第1話 異世界転生のスキルってみんなどうやって決めてるんだろう
タイトルおよびメインヒロイン三人を付けてくれた西根羽南さんに捧ぐ。
俺はどうやら死んだらしい。
唯一の趣味のプラモデルを作っていた俺に巨大などんぐりがぶち当たったようだ。家の中にもかかわらずだ。
恐ろしい世の中になったもんだ。
まあ、死んでしまったのはしょうがない。心残りなのはあと少しで完成するプラモデルと、完成祝いに食べるはずだった団子三銃士、みたらし、あんこ、きな粉が食べられなかった事くらいだった。
しかし、これはどういった状況だろうか?
プラモデルを片手に座り込んでいる俺の目の前には艶やかな黒髪、優しそうな笑顔をたたえた美しい女神が立っていた。
美しいのは美しいのだが、女神の左手には毒々しい色のキノコを、右手には小豆を持ち、頭の上にはいくつものどんぐりで出来た輪っかを付けており、その全てのアイテムが女神の美しさを全く台無しにしている。
そのプラスマイナスゼロの女神は心に染み入るような優しい声で、俺に話しかけてきた。
「は~い、みんな大好き女神ハナミですよ~。亜論君、ごめんね。手違いで、どんぐりが当たっちゃったみたい。お詫びに異世界に転生させて特典もひとつつけてあげるから許して~、てへぺろ」
俺は作りかけのプラモデルを手に、うわの空で女神の話を聞いていた。あと、この部分を接着すれば完成だったのに……。
そんな俺は思わず、つぶやいた。
「接着剤があれば」
「分かりました! でも、ただの接着剤じゃあ、芸がないわね。瞬間接着剤のスキルでどう? いろいろくっつけれるわよ。これ、スキルの説明書ね」
「ふむふむ、あらゆるものをくっつけることが出来、能力でくっつけたものは解除も可能と……え! それだけ? 何の為の説明書だ? あ、これ他は約款が細かく書いてあるだけだ。なになに、どのような使い方をしても神は一切責任を負いません」
「免責事項は後からゆっくり読んでね。じゃあ、気をつけて~」
「ちょっと待ってくれ! 俺は異世界に行って何をすればいいんだ?」
「ああ、そうそう、忘れていたわ。毒キノコの女神が別の人を異世界転生させちゃったんだけど、その人を捕まえて欲しいのよ」
「その人は何をしたんだ?」
「いろんな人にキノコを生やして回っているのよ」
「……それは卑猥な意味でか?」
「もう、何考えてるのよ! もう、さっさと行ってどんぐり~~~~~」
「ちょっと待って! 毒キノコの女神ってあなたでは?」
こうして、豆とキノコとどんぐりの女神に見送られて、俺はスキル<瞬間接着剤>を手に異世界へと転生したのだった。
異世界にもプラモデルがあるといいな~。
~*~*~
俺は真っ青な空を見上げていた。
どうやら地面に大の字になって転がっているらしい。いるらしいではない。転がっているのだ。
馬から落ちた俺は、地面に落ちているどんぐりに頭をぶつけて、思い出したのだった。
俺の前世は日本人で、異世界転生したのだった。
スキル<瞬間接着剤>と共に。
「アロン様、大丈夫ですか?」
そう、俺の名前はアロン。ここ、グレート・ブリダイコン王国の男爵家の次男坊。近くの丘で山賊が現れるらしく、五人程度の騎士達と偵察に来ていたのだった。
そして、俺に声をかけてきたのが騎士隊長のレピットだった。レピットは俺よりも少し年が上で、すこぶる腕が立つ騎士。その上、長年俺に付き従ってくれている。金髪の巻き毛でなかなか背の高い好青年だ。
そして、俺は馬が急に暴れて俺は落馬したのだった。今になってはなぜ、馬が暴れたのか分かっていた。どこからともなくすごい勢いで飛んできたどんぐりが馬に当たったのだろう。
「ああ、大丈夫だ。ちょっと頭痛がするだけで」
「それは大変です。そうだ、あの茶屋で一休みしましょう」
俺はこれまでの記憶と前世での記憶の融合で軽い頭痛を起こしていた。
立ち上がった俺を心配そうに見ている騎士は茶屋を見つけた。そこはかやぶき屋根に木で出来た建物だった。
そう、時代劇に出てくる茶屋そのものだった。俺を含めて騎士達の姿は西洋風にもかかわらず。
