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国境を越えた先の町で

「しかし、『スチュワート』からも上位のメンバーで帝国に行くとはねぇ」


「アルマと同様、向こうもギルドマスターも一緒に向かうとか……。 やはり優秀なメンバーが沢山いるんだな」


「私達より、ケリンさんやアルマさん達『スカーレット』の方々が優秀ですよ」


 ギルド『スチュワート』が運営している宿屋に泊った翌日、『スチュワート』のメンバーの中から選んだ5人と共にアルマ達は再びアレックス帝国へ向けて進路を取る。

 馬車はそれぞれ2、3人が交流の為に分かれて乗っている。

 つまり、スチュワート用の馬車にもスカーレット用の馬車にも双方のギルドメンバーが乗っているという事だ。


「セリアさんは、ケリンさんのファンだと聞きましたが……」


「はい、『スカーレット』に加入した剣士の話は此方にも聞き及んでまして、スライム事件の時の戦いぶりを国から映像で見せて貰ったんです。 私では真似出来ないスピードと剣捌きを見てケリンさんの強さに憧れを持つようになりました」


「成る程。 私はあの時あまり役に立てませんでしたが、彼の戦いは見ていましたからね。 でも、何故国がケリンさんの戦いを?」


「多分、リキュアの代わりに派遣されたビショップの人がこっそり記録したんでしょうね」


「うわぁ、なんか恥ずかしい気分だ……」


 セリアの当時のスライム戦でのケリンの戦いぶりに憧れを持ったという話に、ルーデシアはなんで知っているのかと疑問を抱いたが、アイシアの予想ではリキュアの代わりに派遣されたビショップがこっそり記録していたのではと考えていた。

 それを聞いたケリンは恥ずかしさで頭を抱えていた。


「ですが、ケリンさんの強さはこうして見ていても貫禄がありますよ。 何で今まで埋もれていたか……」


「ああ、それはですね……」


「お、もうすぐ国境の門に着くぞ」


「あ、通行証を用意しないと」


 別の少女がケリンが何故今まで埋もれていたかを聞いてきたので、アイシアがそれに答えようとした矢先に、ケリンが国境の門が近いて来たことを教えた。

 慌てて通行証を用意する双方のギルドのメンバー達。


「通行証を確認しました。 お通りください」


「ありがとうございます」


 通行証を門番に見せて許可を貰った事で、ようやくアレックス帝国の領土に踏み入れる事になる。


「アイシア、ケリン君。 この先の町で買い物を済ませよう」


「買い物……、そういう事ね」


「うん。 魔法で圧縮して持ち運びが可能なトイレボックスは、アレックス帝国内ではこの先の町でしか売ってないからね。 リーベル公国と違ってトイレ休憩ができる場所はないから、買い込むよ」


 スチュワートの馬車から顔を出したアルマからこの先の町で買い物をする事を伝えた。

 リーベル公国と違い、アレックス帝国内の街道にはトイレ休憩ができる場所は作っていないようなので、安心してトイレが出来る魔道具を買い込む事が主目的のようだ。


「あの町か?」


「そうみたいですね。 国境を越えてから30分といったところでしょうか」


 国境を越えてから30分で町が見えた。

 この町も国境付近の町だからか、規模は大きそうだ。


「じゃあ、町の中に入るよ」


「スチュワートのみんなも買い物の準備をするようにね」


 セリアとアルマが双方のギルドメンバーに準備をするように促す。

 それに応えるかのようにテキパキと準備をしていくメンバー達。

 そうしているうちに、目的の店に到着し、買い物を済ませた。

 目的の魔道具の正式な名称は『マジカルトイレボックス』という。

 これは通常は折り畳んだ服のように小さく圧縮されており、水を掛ける事でトイレボックスが出来上がるというもの。

 一度使うと1時間後か水の魔法を使うとに消失する。

 アルマ達は、それを3000個セットを2つ購入した。

 双方のギルドに1セットずつといった形だ。


「単品で売ってなかったけど、まぁ目的の品物は買ったし、食事にしようか?」


「ああ、いいな。 ちょうど腹がへったからな」


「私達も食事に付き合います」


「うん。 じゃあ、そこの食堂でご飯にしよう」


「了解したよ」


 買い物を済ませ、アルマは食事にしようと提案した。

 ケリン達やスチュワートのメンバーも賛成したので、近くの食堂で食事をする事にした。

 食堂の中は広く、10人の大所帯でも対応できるテーブルもあったので、アルマ達はそこに座り、注文をする。


「あ、さっきの話の続きですけど……」


「ああ、ケリンさんが何故今まで埋もれていたかについてですね、フレアさん」


 フレアという見た目『黒魔術師』の少女が、国境の門に着く前に聞こうとした内容を改めて聞いた。


「ケリンさんは、かつては今は滅びしエリクシア王国で孤児として生きてきました」


「えっ!?」


「本当ですか!?」


「ああ、本当だ。 冒険者になったはいいが、あの国はギルドを自分で決められなかったし、ギルドマスターが除名処分を伝えるまでは自分で辞める事すら出来なかったからな」


 ケリンがアイシアに続いて告げた内容に、スチュワートのメンバーは驚きを隠せなかった。


「エリクシア王国は、連盟には加入せず冒険者を国で管理していたからね。 さらに脳筋主義……『剣士』や『ビショップ』を蔑み、『戦士』や『黒魔術師』を優遇する主義だったんだよ。 ボクもアルストの町でケリン君に出会うまでそれを知らなかったからね」


「酷すぎますよ! アレックス帝国の即戦力主義といい勝負じゃないですか!」


 さらにアルマからの話にスチュワートのメンバーは怒りを隠せない。


「だが、あのギルドマスターが俺を除名してくれた事で、自由の身となってリーベル公国で再出発を図ろうとアルストの町に来た時にアルマにスカウトされてスカーレットの一員となってからは充実した日々を過ごしてるのさ」


「そうなんですね」


 セリアが感慨深くケリンの話を聞いていると、食堂の他の客の話が不意に聞こえてきた。

 何の話かをアルマとケリンが耳を澄ませると、他の客が話している内容を知ったのか、表情を歪めた。


「そこまでするとはね……」


 アルマの呟きで、みんなは何の内容かを察してしまったようだ。


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