第6話 キノコvs団子vsどんぐり
「ホーホホホホ! あなたがアロンさんですか。私はレピュブリク・フランボアーズ王国の第二王女コルよ。さあ、私にひれ伏しなさい。さすればキノコが与えられるであろう」
コルと名乗った女性は手に持った扇子で俺を指さした。
コル様がこんなイカれた女性だったのか。俺は驚いたと同時にセロがのりちゃんと結婚しようとした理由が分かった気がした。そして、セロとマスキングをくっつけたことに多少なりとも罪悪感があったのだが、コレが相手なら、まだメスゴリラのマスキングのほうがマシな気がして、ほっとする。
俺は団子を食べようと手に取ったまま唖然としているとコルがまた、高笑いをした。
「ホーホホホホホ! 何ですかそれは? そんな物よりもキノコをお食べ。えい!」
扇子をくるりと回すと、俺が手に持っている団子に黄褐色で繊維状のキノコがポコポコと生えたのだった。
「ひゃ!」
あまりのことに俺が団子を皿の上に落とすと、そのキノコはどんどん増殖して皿中の団子の上に黄褐色のキノコが生えたのだった。
俺の団子がキノコまみれに! キノコを取ればまだ食べられるか?
「こ、これは何だ?」
「ホーホホホホホホ! 何って、知らないですの? 学がない男だこと、このキノコはオオキヌハダトマヤタケですわよ」
「オオキヌ……何だって? そんな事より、このキノコは食べられるのか?」
「ホーホホホホホホホ! 食べられますわよ。ただし、食べると大量発汗、体温低下、呼吸困難を起こしますがね」
「それって食べられないって事じゃないか! ふざけるな」
「ホーホホホホホホホホ! でしたらこんなのは如何?」
コルがまた扇子を振るうと、黄褐色のキノコはあっという間にしぼむと、燃え上がる炎や鹿の角の様な形の赤いキノコが生えてきた。
コルが生えさせたのだからキノコの一種なのだろうが、俺が知っているキノコとは違っていた。
俺はキノコを触ろうとしながら、コルに聞いてみる。
「これもキノコ? 今度こそ食べられる?」
「ホーホホホホホホホホホ! 触るだけで皮膚はただれ、三グラムも食べれば死んでしまいますわよ」
「猛毒じゃないか! もう頭にきた~!」
俺は万が一を考えて持ってきていたロープをくるりとコルに巻き付けると接着した。
これでキノコが生えてくることもないだろう。
「あっ、召し捕ったり~」
「な、なにをするのです!」
「それはこっちの台詞だ! なんで初対面の俺に毒キノコなんかを喰わせようとするんだ?」
「あなたのせいで、私は婚約を破棄されたのですよ。「俺は運命の相手に出会った。おまえとの婚約は破棄する」と言われた私の気持ちがあなたに分かりますか? その上、セロ様の運命の人はゴリラなのですよ。こんな屈辱は生まれて初めてです!」
うん、まあ、その気持ちは分からなくもない。確かに運命の相手が、飴色の髪の可愛らしい少女であればまだ諦めが付くだろう。しかし、相手はゴリラだ。そこは同情する。
しか~し、俺の団子タイムを邪魔する理由にはならない。
全ては、俺の胃袋が団子によって満たされた後の話だ。
「話は団子の後に聞こう。のりちゃん、団子プリーズ! あんこ大盛りで!」
グルーに凡土、そしてコルを相手にして疲れ果てた俺は甘さMAXの餡団子をたらふく食べたくなった。
なんとかロープをほどこうと暴れるコルを尻目に、のりちゃんが山盛りの餡団子を持ってきた。
三度目の正直だ。俺は間髪入れずに団子を手に取る。
「あら~、ちゃんと捕まえてくれたのね。ハナミうれしいわ~」
そこには俺を転生させた女神が、いつの間にか俺の目の前に座っていた。
そう言えば転生の時に、キノコを生やす人間を捕まえて欲しいと言ってたな。それがコルだったのか。
じゃあ、俺の仕事は終わり? あとは好きに生きていいのかな?
俺がボーっとそんな事を考えていると、暴れていたコルが女神を見て叫んだ。
「あ! 毒キノコの女神!」
「やっぱり、あんたが毒キノコの女神だったんじゃないか! それと、この団子は俺のだから勝手に食べるんじゃない」
「う~ん、おいしいんだけど、あんこが邪魔ね。団子は団子だけでいいのよ。肉まんは皮だけいいのよ。餃子も皮だけが至高!」
「いや、あんたの好みなんて聞いていないんだよ。コル様が目当てなら、さっさと連れて行ってくれ。俺はゆっくりと団子が食べたいんだ」
「ちょっと、女神的にあんこは許せないわね~。そうだ、アロンくん、もう一人捕まえて欲しいのよ。豆の女神が豆を出したり、あんこを出したりする女性をこの世界に転生させちゃったのよね」
女神の言葉を聞いてコルは慌てた。どうやら、女神が言う豆の人に心当たりがあるのだろう。
「豆を操るって、それはコッラお姉様じゃないですか!」
第二王女のコルが姉と呼ぶのだから、コッラはレピュブリク・フランボアーズ王国の第一王女だろう。第二王女に続いて、第一王女まで俺に捕まえろというのか? このどんぐり女神は。
だいたいそんな事をして、俺に何のメリットがあるんだ。
「いやです」
「アロンさん……」
俺の返事を聞いて、コルが嬉しそうに俺を見ていた。
いやいや、別にコルの希望を聞いたわけではなく、ただ面倒なだけ何ですが。
しかし、多くは語らずにいることにした。
「あら~困ったわね。そうすると女神的にはアロン君のスキルを取り上げるしかなくなるけどいいの~?」
女神ハナミは無邪気な笑顔で俺を脅してきた。
どんぐり女神のくせに、生意気だぞ。
しかし、このスキルがないと落ち着いて団子も食べられない。そもそもこの世界自体、団子に対して厳しすぎる。世界が団子に厳しいならば、世界を団子に優しくしてやればいいのだ。そうか、俺がこのスキルで世界征服してやればいいのだ。
そのためにもこのどんぐり女神をどうにかしなければならない。
うん? どんぐり女神? ということはどんぐりが一番大事なはず、そうであれば……。
「女神さん、俺のスキルを取り上げたら、後悔することになりますよ」
「どう後悔するのかな~?」
「俺はこのスキルを使って、帽子が付いたどんぐりを毎年五十個奉納すると約束しよう。接着のスキルで帽子が付いたどんぐりはいつまで経っても帽子が取れないんですよ」
「……百個で、どう?」
俺達は熱い握手を交わした。
こうして、女神と約束を結んだ俺はこのスキルを使って、団子のために異世界征服へと歩み始めたのだった。
取り合えず完結!
アロンの戦いはこれからだ!