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魔女の取引履歴

「……ヒュー、よろしかったのですか?」


 帰りの馬車の中、メルザが心配そうに尋ねる。


「ええ。第二皇子派の動きなども知りたかったですし」


 そう……今回の事件で、第二皇子派についても色々と不審に思う点がある。

 というのも、普通に考えればあのお茶会でのことは、第一皇妃殿下や第一皇子が犯人でないのなら、普通に考えれば第一皇子派を追い落とそうとした第二皇子派の仕業だと考えるのが妥当だ。


 でも、使用された“カンタレラ”は猛毒で、僕とメルザに対して明確に殺意があるのは間違いない。

 にもかかわらず、第二皇子はあのように僕達を自分の派閥に入れることに躍起になっているようにも感じる。


 要は、やっていることがあまりにもちぐはぐなのだ。


「……ですので、今回のハーグリーブス家への訪問で、見極めてみようかと考えているのです」

「なるほど……そういう意図があったのですね……」


 僕の説明を聞き、メルザが納得の表情を見せて頷いた。


「メルザにはこんなことにつき合わせてしまい、申し訳ありません……」

「ふふ、何をおっしゃるのですか……私は、あなたと一緒ならどこでも幸せですよ?」


 そう言って、頭を下げて謝る僕にメルザはニコリ、と微笑む。

 うん……今回の事件が解決したら、絶対にメルザと二人きりで旅行にでも行って、最高に楽しませよう。


 そんなことを考えていると、馬車は屋敷に到着した。


「お帰りなさいませ、ヒューゴ様、メルトレーザ様。お疲れのところ恐縮ですが、大公殿下がお二人をお呼びです」

「大公殿下が?」


 出迎えてくれたセルマの伝言に、僕は首を傾げた。

 何か調査で進展でもあったのだろうか……。


「分かった。では、僕達はこのまま向かうよ」


 僕はメルザの手を取り、大公殿下のいらっしゃる執務室へと向かう。


「失礼します。僕達をお呼びとのことですが……」

「婿殿……メル……」


 扉を開けて執務室へ入ると、大公殿下にしては珍しく落ち込んだ様子で、力なく僕達の名前を呼んだ。


「ど、どうかなさったのですか!?」

「うむ……まあ二人共、座れ」


 僕達は促されるまま、ソファーに腰かける。


「……アーキン家と取引を行っていた貴族達の調査が、一通り終わったのじゃが……」


 そう言って、大公殿下は目の前にポン、と書類の束を置いた。


「見てもよろしいのでしょうか?」

「うむ……」


 僕は書類を手に取り、メルザと一緒に貴族の名前に目を通す。


「……ここにある貴族達は、どちらの派閥に属しているのですか?」

「……半分以上が第一皇子派、三分の一が中立派といったところかの」


 なるほど……となると、アーキン伯爵は中立派というより、第一皇子派に近いということなのかな……って!?


 書類の中に、見覚えのある貴族家の名前を見つける。

 だ、だけど、どうしてこの人が!?


「大公殿下! これ……!」

「そうじゃ……まさかあやつが、アーキンの奴と関わりがあったとは思わなんだ……」


 そう……取引先の名簿の中にあったその人の名前。


 “深淵の魔女”……シェリル=サウセイル。


「そ、それで、サウセイル教授は一体何の取引を!?」

「主に人身売買じゃ……どうやらシェリルの奴、定期的に人間を買っておったらしい……」

「そんな……」


 奴隷制もないこの皇国において、人身売買は売る方も買う方も、共に重罪だ。

 だけど……まさか、あの人がどうして……。


「……私はサウザンクレイン皇国の武を司る、シリル=オブ=ウッドストックじゃ。たとえ自分の大切な部下であろうとも、罪は償わせねばならん……」

「大公殿下……」


 眉間にしわを寄せ、険しい表情を見せる大公殿下。

 僕は……。


「……明日、学院でサウセイル教授と話をしてみます」

「婿殿?」

「サウセイル教授が、どんな理由があって人身売買に手を染めていたのかは分かりません。ですが何も知らないまま、ただあの人が捕縛されて幕引き、というのにも納得できません」

「うむ……」


 僕の言葉に耳を傾け、大公殿下が静かに頷いた。


「婿殿……頼む、あやつの声を聞いてやってくれ……」

「はい!」


 深々と頭を下げる大公殿下に向け、僕は力強く頷いた。


 ◇


 次の日の朝、僕とメルザは学院に到着するなり、まっすぐサウセイル教授の研究室を目指す。


 途中、第二皇子が僕達を見かけて声をかけてきたが、それも一切無視して学舎を過ぎて研究棟へと入った。


 すると。


「ん? 二人共、どうしたのだ?」

「いえ……少し……」


 タイミングが良いのか悪いのか、モニカ教授と出くわしてしまい、僕は視線を逸らしながら曖昧に答える。


「ふむ……なるほど、さてはシェリルの奴にまた面倒な頼み事でもされたといったところか……全く、ヒューゴ君はまだ病み上がりなのだから、もう少し配慮というものをだな……」


 モニカ教授は腕組みをしながら、何やらブツブツと小言を言っている。


「よし! 分かった! 今日という今日は、この私がシェリルに言ってやろう!」

「っ!? い、いえ! 僕達は大丈夫ですから!」

「なあに、遠慮するな。シェリルは魔術狂いで傍若無人ではあるが、意外とこの私の言葉には素直に従うのだ。まあ、任せてくれ」


 そう言って胸を張るモニカ教授。

 い、いや、できれば同席はご遠慮したいのですが……。


「ヒュー……」


 僕の名を呼び、かぶりを振るメルザ。

 どうやら一緒に連れて行くしかないみたいだ。


「……分かりました。では、一緒に行きましょう」

「ああ」


 結局、モニカ教授も一緒にサウセイル教授の研究室へと乗り込むことになった。

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