第一皇妃のお茶会
「メルトレーザ様、お手紙が届いております」
第二皇妃殿下のお茶会があった日から一週間後の夜、メルザとあの庭園で月明かりの下で談笑していると、執事長が一通の便箋を持ってきた。
それを見て、僕とメルザは一瞬身構える。
……あの豪華な便箋、ついこの間見た記憶があるんだけど……き、気のせいだよね……?
メルザが便箋をおずおずと受け取り、開封して手紙を読む。
「……今度はダイアナ皇妃殿下からのお誘いでした」
「ああ……やっぱり……」
僕とメルザは、力なく肩を落とした。
「しかも、ご丁寧にヒューにも一緒に参加するようにと書いてあります……」
「そ、それは用意周到な……」
うん、これで僕も強制参加だ。
だけど、メルザを一人にさせるくらいなら、そのほうがありがたい。
「それで……そのお茶会はいつ開かれるのですか?」
「そ、その……明日、学院の授業が終わってからだそうです……」
「明日!?」
い、いや、第二皇妃殿下の時も急だとは思ったけど、まさか第一皇妃殿下まで……。
「そんなに急いでお茶会を開く理由って、一体何があるんでしょうか……」
「さ、さあ……」
僕とメルザは顔を見合わせ、もう一度肩を落とした。
◇
「ヒュー……お待たせしました」
次の日、学院が終わって屋敷に戻り、お茶会へ出席するために着替えを済ませたメルザが、僕の部屋へやって来ておずおずと顔を出した。
……うん、前回のお茶会でも清楚なドレスだったけど、今回はより清楚な、白を基調としたドレスになっている。ハッキリ言って、メルザほど清楚が似合う女性はこの世にいないと言っても過言じゃない。
つまり、それくらいメルザは僕の心をとらえて離さないほど素敵なわけで……。
「あ……ヒュ、ヒュー……」
「メルザがいけないのです……メルザが、あまりにも素敵だから……」
僕は自分の気持ちを抑えきれなくなり抱きしめると、メルザが戸惑う。
でも、すぐにその細い腕で僕を抱きしめ返してくれて……。
「コホン」
……セルマの邪魔がなければ最高なんだけどなあ。
「お二人共、そろそろお時間です」
「……分かったわ」
メルザが少し不機嫌そうに返事をすると、ス、と右手を差し出した。
もちろん僕は、恭しく一礼した後にそっと手を取る。
「メルザ……では、まいりましょうか」
「はい」
僕とメルザは、玄関に用意されている馬車へと乗り込み、皇宮へと向かった。
そして。
「ヒューゴ、メルトレーザ、よく来てくれた」
皇宮に到着するなり、まさか第一皇子が出迎えてくれるとは思わなかった。
その隣には、第二皇妃殿下のお茶会でも見た、婚約者であるリディア令嬢がいる。
「……クリフォード殿下とリディア殿にこのようにお迎えいただき、恐縮至極に存じます」
「そのような堅苦しい挨拶はよせ。私達の仲だ」
そう言って、第一皇子は僕の肩に手を置くけど……ところで、僕と第一皇子の関係はどのようになっているのでしょうか……。
「それより紹介しよう。婚約者のリディアだ」
「“リディア=ウェッジウッド”です。どうぞよろしくお願いしますわ、ヒューゴ様、メルトレーザ様」
リディア令嬢は、優雅にカーテシーをした。
うん、第一印象としては、どこか勝気なイメージがあるなあ。
「ヒューゴ=オブ=ウッドストックです」
「ふふ、メルトレーザ=オブ=ウッドストックです。先日のお茶会では失礼しました」
「……いえ」
メルザの言葉に、リディア令嬢が少し眉根を寄せた。
どうやら感情を上手く隠せないタイプみたいだ。まあ、悪意や嘘が分かるメルザにはどれだけ取り繕ってもすぐに見破れるけど。
「では、会場はこちらだ」
「? 今日はクリフォード殿下も参加されるのですか?」
おもむろに僕達を案内する第一皇子に不思議に思い、僕は思わず尋ねた。
「当然だ。ヒューゴが参加する以上、この私が参加しないわけにはいかないだろう」
「そ、そうですか……」
別に僕が参加するからって、それに付き合う必要はないんだけどなあ……。
とはいえ、第一皇子も僕を何としてでも派閥に引き入れたいだろうから、躍起になっているのかもしれない。
そして、会場であるダリアの咲き誇る庭園へとやって来ると。
「ようこそ。よく来てくれたわね」
「これは……ダイアナ皇妃殿下、本日はお招きくださいまして、ありがとうございます」
わざわざ席を立って出迎えてくれた第一皇妃殿下に、僕とメルトレーザが恭しく一礼した。
「本日は私が主催ではあるけれど、主役はこのクリフとリディアよ。あなた達には、是非とも二人と仲良くなってほしいわね」
「はい……」
露骨に僕とメルザを第一皇子と懇意にさせようとする、第一皇妃殿下。
なんだろう……悪意や打算がある、というよりも、不器用な印象を受ける……。
「さあ、もう他の令嬢方も集まっているので、あなた達も席に着きなさい」
「「は、はい……」」
僕とメルザは、指定された席に着くけど、前回と違って今日はアーチで影もないので、僕は傘を差したまま座った。
「……ヒューゴ、さすがにお茶会の席で傘を差したままというのはどうなの……?」
「ダイアナ皇妃殿下、申し訳ありません。メルザは肌が弱く、日光を避ける必要がありますので」
たしなめる第一皇妃殿下に、僕は断りをいれてメルザに傘を差し続ける。
たとえ第一皇妃殿下だろうと、こればかりは譲れない。
「ふふ……ヒューはいつでも、たとえ誰であっても変わりませんね……」
「いいえ、僕はすぐに自分を変えますよ。メルザが『カラスが白』と言って喜ぶのであれば、たとえ黒いカラスであっても白と言い続けます」
「あう……そういうところが、その……変わらなくて嬉しいのです……」
そう言うと、メルザが傘を持つ僕の右手にそっと手を添えた。
「……分かったわ。では、このままでお茶会を始めましょう」
結局諦めた様子の第一皇妃殿下の言葉で、今日のお茶会が始まった。
「ふふ……ヒューも傘を持ったままではお茶が飲めませんでしょう? ですので……」
そう言うと、メルザがティーカップを持って僕の口元へ運んでくれた。
「あ、ありがとうございます」
僕はカップの縁に口を当て、メルザに傾けてもらう……っ!?
「ぐふ……っ!?」
「っ!? ヒュー!?」
お茶を飲み込んだ瞬間、僕は口から血を吐いた。
「メ……メル……ッ!」
「ヒュー! ヒュー!」
メルザが涙を零しながら、僕の名を何度も叫ぶ。
ああ……メルザがお茶を飲む前で、よか……っ……。
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