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第4話

 小さな騒動がひと段落した後、3柱の神は三角形を作るようにして黒椅子に腰かける。

 状況を整理した彼らは、今後の転生に関して思いを馳せた。


「此度のことは我らの側に非がある。貴様が手ずから回収に乗り出すのは止められまい」

「ですが、やはりその子を無調整で送り出すというのは反対です。何らかの制限を設けないといけません」

「だよな…そこらへんはお前さんの采配に任せるわ」


 そうだろうと誇らしげに頷く少女の姿は、親戚におだてられて喜ぶ子供のようである。

 その自信が普段からあればよいのだが、という黒神の呟きは聞こえていないらしい。

 落ち着きを取り戻したリィンは、預けられていた魂を見やる。

 無垢な魂は、反応も返すことなくただその場に漂っている。


「ある程度まではニジメ様の指示も取り入れるつもりですが…」

「必要以上の被害を出さぬように努めねばなるまい……余としては寧ろ死者は歓迎したいところだがな」

「俺の目標はあくまでも『件の魂を回収すること』だからな。その過程でアンタの悩みも解決できるなら別に構わないけど」

「…年ごとに100の生者が出たからとて、1日で100の死者を出せばよいというものでもない」

「難しいな……そういやウチのも外来生物とかで色々苦労してたわ」

「話が逸れてますよ」


 人間達が住まう次元に対する神の干渉は様々な影響を及ぼすため、本来であれば神の出る幕というのは少ない。

 今回のように化身を送り込む程の介入は、神の尺度を以てしても久しい試みだった。


「…もう限界まで強化すればいいだろ」

「そんな強い子が出てきたら戦闘の余波が…」

「件の転生者は下僕を増やし続けておる…万一にも突破できねば次は無かろう。確実に殺害せねばなるまい」

「かといってもう下手な暗殺はできないしな…」

「強くなり過ぎです。傷つかないわけではありませんが、余程の火力が無いとすぐに回復されてしまいます」


 矢張り駄目か、とありもしない空を仰ぐニジメ。

 見上げた先にあるのは、どこまでも続く白の空間だ。

 いっそのことウチの()()でも放り込むかと思案していた矢先、リィンがぽつりと呟く。


「寧ろ弱体化させる…とか」

「弱体化ぁ?んなもん付けてどうすんだ」

「……否、弱らせておくのは妙案やもしれぬ」

「はぁ?弱いんじゃ転生特典持ってる奴殺せねえだろうが」


 どうにも理解できないという様子のニジメに対し、リィン神が子供を諭すように説明する。


「あのですね…転生者というのは、基本的に弱者の中に転生するんです」

「………うん?」

「そして、転生者の周囲に別の転生者を送ると、後から来た子は能力を制限されてしまうんです。それこそ、絶対に勝てないレベルまで」

「加えて、そ奴らは往々にして敵対関係になる。後の転生者は先の転生者とその下僕に勝つことなく、無残に死んで逝くのだ…言うなれば『早い者勝ち』ということだ」

「いやいやいや……何で?どういう理屈でそこまで排除の方に動くんだよ!ご都合主義にも程があらぁ」


 素っ頓狂な声を上げたニジメだが、すぐさま湧いた疑問を放り投げる。

 世界樹の性質として『そういう特徴』があるならば、あらゆる理屈や過程を飛び越えて『そう』なるのだ。

 まさしく『ご都合主義』としか呼べない仕組みが、確かに存在しているのだ。


「……まあうまいこと仲間として潜りこめれば、排除されることもなくなる、か」

「言ったように、件の転生者と下僕は1つの組織となりつつある。最早、外からでは崩せまい」

「極限まで弱体化させて、そいつが完全に油断した所で一気に制限を解けば…」

「化身の魂を用いた自爆兵器のようなものだ。諸共に塵も残さず消え失せよう」

「何せ俺の化身だからな、至近距離で解放…いや破裂か?」

「ともかく、化身で出せる最大火力なのは間違いありません!あの子に与えた特典と環境だけではどうすることもできませんよ!」


 どうしても国ひとつは滅ぶことになるが、それでも最も確実性のある手段だ。

 この世界のレベルであれば、国1つが爆発と共に消し飛んだ所で終焉を迎えることはない。

 転生者の様子を確認する限り、この近距離特攻(兵器の自覚無し)作戦で生き残ることはできない。

 遂に希望の糸口が見えたことで、三神三様に安堵の色を見せる。

 その勢いのままに、今度はリィン神が閃いたようだ。


「あの子は男の子に転生したようなので、この化身ちゃんは可愛い女の子にしましょう!」

「……いきなり元気になり過ぎなんだが、大丈夫なのかアレ」

「……転生作業が終わった暁には、暫く療養させるとしよう」


 キラキラと顔を輝かせるリィンに、2神は訝し気な顔で返す。

 手元の石板を熱心に操作する彼女には、もう彼らの声は遠く離れ初めていた。











「よし、これなら悩殺間違いなし!……あら、テルス様はどちらに?」

「帰ったぞ。お前さんには後で長期休暇を与えるそうだ」

「え」

「んで?準備はできたのかよ」


 一心不乱に調整を続けていたリィンが作業を終えたのは、呆れたテルス神が自身の領域に帰還してからのことだった。

 突然の報告に表情を固めた彼女だったが、進捗を問われると再び目を輝かせた。


「できましたとも!これならあの子も魅了されること間違いありません!」

「どれどれ………おーいい感じだぜ!いやこれホント…いい感じだわ」

「ふふん、そうでしょうとも!」

「うんうん、いやはやいい感じだ………よし!転生させるとすっか」

「はい!」


 彼女が満面の笑みで魂に手をかざすと、その丸い姿が次第に光を放ち始める。

 しかしそれも僅かな間で終わり、やがて化身の魂は生まれるべき場所へと消えていった。

 いい仕事をしたと晴れやかに締めくくるリィンを眺めながら、ニジメはぼんやりと笑う。

 その表情は、まるで無邪気に喜ぶ幼子に付き合う親のようだった。













─────あれじゃ男受けしないからコッソリ変えといたとか、言えないよなあ

後に主神は、妻である女神とその他大勢から5000年間は休憩時間無しという罰を受けましたとさ


ということで、この話はここまでです。

最後まで読んでいただいた皆様、誠にありがとうございました。

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