はそのことをあっさりと認めてしまった。


「……理由を尋ねても?」

「ええ、構いませんよ~。私は、魔力に優れた若い男女を買い漁ってました~。といっても、まだ十歳から十二歳くらいですけど~」


 そんな子どもを買って、一体どうするつもりなんだ!?


「うふふ、もちろん魔術の実験用ですよ~。あと、私を強化(・・)するためでもありますね~」

「どういう意味、ですか……?」


 サウセイル教授が告げる理由の意味が分からず、僕は聞き返す。


「知ってますか? 私って、人間から魔力を吸収できるんです~。そのおかげで、この若さ(・・)も保てますし、強さだって維持できるんです~」

「…………………………」

「ほら、人身売買で売られている子ども達って、皇都の貧民街から(さら)ってこられるんですよ~。だから、子ども達がある日突然消えても、誰も気にも留めないんですよね~」


 クスクスと(わら)いながら、楽しそうに語るサウセイル教授。

 僕には、そんな彼女が不気味な怪物(・・)のように見えた。


「それで、どうしますか~? このまま私を捕まえて、大公殿下につき出します~? といっても、私も逃げますが~」


 逃げおおせるという絶対的な自信があるのだろう。

 サウセイル教授には、焦りや恐れといった感情は見受けられず、その表情には余裕が感じられた。


「で・す・が、是非ともメルトレーザさんは欲しい(・・・)ですね~」

「っ!?」


 その言葉に、僕はメルザを背にしてサーベルの柄に手をかけた。


「だってそうでしょう? 彼女がいれば、向こう五十年は子ども達を買わなくても、魔力を吸収できそうですから~」

「……僕が、そんなことをさせるとでも?」

「あらあら、可愛いですね~。私はこう見えて、“深淵の魔女”ですよ~? 残念ですが、あなた達では相手になりませんので~!」

「っ!?」


 そう言った瞬間、サウセイル教授が一瞬で目の前から消えた。


「メルザ!」

「はい!」


 僕はメルザの名前を叫ぶと、彼女は僕と背中合わせになって身構えた。


 サウセイル教授が転移魔法を得意としていることは、これまでの付き合いで充分熟知している。

 もしメルザを狙うとしたら、その転移魔法で背後を突くか、何ならそのまま魔法陣へと誘導して転移させるかだけど……。


「そんな……どうして……」


 そんな中、モニカ教授だけはサウセイル教授の言葉が信じられず、頭を抱えてうずくまってしまった。

 可哀想だけど、今はモニカ教授に構っている暇はない。


 すると。


「っ! ヒュー! 左側から巨大な魔力を感じます! おそらく、この研究室ごと攻撃魔法で吹き飛ばすつもりです!」

「っ!?」


 くそ……厄介な真似を……!

 僕はどうやって魔法を防ぐか、あるいはどうやって魔法から逃れるから思考をフル回転させていると。


「ですが……ふふ、サウセイル教授も愚かですね」


 背中越しのメルザが、クスクスと笑った。


「メルザ……?」

「ヒュー、忘れたのですか? 私はヴァンパイア……人ごときの魔力など、ものの数にも入りません。ましてや、私は愛する人からその生命の源をいつもいただいているのです。だから」


 メルザはサウセイル教授がいるであろう方向へ、その白い手をかざした。


 そして。


「【雷槍(らいそう)】」


 あのサファイア鉱山で見せた雷の槍が、メルザの手から超高速で放たれた。

 稲妻を、(ほとばし)らせながら。


 当然、メルザの目の前にあった壁などは全て消滅し、皇立学院の景色が広がっていた。

 それで、サウセイル教授はどこに……っ!?


「うふふ♪」


 転移魔法陣によって一瞬で移動したサウセイル教授が、魔法を放って硬直しているメルザの頭上から現れ、手を伸ばしていた。


 だけど。


「……遅い」

「っ!? あああああああああッッッ!?」


 サウセイル教授の両腕の肘から上が、僕の抜刀術によって綺麗に切断された。

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