様々な思惑の行方
「結論からいいますと、“カンタレラ”はオルレアン王国のルートから持ち込まれたものでした」
「「っ!?」」
アビゲイルの説明を聞いた瞬間、僕とメルザは息を飲んだ。
まさか……あの国が、また関与してきているってこと、なのか……?
だ、だけど、言い方は悪いけど、この皇国には今、シモン王子が留学中……つまり、人質がいる状態だ。
そんな時に、自国の王子を危険な目に遭わせるような真似、するだろうか……。
「あは♪ 私の言葉が信じられない?」
アビゲイルがニタア、と口の端を吊り上げながら尋ねる。
彼女は自分の仕事に自信を持っているから、それを馬鹿にされるようなことされると激怒するんだよなあ……。
こういうところ、一回目の人生の時と変わってない。
「まさか。信じられないのはあなたではなくて、オルレアン王国の行動ですよ。これじゃまるで、シモン王子を排除してくださいと言っているようなものですからね……って」
ここまで口に出してから気づく。
そうだ……どうしてシモン王子がオルレアン王国でその地位が守られていると、どうしてそう言える?
サウザンクレイン皇国だって皇位継承争いでこんなに揺れているんだ。オルレアン王国でも同じ状態であってもおかしくない。
何より、敵国であるこの皇国に留学してきていることからも、むしろ邪魔者扱いされていると考えるほうが妥当だろう……。
「……そういえば、以前クロエ令嬢が呟いていましたね……『どこの国も似たようなもの』、と……」
「あ……」
あれは、そう言う意味だったのか……。
「……それで、その“カンタレラ”は誰が手に入れたか分かりますか?」
「その後も順を追って辿っていったのですが、“アーキン”伯爵家に売った、というところまでで、そこから先は残念ながらつかめませんでした……」
そう言うと、アビゲイルが悔しそうに歯噛みした。
彼女のことだから、てっきりそのアーキン伯爵家の当主から使用人に至るまで、全て殺害してでも聞き出すと思ったんだけど、ね……。
「……アイツ等全員目玉をくり抜き、指を一本ずつ切断してやっても『取引相手の素性を知らない』の一点張りだったんですよ……」
……前言撤回。
どうやら、たった二日間で一つの貴族家が消されたみたいだ。
「ヒュー……アーキン伯爵家に何があるのでしょうか……?」
「分かりません。ですが、アーキン伯爵家には、後ろ暗い連中との付き合いがあった、ということは間違いないでしょう……」
となれば、大公殿下にお願いしてアーキン伯爵家を徹底的に調査してもらったほうが早いかもしれない。
ここに至っては、アビゲイルに皆殺しされたおかげで事は上手く運びそうだ。
「アビゲイルさん、僕達はアーキン伯爵家の背後関係や皇宮内での立ち位置、その他含めて探ってみようと思います。本当に、ありがとうございました」
そう言って、僕は深々と頭を下げた。
「フフ……まさか、ここまでこの“影縫いアビゲイル”を関わらせておいて、はいさよなら、というわけではありませんよね?」
そう言うと、アビゲイルがニタア、と口の端を吊り上げた。
「……僕達としては、引き続き協力していただけるというのであればありがたいですが……よろしいのですか?」
「あは♪ 当然です♪ ここまでコケにされて、黙っていられませんから♪」
「分かりました……では、引き続きよろしくお願いします。アーキン伯爵家の調査結果が出ましたら、また来ます」
「お待ちしています♪」
僕とメルザは、アビゲイルに見送られながら店を出た。
「ヒュー……複雑になってきました、ね……」
「ええ……何より、今回の件は二つ……いえ、ひょっとしたらそれ以上の思惑があるということが分かりました……」
そう……僕やメルザといった、大公家を排除しようとする思惑、毒殺未遂の犯人に仕立て上げ、第一皇子を皇位継承争いから排除しようとする思惑、そして、シモン第三王子を排除しようとする思惑……。
「……この中で、一番理解ができないのが、僕を排除しようとした思惑ですけどね」
「はい……どうして……どうしてヒューが、狙われなくてはいけないのですか……!」
「…………………………」
ギュ、と拳を握りしめるメルザに、僕は答える術がなくて押し黙る。
普通に考えるとするなら、次期大公である僕を排除することで、後継者不在となった大公家そのものを皇国から消滅させる意図があるのかもしれないけど……って、いやいや、それにしても滅茶苦茶な……。
「……とにかく、アーキン伯爵家の調査をしてみましょう」
「はい……」
僕はメルザの隣に座り、彼女の華奢な身体を抱きしめる。
まさか、皇位継承争いから、こんなにも色々と飛び火してくるなんて、ね……。
僕は溜息を吐きながら、裏で色々な思惑が蠢いていることを知らないとでもいうような、そんな普段と変わらない景色を眺めた。
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