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その頃の『サテライト』、そして…

 一方、エリクシア王国とリーベル公国との国境付近に位置する洞穴内で、ギルド『サテライト』のメンバー数人がある魔物と対峙しようとしていた。

 その魔物とは、スライムである。

 この魔物は軟体である故、基本的にある事をしない限り倒れない魔物である。 一体ではあるが、そこそこ大きめのスライムだ。


「いいか、このスライムの中にコアがあるな? あれをぶっ壊す! 俺達の力を奴に見せつけてやれ!」


「「「ラジャー! アンドレさん!!」」」


 リーダーである『戦士』のアンドレの号令で、他のメンバーが応え、即座にスライムに襲い掛かる。

 数人のメンバーも『戦士』ならびに『黒魔術師』で構成されたパーティーで、全員男性だ。

 脳筋主義の『サテライト』ならではの編成であり、他の冒険者から見ればあり得ない編成なのだ。


「おりゃあぁぁぁっ!!」


「いっくぜぇぇぇぇっ!!」


「ぴぎぃっ!!?」


まず、二人の戦士の攻撃で、スライムにダメージを与える。


「雷の槍よ、敵を穿て! 【サンダースピア】!!」


「石の力よ、敵に放て! 【ストーンバレット】!!」


「ピギャッ!!」


 その次に『黒魔術師』の攻撃魔法の火力をスライムに見せつける。 雷と石の力で、身体に傷を負うスライム。

 しかし、『サテライト』メンバーの攻撃の手は緩めない。


「必殺! 【斧無双】!! でりゃあぁぁぁっ!!」


「ピギイィィィッ!!!」


 そして、アンドレの必殺技がさく裂した。 アンドレを中心に、彼らが持つ圧倒的火力を見せつけて、スライムを攻撃していく。

 現在のエリクシア国王が最も望んでいた『強者つわもの』の姿がきっと彼らなのだろう。

 他国の冒険者からみたら、あまりにも汚く滑稽でしかないのだが…。


 そんな事はお構いなしに、『サテライト』メンバーの火力によるごり押しでスライムのコアに肉薄する。

 そして……。


「そりゃあぁぁぁ! 【マキ割りグレート】!!」


 戦士の一人が斧によるジャンプ斬りでスライムのコアを破壊した。

 スライムは飛び散り、地面に消えていった。


「よっしやぁぁぁ! スライム討伐じゃあぁぁ!!」


「「「やったぁぁぁ!!」」」


 アンドレを始めとした『サテライト』のメンバーは、その場で勝鬨をあげた。 どでかい声が周囲に響き渡る。


「力こそ全て!」


「力こそ正義!!」


「力こそ正しさ!!」


「「「全ては力があってこそ!!」」」


 そして、『サテライト』……いや、エリクシア王国のコンセプトを合唱しはじめた。 場所が場所だけに、それだけ自分たちの力を示すことに成功したのだろう。


「よーし、国王様に報告だ!!」


「今宵はうまい酒が飲めるぞー!!」


「ああ、剣士を追放したおかげで調子がいい」


 彼らは、そう言いながらエリクシア王国の首都へと戻っていった。

 しかし、彼らは全く気付かなかった。 スライムに対し、今の倒し方が間違っていた事に……。


(力技でスライムを……!? これはまずい……! 早く報告をしないと……)


 物陰で様子を見ていた存在が、それに気付きリーベル公国の方向へと走っていった。


 そして、誰もいなくなった境界付近の洞穴内で、消えたはずのスライムが再び地面から出てきていた……。

 器官に繋がれたままの破壊されたコアが修復し、身体も前より一回り大きくなっていた。



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



 そして、リーベル公国首都・セントラルリーベルにて……。


「何、それは本当か!?」


「はっ、エリクシア王国のギルド『サテライト』が力技でスライムを倒していました」


 首都内にある王城、その一室で洞穴内に様子を見ていたとされる人物が、レーツェルに報告をしていた。

 レーツェルはそれを聞き、顔面蒼白になっていた。


「アレを力技で……! なんてことをしてくれたんだ……!! スライムを完全に消滅させるには『剣士』と『ビショップ』の力が必要なのだぞ…!」


「そうですよね。 『ビショップ』用の【フリーズ】で凍らせ、『剣士』のスキルでコアを繋ぐ器官を切り裂いた後、『ビショップ』の抽出でコアを取り出してからコアを破壊すべきなのに、『サテライト』のメンバーはその職業を組み込みませんでしたからね」


「ああ……。 奴らからしたら『剣士』や『ビショップ』は弱者の象徴だろうからなぁ。 嫌な予感はしていたよ……」


 報告を聞き、頭を抱えるレーツェル。

 報告者も呆れてものが言えないような表情をしており、それだけ『サテライト』のやり方が危険を呼んでいるだけにすぎないのだろう。

 それが、スライム相手なのだから、下手したら収拾がつかなくなる可能性もある。


「今回の件、兄や父上にも報告して、連盟支部経由で各ギルドマスターに伝えさせるよ」


「分かりました。 下手したら我がリーベル公国にも被害が及ぶ可能性もありますからね」


「ああ。 そしてこちらも準備は怠らないようにしておいてくれ。 最悪騎士団も駆り出さないといけなくなる」


「はっ! 我が諜報部隊もそのように伝えておきます」


「頼むぞ」


 レーツェルとの話を終え、諜報部隊が部屋から去っていく。

 一人残ったレーツェルは、現在ケリンが入っている『スカーレット』の面子を思い出していた。


(最悪、彼らの力を借りないといけないかもな……。 新天地に来たばかりのケリンには災難だけど)


 そう思いながら、レーツェルは孤児の受け入れの手続きを進めつつ、今回の件の報告書の整理もし始めた。


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