第二皇妃
皇立学院の一日の授業が終わり、屋敷に戻ってくるなりメルザはお茶会のための衣装替えをしている。
もちろん僕もエスコートするわけだから、相応しい服装に着替えているけど。
「……本当は、もっとおしゃれをするべきだと思うのですが……」
「いやいや、今日はエスコートというより護衛に近いから、動きやすい服装でないと意味がないだろう……」
僕の服装に不満げな様子を見せるセルマを、僕はたしなめる。
「今回は仕方ありませんが、次からはこうはまいりませんので」
「そ、そうだな……」
ま、まあ、セルマのセンスはメルザに好評なので、僕も受け入れざるを得ないんだけど……。
すると。
――コン、コン。
「ヒュー……支度が整ったのですが、おかしなところはありませんでしょうか……」
着替え終わったメルザが、僕の部屋にやって来た。
う、うわあああ……パーティーのドレスのようなきらびやかな服装もいいけど、こういった清楚な服装も、そ、その……うん、間違いなく世界一綺麗だ……。
「あ、ど、どこかおかしかったでしょうか……?」
「メルトレーザ様……ヒューゴ様は、あまりの美しさに呆けていらっしゃるのです」
「あう……そ、そうなんですね……嬉しい……」
はい、その少し恥ずかしそうにしながらもうつむきながら口を緩めるメルザ、尊くて仕方がありません。
そしてセルマ、ナイスアシストだよ。
「で、ではまいりましょうか……」
「は、はい……」
僕はメルザの手を取り、部屋を出て玄関で待機している馬車に乗りこむ。
「そ、そういえば私、お茶会に参加するのが初めてでした……」
「あ、そ、そうですね……」
メルザは例の噂があったせいで、僕と出逢うまで外との交流を持ったりしなかったからなあ……。
本当の彼女は、こんなにも思慮深くて優しくて、誰よりも素敵な女性なのに。
「あははっ」
そんなことを考えていると、思わず笑みが零れていた。
「? どうしたのですか?」
メルザが、不思議そうに尋ねる。
「はい……本当に、僕は幸運だったな、と……だって、メルザはこんな魅力的な女性なのに、僕以外誰もそのことに気づかなかったのですから……」
「あ……ふふ……ですがそれは、あなただから私を見つけてくださったのですよ?」
「でしたら、僕は自分の目を、心を、これほど褒めてやりたいと思ったことはありません」
「も、もう……ヒューは出逢ってからずっと、私を喜ばせて……幸せにしてばかりです……」
「あはは……その言葉、そのままあなたにお返しします」
僕達は皇宮に着くまでの間、手を繋ぎながら出逢えたことへの奇跡に、女神グレーネに感謝した。
◇
「ようこそ来てくださいましたね」
本日のお茶会の会場となる皇宮の薔薇庭園へとメルザをエスコートしてやって来ると、第二皇子の母君であらせられる、“レオノーラ”第二皇妃殿下が笑顔で出迎えてくれた。
だけど……思っていた印象とまるで違うな……。
第二皇妃殿下の表情は柔らかく、上品な印象を受ける。
物腰や仕草も洗練されていて、さすがは第二皇妃殿下だと思わせた。
ウーン……第二皇子は、どちらかといえば前の人生においても、そして今も、どこか軽い印象があるから、本当に親子なのか疑ってしまいそうになる。
「だけど……ウッドストック卿から聞いていたとおり、こうやって婚約者がエスコートまでしてくるなんて、本当に仲睦まじいのね」
「はい……ヒューは、私の全てです……」
クスリ、と微笑みながら第二皇妃殿下が告げると、メルザはそう答えて嬉しそうにはにかんだ。
「うふふ、ぜひあの子の婚約者にも、その秘訣を教えてくださる?」
「と申しますと……アーネスト殿下の?」
「ええ。ちょうど“イライザ”も今日のお茶会に招待しているから、メルトレーザと仲良くなってくれると嬉しいわ」
両手を合わせながら、第二皇妃殿下がそんなことを言った。
メルザを見てみると……特に変わった様子もないところを見ると、純粋な言葉だったようだ。
なるほど……第二皇子のあの言葉、今なら頷ける。
確かに政治的な駆け引きとか、そういった考えはないみたいだ。
「メルザ。では僕は、向こうで控えていますね」
「あ……」
メルザの手をそっと離すと、彼女は名残惜しそうな表情を浮かべた。
「レオノーラ皇妃殿下、メルザをどうぞよろしくお願いします」
「うふふ、もちろん」
僕は深々と頭を下げると、薔薇庭園から離れてテラスへと移動した。
まあ、馬車の中で待っていてもいいんだけど、それだと万が一のことがあった時に対処できないし、何より、お茶会を楽しむメルザの笑顔が見れないからね。
ここなら、メルザの様子がよく見えるし。
その後も、招待を受けたクラスの令嬢達が次々とやって来て、第二皇妃殿下と挨拶を交わしてから着席していく。
そして……いよいよ、お茶会が始まったみたいだ。
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