ランダム配布アイテムが「バナナの皮」だった爆死な私が、ミステリーゴリラと恐れられながら逆転の発想で駆けまわるVRミステリー制作日記(読み切り版)
VRゲーム「ミステリーハウスをつくろう」の攻略wikiに書かれる有名プレイヤーの情報の中で、一つだけ異彩を放っているのが、“ハルカ”の項目だ。
Wikiには、頭をバナナにやられている、バナナが万能すぎる、ミステリーゴリラ、などと書かれている。
他の人は、館を舞台にした本格派、殺人のない気軽な日常ミステリー、など、得意なジャンルが紹介されている程度だというのに。
ハルカは掲示板でも有名人で、たびたび話題となっている。
ちなみに、ハルカってのは、私のプレイヤーネームなのだけれど。
こうなったのは、やはり最初の爆死がすべての原因だ。
運営全員、いつか腕ひしぎをかけてやる。
日課の柔道の稽古を終えた私は、プロテインを飲みながら決意する。
これは、プレイヤーネーム“ハルカ”こと村崎遥がミステリーゴリラと呼ばれるようになるまでの、反逆の物語だ。
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科学の進歩はめざましい。
ベッドに寝ながら脳波でプレイする、フルダイブ式のVRゲームが発売されて三年が経過した。
発売当初は技術力の問題でソフトも少なかったが、今では、かなりのメーカーが参戦している。
マイナーなジャンルのゲームでも予想外に人気となることもあって、いろいろなゲームが生まれていた。
小説に出てくるような剣と魔法のVRMMOや、FPS、無法地帯のような残虐なゲームに、お料理専門のゲーム、ラーメンになって人間に食べられるゲームなんてのもあった。
そして今日、ついに、私が望んでいたジャンルのゲームが発売された。
ミステリー自作系のゲーム「ミステリーハウスをつくろう」である。
生産系のゲームや、自由な創作系のゲームはたくさんあったものの、ミステリーをつくって公開するという形式は、今までほとんど出てこなかった。
なぜかはよく知らない。
たぶんアンケートを取った結果、売れないと判断されたんだろう。
ホームズを読んだらモリアーティにあこがれ、探偵より怪盗の方が好きな私は、ミステリーを自分で作る側に回ってみたかった。
それに、現実ではリンゴを片手で握りつぶしてあだ名がゴリラになった私でも、戦闘メインじゃないゲームなら、きっとかわいい女の子としてプレイができるだろうし。
楽しみだなぁ。
さっそくダウンロードをすませた私は、ゴーグルをつけてベッドに寝転がり、電源をつける。
ヴィーンと起動音がして、会社名が表示される。
アンダーグラウンドゲーム社
続いて、タイトルの表示だ。
“ミステリーハウスをつくろう”へようこそ
タイトル画面が切り替わり、プレイ画面でモードを選択する。
ミステリーハウスモードを新規に始める、を選び、キャラクターメイク画面に突入した。
フルダイブ式のVRは、現実との乖離を減らすため、基本的にリアルの身体バランスに近いものを選ぶことになる。
リアルの身体をスキャンしたデフォルトのキャラクターから、髪の色と目の色だけを変えたら、そのまま初期設定を終了する。
リアルでは自毛が茶髪でこげ茶色の目なので、髪も目も真っ黒にしてみた。
お? パンパカパーン、という音と一緒に、何か説明が出てきた。
なるほど。
チュートリアルの前に、ガチャがあるらしい。
ルーレットの開始ボタンをポチっと押したら、ぐるぐる回ってゆっくり止まる。
ぐるぐるぐるぐる。
一番狭いところに入りそう。
あっと少しずれた。
惜しい。
もうちょっとで装甲車だったんだけど。装甲車って何?
ということで、外れ枠のアイテムがもらえることになった。
なんだろう。
バナナの皮か。
バナナの皮?
アイテムなの?
変更もできないみたいだし、そのままチュートリアルに進むしかない。
一瞬暗転。
初期状態の家に転送された。
ここが私のハウスね。
部屋は六畳くらいで、隅には冷蔵庫がある。それ以外には、窓とドアのほかには何もないシンプルな部屋だ。
冷蔵庫はアイテム倉庫か何かなんだろうな。
ピロンと音がなり、チュートリアル開始が宣言された。
++++++
チュートリアルクエスト:最初に手に入れたアイテムと、モブ女Aを使って、ミステリーを作ってみよう!
++++++
バナナの皮と被害者ってことかな。
バナナね。
いやどうしろと。
ミステリー作成モードに入ったみたいで、半透明の画面が視界の隅に現れる。
++++++
所持アイテム
・バナナの皮
所持キャラ
・モブ女A
タッチして部屋の好きな場所に配置してください。
モブの行動は配置後に設定できます。
++++++
とりあえず、ドアを開けてモブ女Aさんを家の外に配置できるか確認する。
うん、置けるみたいだ。
モブの役目は被害者、加害者、目撃者、探偵役、など、好きに選べるみたいだし、行動も自由に設定できるみたいだ。
ただし、空中で二段ジャンプする、とか、物理法則を無視した動きは、初期に入手するモブにはできないみたい。
特殊なモブを後で入手したら可能になる、みたいな説明文が表示されている。
モブ女Aさんには、タイミングを見計らって家に入ってきてもらうようにお願いする。
あとは、バナナの皮をドアの先に置いて、と。
よし。
モブ女Aさんが家に入ってくる。
バナナの皮に気づかず、そのまま踏んでしまう。滑って、こけて、頭を打って、死んでしまった!
