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第4話 アルファ家とグルーちゃん

 俺はのりちゃんの茶屋での一件を終えて、家に帰ってきていた。

 家というのは当然、アルファ男爵家の事だった。都の町外れにある、気持ちばかり大きめの屋敷に両親と兄、そして妹の五人が暮らしている。

 使用人は執事とメイド長、そしてそのメイド長の娘の三人のみ、通いで働いて貰っている。

 のりちゃんの所に来ていた騎士達も通いである。

 つまり何が言いたいかというと、男爵家として貴族ではあるが、アルファ家はその体面がぎりぎり保てる程度しかないほどの貧乏貴族だと言うことだ。

 兄、マロンは身体が強くなく、事務仕事しか出来ない。妹のメロンはまだ小さい。そんな家族構成であるから、俺がそれなりに稼がなくてはいかないというわけだ。

 一仕事終えて、リビングでくつろいでいると、兄のマロンが俺に話しかけてきた。


「アロンよ。無事に山賊退治は出来たのか?」

「終わりましたよ。ちょっとしたトラブルはありましたが」

「そうか。ゴホンゴホン」


 俺の話を聞いてマロンは咳き込み始めた。

 ひょろりと背が高く、骸骨のように落ち込んだ瞳、細い手足となぜか腹だけがぽっこりと出ていた。


「大丈夫ですか?」

「ああ、大丈夫だ。甘栗の欠片が気管に入っただけだから」

「そうですか、なら良かった……甘栗? 甘栗なんてどうしたんですか?」

「買ったに決まってるだろう」

「甘栗を買ったお金はどうしたんですか?」

「今回の山賊退治の報酬を前借りしたんだが?」

「え!?」


 俺は目を丸くした。

 家族とはいえ、俺の報酬の前借をするなんて、なんて自分勝手な兄なんだろうか。

 まあ、今回の山賊討伐の報酬はそれなりにある。騎士達の給料を支払ってもそれなりに残るはずだ。甘栗一人分くらいなら、まあいいか。

 俺はため息をつくと、リビングに小さい女の子が入ってきた。

 ウェーブのかかったふわふわ金髪に愛らしい顔つき、十歳らしい、幼い体つき。妹のメロンだった。


「ちぃ兄様、ご苦労様です」

「ありがとう、お疲れ……どうした? 服が汚れているぞ」


 メロンはいつも着ている白いワンピースの胸の辺りが、何かの汁で汚れていた。

 俺の指摘にメロンは自分の服を見て、ぼんやりと驚いていた。


「ああ、これは先ほどまでメロンを食べてたからですね」

「そうか、汚さないように気をつけろ……メロン?」

「ええ、メロンです」

「メロンなんて買う金はどこにあったんだ?」


 メロンは黙って、兄マロンを指さした。

 マロンはまるで心臓が痛いと言わんばかりに胸を押さえて、部屋を出ようとしていた。


「兄上、どれだけ前借りしたんですか?」


 マロンは恐る恐る金額を言った。それは俺がめまいを覚える金額だった。


~*~*~


 俺は小銭を持って、のりちゃんの茶屋に来ていた。

 用事はない。

 ただ、美味い団子を食べて、落ち着きたかっただけである。

 客のいない茶屋で、俺はひとりで団子を待っていると、のりちゃんが目の前に座ってきた。


「どうしたんですか? ため息なんかして」

「いや~家族の金使いが荒くて、どうしようかと考えてるんだよ」

「そう……おとっつぁん、お団子キャンセルで~」

「おいおい、団子代はちゃんと持ってきてるから、大丈夫だよ」

「おとっつぁん、団子増量!」


 のりちゃんは愛らしく笑って、団子を追加注文した。

 さすが看板娘、隙がない。まあ、美味しいからいいか。


「あれから、山賊は大丈夫?」

「ええ、あれからは平和ですよ」

「それはよかった」

「おーい、のり。団子出来たぞ」


 親父さんに呼ばれて、のりちゃんが奥に引っ込むと、俺は濃い緑茶を飲んで、美味しい団子を待ったいると、茶屋にひとりの女性が入ってきていた。長いストレートの銀髪をきらめかせ、キリリとした顔つきは美しいながらも凜々しい。身体には騎士団の鎧に身を包んでいた。

 女性騎士は茶屋を一瞥すると、大きな声を出した。


「頼もう! こちらにのりさんはいらっしゃるか?」


 どうやら女性騎士はのりちゃんに用事があるようだった。しかし、女性騎士が看板娘に何の用事だろうか? 俺は気になったが、黙って成り行きを見守っていた。


「は~い。どなたですか?」


 皿に山積みの団子を手に持って、のりちゃんは奥から出てきた。


「貴公がのりさんか?」

「は、はい。そうですが? あなたは?」

「ボクはハン家の騎士グルーと申します。セロ様がこちらにご迷惑をおかけしたようで、謝罪に来ました。申し訳ありませんでした」


 そう言ってグルーは姿勢を正して頭を下げた。


「いや、大丈夫です。そこのアロンさんが山賊をやっつけてくれましたし、茶屋も元通り修理してくれましたから大丈夫です」


 いきなり騎士に頭を下げられて、のりちゃんは慌ててそう言うと、俺を指さした。

 グルーはただの一客だと思っていた俺が騒動の中心人物と気がついて、まじまじと見つめてきた。

 美人の熱い視線に思わず俺は照れて、目線をそらしてしまった。


「こんな優男が山賊とマスキングを……信じられん。ボクと試合をしてくれないか」

「ベッドの上でなら」

「ボクに真剣で勝てたらな」

「下ネタは嫌い?」

「初めて会った人に下ネタを言うように人は嫌いです」


 思いっきり正論を言われて俺は黙るしかなかった。


「今日はここの団子を食べに来ただけなので、試合はまた今度で」

「逃げるのか?」

「逃げるんです」

「貴様はそれでも騎士の端くれか」

「俺は貴族の端くれなもので、逃げます」


 そう言って、俺は団子に手を付けようとした時、茶屋のドアが勢いよく開け放たれ、山賊が流れ込んできた。

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