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第2話 茶屋崩壊

 俺がワクワクしながら団子を選んでいると、ドスの利いた声を響かせながら山賊が茶屋に乗り込んできた。


「俺たちは山賊だ! 有り金、全部出しやがれ! なっ!」


 山賊達は各々剣を手に持ち乗り込んできたが、俺達を見ると一瞬ひるんだようだった。

 俺達もあまりのことに、頭がフリーズしていた。

 ガチャン。


「きゃー!!!」


 のりちゃんが持っていたお皿を落として、悲鳴を上げたのが、開戦の合図となってしまった。

 山賊達は準備が出来ていない騎士達に襲いかかり、騎士達はなんとか態勢を立て直そうとする。

 ガチャン、ドシン、バタン、ドタン。

 狭い茶屋の中は、あっという間に戦場になった。


「団子、団子」


 俺は目の前の団子を確保しようと皿を持つと逃げようとする。

 ドン!

 誰かが俺の背中にぶつかって来たため、団子が乗った皿が宙を舞った。


「団子!」


 俺は全身ダイブで皿を捕まえた。

 セーフ!

 ガチャ。

 山賊のひとりの足が、地面に横になっている俺の団子を踏みつけた。


「だ・ん・ご~~~~~~!!!!」


 団子を一口でもいいから食べたかった。その希望を俺の目の前で砕いた山賊達を俺は許さない! 決してだ!

 俺は立ち上がるとぐちゃぐちゃになっている店内を見て叫んだ。


「お前ら~!!! 動くな! 瞬間接着!」


 俺は山賊も騎士も全員の足を床に接着すると、全員つんのめって床に手をついた。


「瞬間接着!」


 俺はどんぐりの女神から貰ったスキルで全員を動けなくしたのだった。


「ア、アロン様、これは?」

「レピット。これから接着を解除するから、山賊を全員捕まえろ。殺すなよ。店が汚れるから」

「分かりましたので、早くこれを解除してください」


 俺が騎士だけの接着を解除すると、騎士達は山賊を縛りあげると、接着を解除した。

 縛りあげられた山賊は俺を見て吐き捨てるように言った。


「何だ? こいつは? こんな奴がいるなんて聞いて無いぞ!」

「俺の名前はアロンだ。今後、この店に手を出すようなら今度は容赦しないから、そのつもりでいろ。レピット、こいつらを連れて行け」


 俺はそう言ってぐちゃぐちゃになった店内を見て悲しい気持ちになった。


「おお~店が~どうするんだ? これ」


 折れた椅子や机の脚、たたき割れた皿、砕けた湯飲みの数々。柱も切れや壁は穴が開いていた。

 俺はそれを見て騎士達に指示をする。


「全部くっつけろ。俺が接着する。瞬間接着! 瞬間接着! 瞬間接着! 瞬間接着!」


 俺は片っ端から接着して茶屋を修復したのだった。

 修復を騎士達はレピットの指示の元、山賊を連れて都に戻ったのだった。


 修復が終わり、山賊が排除された茶屋で、俺は一人で再度串団子が出来るのを待っていた。


「山賊から守っていただき、その上、茶屋まで直していただいて、ありがとうございます」

「いえいえ、元々山賊がこの辺りに出ると言うことでパトロールに来ていたのですよ。ですから当たり前の事をしただけですよ」

「この茶屋は死んだかあちゃんとの思い出が詰まっているの。それを守ってくれて嬉しかったです」


 実際にはパトロールにかこつけて、茶屋に串団子を食べに来ていただけなのだが、まあ、結果オーライなので本当のことは黙っていた。

 それよりも串団子の方が大事だ。

 俺は一仕事を終えて、甘味を待つ。ハイグレードのプラモデルを何日もかけて作りあげた後に食べる団子はサイコーだったのと同じように、仕事上がりの団子もサイコーなはずだ。


「お待たせしました。お待ちかねの串団子五種盛りです」


 看板娘ののりちゃんが、お皿に乗った串団子を持ってきた。

 大きな皿にのった串団子を見て、もっちりとした食感、甘塩っぱかったり、甘かったり、しょっぱかったり色々な味がする。

 どれから食べようか。やっぱり甘いのはデザートで最後だろう。海苔巻きが一番最初かな?

 俺は手を合わせた。


「いただき……」

「のりさん! 大丈夫か!?」


 勢いよく茶屋のドアが開かれて、男が入ってきた。

 長く透明な髪の毛、透き通るような肌。白馬に乗った王子様という称号が似合う男性。しかし実際には男性が乗っていたのは白馬ではなかった。では何に乗っているのか?

 ゴリラ。

 バイクではなく、生き物のゴリラに乗っていた。

 ゴリラに乗った王子様。

 俺はその王子様を知っている。というか、知らない人はいないだろう。

 王弟家の長男セロ。

 状況から、親父が言っていたのりちゃんを妻にしようとしている貴族はセロのことだろう。


「あれ? 店が壊れてない? あいつら、ちゃんと仕事をして無いんのか? 高い金を払ったのに」


 セロは俺達が直した茶屋を見て、目をぱちくりしながら思わずつぶやいた。


「え!? セロ様、どういうことですか? もしかしてセロ様がさっきの山賊を使ってうちの茶屋を襲わせたのですか?」

「え、いや、ち、違うぞ」


 セロの言葉を聞いたのりちゃんはセロの意図に気がついた。

 のりちゃんは親父さんと頑張っている茶屋に執着してセロとの結婚を嫌がっている。ならば、その茶屋を潰して、傷心ののりちゃんを手に入れようと考えていたのだろう。

 それが俺の活躍で失敗したのだった。

 なんて短絡な考えのセロなのだろうか?

 そう言えばセロって……。

 俺はふと思い出して、セロの話しかけた。

 

「あのう。セロ様ってレピュブリク・フランボアーズ王国の第二王女コル様と婚約をしていませんでしたっけ?」

「なんだ? お前は?」

「アルファ男爵家の次男のアロンと申します」

「あ、ああ、コル様とは政略結婚だ。わたしが本当に愛しているのはあなただけだ」


 セロは俺ではなく、のりちゃんに言い訳するようにコル様との婚約の言い訳をしていた。


「あたしはあなたとは結婚なんてしません! 出て行ってください!」


 母親との思い出である茶屋を壊そうとしたセロに対して怒ったのりちゃんは叫んだ。


「な、何だと、やさしくしていれば、つけあがりやがって、スシ・テンプーラ皇国の平民の分際で! マスキング、こんな店、壊してしまえ!」


 そうだった。のりちゃん達のような日本人は、この国ではスシ・テンプーラ皇国と呼ばれているのだった。

 そののりちゃんの態度に逆ギレしたセロは、乗ってきたゴリラに命令したのだった。

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