あなたがいれば ※メルトレーザ視点
■メルトレーザ=オブ=ウッドストック視点
「みなさん、私の招待を受けてくださり、ありがとうございます。今日は是非、楽しんでくださいね」
第二皇妃殿下の言葉を皮切りに、皇宮でのお茶会が始まった。
幸いなことに会場は、薔薇のアーチが日除けとなり、私の肌が赤く焼かれずに済んでいる。
そ、それにしても……ヒューがいないと、他の令嬢方に何をお話ししていいか、分からないですね……。
「あ……メ、メルトレーザ様、ごきげんよう……」
「ご、ごきげんよう……」
ああ……せっかく声をかけてくださったのに、私ときたらただ普通に言葉を返すだけだなんて……。
これがヒューでしたら、雪解けの川の流れのように私の口から言葉が紡がれていくのですが……。
お茶を口に含みながら、どうすればいいかと困惑していると。
「あの……メルトレーザ様、ですよね……?」
「は、はい……」
斜め前に座る令嬢が、私の表情を窺いながら声をかけてきた。
でも、どうやらAクラスの生徒ではないようですし、この方は……。
「やはりそうでしたか……私はアーネスト殿下の婚約者の“イライザ=ハーグリーブス”と申します」
「あ……メルトレーザ=オブ=ウッドストックです」
アーネスト殿下の婚約者を名乗るイライザ令嬢と、お互い自己紹介をする。
ハーグリーブス家といえば、財務大臣のハーグリーブス侯爵のご令嬢なのですね……。
「ウフフ……アーネスト殿下から、『学院に絶世の美少女がいる』と何度もお伺いしまして、是非ともお目にかかりたいと思っていたんですの」
「そ、そうなんですね……」
あの第二皇子、婚約者になんて話をしているのでしょうか……。
私はイライザ令嬢への第二皇子の扱いを聞き、思わずかぶりを振った。
「ハア……私があと一年……いえ、半年早く生まれていれば、アーネスト殿下やメルトレーザ様と一緒に学院生活を過ごせましたのに……」
「あ……ではイライザさんは、私達よりも一つ年下なのですね?」
「はい」
溜息を吐くイライザ令嬢に確認すると、彼女は首肯した。
ああ、確かに一緒でなければ、寂しくて不安になったりもしますよね……。
「ふふ……ですが、もうあと半年もすれば、イライザさんも学院に入学ですから、その時は一緒ですね」
そう言って、私は励ましの言葉をかけると。
「はい! その時は、どうぞよろしくお願いします!」
イライザ令嬢は笑顔を見せ、頭を下げた。
その時。
「そ、その、レオノーラ皇妃殿下……お尋ねしたいことが、あるのですが……」
令嬢の一人が、第二皇妃殿下におずおずと声をかけた。
「あら? 何かしら?」
「は、はい……本日、私達Aクラスの令嬢をお招きいただいたようなのですが、その……」
なるほど……何故、私達まで招待されたのか、というところでしょうか。
確かに、今尋ねている令嬢は第一皇子派の家の御方ですし、不審に思うのも当然です。
まさか自分を通じて、家に第二皇子派に鞍替えしろと強要されるのではないか、と。
「うふふ。それはもちろん、これからも同じクラスの生徒として、アーネストと仲良くしてほしいからよ。もちろん、あくまでも学院の生徒として、ね」
そう言うと、第二皇妃殿下はニコリ、と微笑んだ。
ですが……その言葉を額面どおり受け取る令嬢はいないでしょうが。
「まあ、深く考えないでちょうだい。ただ、アーネストのご学友がどのような方々なのか、知りたいだけでもありますから」
「は、はい……」
……第二皇子派の家の令嬢はともかく、第一皇子派の令嬢はいたたまれないでしょうね……。
ただ、第二皇妃殿下の言葉に嘘は見受けられないですから、純粋に本心なのは間違いないようです。
とはいえ、その言葉の裏に別の意味があるのなら、また話が変わってきますが。
「うふふ……メルトレーザ、イライザとは仲良くなれそうかしら?」
「はい……明るく気さくで、すぐに打ち解けられそうです」
「はい。私も、メルトレーザ様を実の姉以上にお慕いできる御方だと感じました」
私とイライザ令嬢の言葉を聞き、第二皇妃殿下は満足げに頷いた。
それにしても……本音を言えばこのお茶会、少々息が詰まりそうです……。
やはり、他の令嬢のみなさんは私に遠慮しているようですし、第二皇妃殿下とイライザ令嬢は気さくに声をかけてくださいますが、それはそれで……。
そんな心の不安の表れからか、私はついヒューを探してしまう。
ヒューがいれば、私の心はいつも穏やかでいられるのに……。
そう思いながら、周囲を見回すと。
「あ……」
庭園に咲く薔薇の隙間から、ヒューが微笑みながら私を見つめている姿があった。
ふふ……てっきり馬車でお休みになられていると思っていましたのに……。
ずっと見守ってくださっていることへの嬉しさで、私は顔を綻ばせる。
ああ……たったそれだけのことで、先程まで感じていた不安が消え去り、私の心の中が満たされる……。
これで私のすぐ傍にいてくださったら、どこまでも幸せを感じられるのに……。
「うふふ……ヒューゴが気になるのかしら?」
「あ……そ、その……」
私がヒューを見つめていたことに気づいた第二皇妃殿下が、クスリ、と笑う。
「いいのよ。そうだ、せっかくですので、彼にもこのお茶会に参加していただいたらどうかしら?」
第二皇妃殿下は楽しそうに他の令嬢に尋ねるが、当然ながらそれに反対できる令嬢はいなかった。
「そういうことですのでメルトレーザさん、ヒューゴを呼んでいらっしゃい」
「は、はい!」
私は席を立ち、陽射しを素肌に浴びることもいとわずに駆け足でヒューの元へと走る。
もちろん、赤みがかった私の頬は、思い切り緩んでいることだろう。
「ヒュー!」
私が陽に焼かれるのを見て傘を持って慌てて飛び出したヒューの胸に、私は思い切り飛び込んだ。
「ど、どうしたんですか!? お茶会は!?」
「ふふ! 第二皇妃殿下が、ヒューの同席をお認めくださいました!」
「ええ!? い、いいんですか!?」
「はい!」
驚くヒューに、私は満面の笑顔で答える。
「さあ! 早く行きましょう!」
「あ、あはは!」
私がヒューの腕を抱きしめながら引っ張ると、ヒューは苦笑しながらもその口元は思い切り緩んでいた。
ふふ! ヒューと一緒にいられる! 嬉しい! 嬉しい!
もちろん私もヒューに負けないくらい……いえ、ヒュー以上に、頬も口元も緩みっぱなしです!
そして、ヒューを連れて会場へと戻ってくると。
「…………………………」
「…………………………」
そこには、眉根を寄せながら第二皇妃殿下を睨んでいる、一人の夫人と、一人の令嬢がいた。
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