しかし、その違和感は俺だけのもののようで、周りの騎士達は当たり前のように受け入れていた。
まあ、いいか。
俺達は茶屋に行くと、中から看板娘が出てきた。
真っ黒な髪の毛を結い上げて、かんざしを差し、桜色の着物を身にまとった可愛らしい看板娘だった。
「いらっしゃいませ。何名様ですか? 何にしますか?」
「六名だ、人数分のお茶と適当に二、三十本ほど団子を見繕ってくれ」
「分かりました。ちょっとお待ちくださいね」
レピットは慣れた感じで注文すると、テーブルに座り、各々くつろいだ感じで話し始めた。
違和感を拭えないまま、立ち尽くしていると、レピットは俺に声をかける。
「さあ、アロン様もお座りください」
「ああ、そうだな」
やっぱり、なんか世界観がおかしくないか? まあ、異世界なのだから何でもアリなのかも知れないが。それに、団子が食べられるなら何でもいいか。
俺は素直に座って、団子を待っていると、奥から男と先ほどの看板娘の声が聞こえてきた。
「なあ、のりよ。こんな街道の茶屋娘なんかじゃなく。貴族様の嫁になったらどうだ? せっかく向こうさんがお前を気に入ってくれているんだからよ」
「おとっつぁん。あたしはこの茶屋が好きなの。貴族の何番夫人か知らないけど、そんなお嫁さんはいやなのよ!」
「そうは言っても、この街道も最近は物騒になってきたんだから、お前には安全なところで幸せになって欲しいんだよ」
「あたしはここにいるのが1番幸せなの。それよりもせっかく大口のお客さんなんだから、さっさと団子の準備をしてよ」
どうやら先ほどの看板娘の名前はのりと言うらしく、茶店の主人である父親と言い争っているようだった。
あれだけ可愛い娘だ、色々な男性から口説かれるだろう。その中に貴族がいてもおかしくはないだろう。まあ、父親としても貴族が相手なら娘の生活に困ることがないと言う親心から説得しているのだろうが、本人が望まない結婚ならば、金や生活の問題ではなく、悲しい結婚生活になる可能性もある。難しい問題だな。
俺はそんな事を考えていると、のりちゃんがお茶を持ってきた。湯飲み茶碗に熱々の濃い緑茶。それを美味しそうに飲んでいる、西洋風の鎧を身にまとった男達の姿は俺には、やはり違和感しかない。しかし、その光景に誰ひとり、異論を唱えないので、俺は黙ってお茶を飲むことにした。
ほんのり甘みのある緑茶。あ~美味しい。俺はほっとして、お茶を飲みながら団子を待っていた。
こんなに美味しいお茶を出す店だ、きっと団子の方も美味しいに違いない。甘いものが好きな俺は、先ほどの頭痛はどこへやら、ワクワクが止まらない。
そのため思わず俺はレピットに尋ねた。
「なあ、レピット。この茶屋の団子は美味しいのか?」
「何言っているんですか。この茶屋はアロン様が、見つけてすごく美味しかったからと、今回立ち寄るのを楽しみにしていたんじゃないですか。私はてっきり、頭痛がするって言うのも、この茶屋で休むための口実だと思っていましたが?」
え!? そうだったけ? 俺はアロンとしての記憶を遡る。
ここは都から少し距離があり、少し郊外に出かけ、小腹が空いたときにちょうどよい距離にあり、他の都から俺達の都に来るときに最後に一服するのにちょうどいい距離に位置していた。
そう言え、俺はひとりで出かけたときに、たまたまこの茶店を見つけたような気がしてきた。
「そうだったな。いやいや、その後、お前がここで団子を食べたのかと思って、感想が聞きたかったんだよ」
「私ひとりではこういう店は来ませんよ。ですからアロン様が勧める団子がどんなものか、楽しみにしています」
とりあえず、俺の言動のおかしさはごまかせたようだった。その上、どうやらここの団子は俺の口に合うようで、非常に安心した。
しばらくすると、団子がやってきた。串に刺さった団子は、みたらし団子をはじめ、餡、きな粉、醤油、海苔巻きだった。どれもすごく美味しそうで、俺はどれから手を付けようか迷っていた。
そして、この迷いが悲劇を生んだのだった。