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交渉

「……それで、本業のほうのお客様だということは分かりましたが、あなた方はどちら様でしょうか?」


 ようやく交渉のテーブルにつくことができた僕とメルザに、先程までとは打って変わって柔らかい笑みを浮かべるアビゲイルが尋ねる。


「はい。僕の名はヒューゴ=オブ=ウッドストックと申します。こちらは、僕の婚約者のメルトレーザ=オブ=ウッドストックです」

「メルトレーザと申します」

「……なるほど、あなたがあの“戦鬼”、ウッドストック大公の後継者でしたか。そして、その“戦鬼”が命よりも大切にしているご令孫だったなんて……」

「おや? ご存知でしたか?」

「フフ……まあ、私の取引先(・・・・・)の一つを(・・・・)消しました(・・・・)から(・・)


 そういえば、元々アビゲイルは商売相手としてグレンヴィルと面識があったんだったな。

 どうやってあの男が伝説の暗殺者と知己を得たのか、分からないけど。


「ですが……それほどの強さをお持ちであれば、二人共私の後継者として育てたいのですけどね」

「ふふ、面白いことを言いますね。ヒューや私よりも弱いですのに」

「……これは、痛いところを突かれました」


 メルザの皮肉に、アビゲイルが苦笑した。

 でも、こうやって直接対峙した場合なら確かに僕とメルザに分があるけど、何でもあり(・・・・・)ということならアビゲイルに一日の長がある。


 というより、アビゲイルは武人ではなく暗殺者なのだから、ただ標的を始末すればいい。

 それが武によるものなのか、それとも罠によるのか、毒なのか……殺害手段は無数にあるしね。


「とりあえず、あなた方の素性は分かりましたが……そのような高貴なお二人が、どうしてこの私などに依頼などと?」

「はい……」


 僕は、皇宮であった第一皇妃殿下が主催したお茶会において毒殺されかかったことを話す。

 もちろん、その後の状況や大公殿下達による調査の進捗まで含めて。


「……なるほど、それは災難でしたね」

「いえ……これは僕の気の緩みが原因ですから……」


 僕は、そう答えてかぶりを振る。


「ふう……実力だけでなくその心構え、どうです? 私の後継者になりませんか? 私の持つ全てをあなたに伝授して差し上げますよ?」

「っ! だ、駄目です! ヒューは私と結婚してウッドストック大公になるのですから!」


 アビゲイルの言葉が本気だと分かったメルザが、二人の間に割って入って明確に拒否する。

 はは……僕も、アビゲイルからは既に教わっているしね……。


「話を戻しますが、僕が飲んでしまった毒は、あの“カンタレラ”なんです」

「……それはそれは」


 毒の名前を聞いた瞬間、アビゲイルの瞳が眼鏡の奥で鋭く光った。

 それだけ、珍しい毒でもあるからね……ひょっとしたら、すぐにピン、ときたのかもしれない。


「それで、僕達は犯人が“カンタレラ”を入手したルートを追っています。それで、もしご存知でしたら毒を売った人間とそれを買い付けた人間、それぞれ誰なのか教えてもらえないでしょうか?」

「…………………………」


 アビゲイルは口元を押さえ、思案する。


「……“カンタレラ”なんて毒、サウザンクレイン皇国では私くらいしか入手するものはいないのですが……少々気に入りませんね」


 今の口ぶりからすると、どうやら彼女も知らないみたいだ。

 何より、メルザがゆっくり頷いているということは、今の言葉が真実だということだから。


「でしたら、アビゲイルさんの持っているルートから、“カンタレラ”をこの国に持ち込んだ者を調べることはできませんでしょうか?」

「そうですね……一度、調べてみましょう。何より、この私の知らないところで勝手にそのような真似をされると、目障りなんですよね」


 そう……アビゲイルは、自分の領域(テリトリー)を侵されることを極端に嫌う。

 それだけ、彼女は自己防衛のための結界(・・)を張り巡らせているということなんだけど。


「どれくらいで分かりますか?」

「早ければ二日で可能です」

「でしたら、二日後にまた来ます。それで、報酬ですが……」

「ああ、今回の件は私の意志で調査しますので、報酬はいりません。ですが……場合によっては、私がその連中を調理(・・)するかもしれないということだけ、ご承知おきください」

「分かりました」


 まあ、アビゲイルも見せしめのために殺すことも当然といえば当然か。

 今後同じような真似でもされたら、それこそ示しがつかないし。


「ああ、それと」


 (きびす)を返そうとした瞬間、アビゲイルが声をかけてきた。

 ええと、他にまだ何かあったかな……。


「ヒューゴさんは、どうして私の正体を知っていたのですか?」

「……邪魔な僕達を消しますか(・・・・・)?」

「まさか。敵わない方々を相手取っていたら、それこそ命が足りませんよ……」


 そう言って、アビゲイルは肩を竦めた。


「まあ……過去にグレンヴィルの会話を小耳に挟んだことがありましてね」

「そういえば、ヒューゴさんはあの男の子どもでしたね」


 僕の答えを聞き、アビゲイルは納得した表情で頷く。


「では、二日後にまた来ます」

「はい。お待ちしています」


 僕とメルザはアビゲイルに見送られ、馬車に乗って屋敷へと向かう。


 その時。


「ぐう……っ!?」

「ヒュー!」


 僕は苦しさのあまり、胸を押さえてうめき声を上げた。

 はは……まだ毒から回復していないのに、さすがにアビゲイル相手に無茶しすぎたかな……。


「……お願いですから、もっと自分のお身体を大切にしてください」

「あはは……すいません。ですが、犯人を捕まえないかぎりは、メルザも僕も安心できませんから……」


 慌てて僕の身体を支えてくれたメルザに、僕は苦笑しながらそう答える。


「……でしたらせめて……どんな時も、どんな場所であっても、この私を必ず(そば)に置いてください……」

「はい……」


 僕の手を取りながら訴えるメルザ。

 そんな彼女に向かって、僕は静かに頷いた。

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