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起きるといつもの川があった。夕日が当たり反射してキラキラと朱色に輝きとても綺麗。
それをぼ~っとしながら眺め、思い出したた記憶を手繰っていく。
友達がいて。
「んふふっ…。」
弟がいて。
「ふふふふふっ…!」
そして、それから……。
「あははははははっ!!!本物だったよ…!僕の心は!!無差別で!!狂った!!この!殺意は!!!」
なんのまやかしでもなく、思い込みや厨二病でもない。人を殺したいと思うれっきとした殺意がいる。
それを確認できた今、あの世界であんなにモヤモヤしていた気持ちが嘘のようにスッキリした。
「あぁ…。ここに来れてよかった~…。」
興奮が冷めたころにはもう夜になっていた。昨日殺した物を森の奥の方に置きに行き、木に登って眠りについた。
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ふと目が覚めると僕はソファーの上で寝ていた。
体を起こして周りを見渡す。部屋の広さは6畳程でシングルベットと僕がいるソファーの前にローテーブルがある。
「ここって…。」
「そう、前の世界での貴方の部屋よ。うまくできているでしょう?」
そういうと彼女は後ろから腕を回してくる。
「久しぶりですね。貴方に会えるとは思っていませんでしたよ。」
「会いたいから“寵愛”をあげたのよ。ふふ。ルイ、私の愛しい人。」
《最高上位存在“#%;&@”の寵愛》
最高上位存在“#%;&@”の《寵愛への試練》を達成したものに贈られる称号。
“#%;&@”から唯一の者と認識され愛される。
証として身体のどこかが変異する。
これか。
僕は、この空間に来てから見えるようになった生存能力を見る。
これ以外にもよく見ると色々書いてある。
《上位階層転移》
上位存在から転移許可を貰ったものに与えられる。
《自己韜晦》
長い間本心、能力などを隠し続けた者に与えられる。
生存能力を変化さたり隠すことができ、変化させた生存能力は肉体に影響する。
ただし元の能力値よりも高く変化したり持っていない称号などを加えることは出来ない。
《普通を演じる者》
”普通”を理解し本心を隠し”普通”に行動し続けたものに与えられる。
理解能力が上がり、演じることが上手くなる。
また様々な”普通”が本能的に分かる。
《痛覚遮断》
魂が歪むほどの痛みを耐えた者に与えられる。
魂の痛覚までも遮断できる。
オン・オフ有り。
「魂が歪むって…。あれそんなに酷かったのですか?」
「魂に傷をつけてそこに刷り込んだから痛いに決まっているわ。ねえ、そんなことよりお話ししましょう。何か質問はない?お願いは?それと敬語はやめて。」
横に座り僕の方にもたれかかりながらこちらを向く。
「分かったよ。じゃあ質問していい?」
「何でも。」
「君がさっき言っていた”ルイ”って僕に向かって言ってたよね。どうして?」
「ふふふ、そうね。不思議よね。だって貴方今、自分の名前わからないでしょう。」
過去の記憶を思い出しても自分の名前が分からないままだった。
「でしょう?私が消したの。新しい環境には新しい名前の方がいいと思って。”ルイ”はその新しい名前よ。」
なんてことを勝手にやっているんだこの人は。
「怒ったかしら?」
少し不安そうな顔をして聞いてくる。
そう聞くぐらいなら最初から勝手に消さなければいいのにと思う。
「ふ~ん。別に。」
「そう、良かったわ。他にはないの?」
「どうして僕に寵愛を?」
他にも前の世界で僕以外に似たような人格はいたはずだ。
「そうね。まず目が気に入ったの。他の子たちとは違う綺麗に濁り淀んでいる目が。それから観察し続けているうちに貴方のことが愛しくなったの。」
目、かぁ。そんなに変わってるのかなぁ。
僕は前髪が長い方で目元まである。顔を隠すためにあるんだけどおかげで鏡を見ても目が見えない。
ちなみに口元はマスクで隠している。
「もしかしてあっちの世界でずっと僕の事みていたの?」
「ええ。どうにかして貴方と接触出来ないかと考えていたのだけれど、あの世界は繊細で私が手を出すと直ぐに滅んでしまうの。私は良いのだけど貴方に悲しまれたくないから出来なかったわ。」
知らないところでストーカー(それも高度な)発生していた。
「でもね、とてもいい条件で召喚を望んでいる世界が見つかって貴方とこうやって繋がることができたのよ。」
「じゃあ、僕のせいであいつらもここに来たの?」
「そうだけども少し違うわ。だって彼ら自身もここに来たいと願っていたもの。」
あぁ、確かに。あいつらいっつも異世界行きたいって言ってたからね。
ん?これ…。
「これどうなってるの?」
なんか種族のとこがバグってる。
シ\咀@#:異類異形
「ふふふ、それは貴方がこの世界の管轄からはずれたからよ。魂が歪んんだ事によって記録されている魂のパターンから外れて別物になったの。その”異類異形”は私が一番それに近いなと思って付けたわ。」
なるほど、なにかからの管理から外れたとでも思っとけばいいかな。
「そうそう、言い忘れていたけど貴方色々と見た目が変わっているわよ。」
「え?噓。」
彼女が手を振ると目の前に鏡が現れた。
「うわ、ほんとだ。」
元々黒目黒髪だったのが、髪は所々灰色が混じっており目は海の底のような深い青になっていた。
「その目は私が選んだ色よ。いい色でしょう?」
なんか彼女に色々変えられてる。
でもこれで僕が異世界から来たのだとばれる確率は減った。あいつらに会ったらどうなるかは分からないけどね。
「ねえ、まだ喋りましょう?時間ならたっぷりあるわ。」
まあ今は彼女と話すことに集中しよう。