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揉め事

 僕とメルザが教室へやって来ると、昨日のお茶会の件で令嬢達が思い思いに話し合っていた。


 まあ、普通であれば第二皇妃殿下のお茶会に、まだ一介の令嬢でしかない身分で出席したんだ。こんな反応になってしまうのも頷ける。


 そんな中。


「…………………………」


 唯一招待されていないクロエ令嬢だけは、その話題に入らずに一人席に座っていた。

 シモン王子も、教室内にその姿がない。


「メルザ……」

「……ふふ、ヒューは優しいですから仕方ありませんね」


 僕がメルザを見ると、彼女が苦笑する。

 そして僕達は、クロエ令嬢の元へ向かった。


「おはようございます、クロエ殿」

「ふふ、おはようございます」

「あ……ヒューゴ様、メルトレーザ様、おはようございます」


 声をかけると、クロエ令嬢は立ち上がり、深々とお辞儀をしながら挨拶をした。


「ところで、シモン殿下の姿が見えませんが……」

「はい。今朝伺うと、本日は体調を崩されたようで、授業はお休みされることとなりました」

「あ、そ、そうですか。それはお大事に……」

「いえ」


 ううむ……妙に気まずい。

 何というか、クロエ令嬢は表情もあまり変わらないから感情が読み取りづらいし、会話も淡々としているからなあ……。


「ふふ……クロエさん、この学院はどうですか?」

「そうですね……日が浅いので何とも言えませんが、なかなか興味深いです」


 メルザが微笑みながら尋ねると、クロエ令嬢はそう答える。

 僕は、彼女の言った『興味深い』との言葉が妙に気になった。


「ええと……皇立学院で何か気になったところがありましたか?」

「はい……というより、オルレアン王国にはこのような貴族の子息令嬢が通う学院はありませんので……」

「そうなんですか?」

「はい」


 オルレアン王国はこのサウザンクレイン皇国と並んで大国の一つだから、てっきりこのような学ぶ場所があるものと思っていたけど……。


「なので、私にはこの学院が興味深いです」

「そ、そうですか……」


 クロエ令嬢は静かに目を閉じ、そうささやいた。

 ……彼女は彼女で、思うところがあるのかもしれない、な……。


 すると。


「みんな、席に着くように」


 モニカ教授が教室にやって来た。


「で、では、僕達も席に戻ります」


 そう言って、僕とメルザはクロエ令嬢から離れようとしたところで。


「……ありがとう、ございます」


 クロエ令嬢が、静かに感謝の言葉を告げた。


 ◇


「なんだと! もう一度言ってみろ!」


 昼休みになり、僕とメルザ、それにクロエ令嬢の三人で、食堂で昼食をしていると、突然怒号が聞こえた。

 見ると……あれは、サイラスか?


「アイツ、こんな大勢がいる中で何をしているんだ……」


 そう呟き、僕は溜息を吐く。

 それに、第二皇子はどうしたんだ? こういう時こそ、ちゃんと止めるべきだろうに……。


「どうやらサイラスの相手は、上級生の方のようです」

「そうみたいですね」


 僕達のネクタイの色が青色なのに対し、サイラスと対峙している生徒のネクタイは緑色。

 これは、僕達の一つ上であることを表している。


「……とりあえず、迷惑ですので止めてきます」


 席を立ち、僕はサイラスの元へと向かう。


「サイラス、お前はこんな食堂で何をしているんだ」

「あ、ヒュ、ヒューゴ、殿……い、いや! それはこの者達が……!」


 避けられていたはずの僕に声をかけられたことで一瞬怯んだサイラスだったけど、すぐに気を持ち直して上級生を指差しながら何かを訴える。


「すいません……このサイラスと、何かあったのでしょうか?」


 とりあえずサイラスを無視し、僕は上級生に尋ねると。


「貴様もコイツと同じか! 全く……アーネスト殿下の従者は碌な連中がいないな!」

「何だと! またもや侮辱する気か!」

「フン」


 なるほど……今のやり取りで分かった。

 どうやら、絡まれたのはサイラスのほうだったらしい。


「それで、サイラスは……失礼、あなたのお名前を伺ってもいいですか?」

「俺か? 俺は“デイル”伯爵家の長男、“ブルーノ=デイル”だ」


 どこか勝ち誇るように名乗る上級生。

 だけどデイル伯爵といえば、確かいくつもの商会を持っている有力貴族の一つだな。


「話を戻しますが、サイラスはブルーノ子息に何をしたのですか?」

「この男は、俺の肩にぶつかってきたのだ。ただでさえデカイ図体をしているのだから、第二皇子派は大人しく、隅でも歩いていればよいものを」


 ああ……この不遜な態度。確かにサイラスも、己の武になまじ自信があるせいか、大きい態度を取ることがあるが、僕に両腕を斬られてからは大人しくなったのを知っている。


「このように従者のしつけもできないのなら、やはりアーネスト殿下は我が国の皇帝となるには相応しくない」

「言わせておけばああああああッッッ!」


 やれやれ、と肩を(すく)めながらかぶりを振るブルーノ子息に、サイラスが吠えた。

 だけど……確かにこれは言い過ぎだ。


「……別にサイラスの肩を持つわけではありませんが、一介の子息でしかないあなたが、皇国の皇子に対してそのような言葉を吐くのは不敬ではないでしょうか?」

「何故だ? 俺は事実を言っただけだろう? なあ!」


 ブルーノ子息が振り返りながら相槌を求めると、一部の生徒達から歓声が上がる。

 どうやら、あの連中も第一皇子派というわけか。


「ブルーノ子息……ここは皇立学院です。そのような家同士の派閥争いを、ここに持ち込まないでいただきたい」

「っ! 何を生意気な! 貴様、名は何という!」


 僕の言葉が気に入らないブルーノ子息が大声で尋ねた。


「僕はウッドストック大公家の後継者で、メルトレーザ=オブ=ウッドストックの婚約者、“ヒューゴ=オブ=ウッドストック”だ」

「っ!?」


 そう告げた瞬間、ブルーノ子息が目を見開いて息を飲んだ。

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