という演技らしい。
この世界のNPCはみんな俳優、女優という設定で、プレイヤーに雇われて死んだ演技をするのが仕事になっている。
モブ女Aさんも演技派女優なので、頭をぶつけて死んだふりをするときは、頭から血ノリを流して、ちゃんと死にそうな量の血液量を再現している。
あとは、バナナの皮を部屋の隅に片づけて、保存ボタンを押す。
名前は何にしようかな。
えっと、「意外な凶器」にしようかな。
これで私の最初のミステリー、バナナの皮殺人事件の完成だ。
ティロン。
++++++
システムメッセージ:ミッションをクリアしました。
チュートリアルミッション:初めてミステリーを作成する。
クリア特典:チュートリアルで使用したアイテムの上位アイテムがもらえます。
++++++
「え?」
何か不安になるような文章だけど。
入手したアイテムは……?
++++++
システムメッセージ:バナナを入手しました。
++++++
なるほどね。
皮だけしか持っていなかったけど、バナナの中身も入手したよ。
やったね。
って、おい、なんでだよ。
運営全員、背負い投げしてやろうか。
バナナで延々とミステリーを考えろというのか。
運営が鬼畜すぎる。
くそ、やってやろうじゃないか。
見てろよ、運営。
私はやるぞ。
完成したミステリーはそれぞれのミステリーハウスで公開できる。
プレイヤーや運営が最初から用意した謎を解いたり、自分でミステリーを用意したり、好きなように遊べるのが、「ミステリーハウスをつくろう」略して、「ミスつく」のミステリーハウスモードの遊び方だ。
他にはストーリーモードというのもあって、謎解きをしながらアイテムを入手していき、魔王を倒したり世界の謎を解いたりする遊び方もある。
ミステリーハウスモードとストーリーモードは、入手したアイテムをそれぞれのモードで使えるので、どっちもプレイする人が多いみたい。
私のアイテムはバナナの皮とバナナだけだから、モンスターとの戦闘もある、ストーリーモードはちょっと早いかな。
装甲車があれば楽だったのか。
惜しかったな。
とりあえず、バナナでもミステリーを作ってみるか。
冷蔵庫を開けてみる。
アイテム倉庫と使えるだけじゃなくて、普通に冷蔵庫、冷凍庫の機能もあるみたいだ。
それなら……?
バナナを冷凍庫に入れ、一分待ってみる。
扉を開けて、取り出すと、アイテム名が変わっていた。
++++++
システムメッセージ:凍ったバナナを入手しました。くぎがうてる!
++++++
ちなみに新しいアイテムを入手しても、変化する前のアイテムはなくならないらしい。
アイテム欄からバナナは消えていない。
私のステータス欄はこんな感じだ。
++++++
プレイヤー名:ハルカ
所有アイテム:バナナの皮、バナナ、凍ったバナナ
所持キャラ:モブ女A
++++++
見事にバナナシリーズしかない。
よし、これを使って、新しいミステリー、「新・意外な凶器」をつくろう。
モブ女Aさんには、床に寝てもらう。
そのまま凍ったばななでガシガシ殴るフリをすると、モブ女Aさんの演技力により、あっという間に何かで殴られて死亡した死体が完成した。
あとは、凶器に使ったバナナが溶けるのを待って、皮をむいて中身を食べる。
血まみれになったバナナの皮は、ヒントとして、部屋の隅に置いておく。
これで二個目のミステリーが完成した。
名前を付けて保存する。
このまま、どんどん新しいミステリーを考えるぞ。
バナナをのどに詰まらせてモブ女Aさんが死亡した話をつくったり、バナナの皮にダイイングメッセージを仕込んだ話をつくったりしてみた。
ティロン。
お、何かミッションをクリアしたのかな。
++++++
システムメッセージ:ミッションをクリアしました。
ミッション:バナナを使ったミステリーを三つ作成する。
クリア特典:ゴリラの称号がもらえます。
ゴリラの称号を獲得したので、リンゴを片手でつぶせるようになりました。
ゴリラの称号を獲得したので、新しいキャラが使えるようになりました。
ゴリマッチョ(男)を入手しました。
++++++
「なんでだよ!」
運営には悪意しか感じないな。
力が強くてもゴリラなんて呼ばれないと思ったからこのゲームを始めたのに、さっそくゴリラの称号を獲得しちゃったよ。
ああ、でも、ゴリマッチョさんはストーリーモードで大活躍しそうなパワータイプだし、問題ないか。
私もリンゴを片手でつぶせるくらい強くなっちゃったみたいだし。
ミステリーハウスモードはいったん休憩にして、ストーリーモードもやってみようっと。
ストーリーモードはミステリーハウスモードで入手したアイテム、キャラ、称号の効果を引き継げる。
私の武器は凍ったバナナとバナナの皮、仲間のゴリマッチョさん、そしてリンゴをつぶせる握力だ。
ミステリーの要素はどこ……?
完全にパワータイプじゃん。
ストーリーモードに切り替えて、さっそくチュートリアルを開始する。
ストーリーモードの戦闘チュートリアルは、森の中で化けネズミとの対決だ。
どうしようかな。
最初の戦闘とはいっても、武器も貧弱だし……。(※バナナ)
そうだ!
私はゴリマッチョさんと木陰に隠れる。
しばらく待つと、化けネズミがやってきた。
切り株の近くに、化けネズミがやってきたのを見計らって、足元にバナナの皮を投げつけた。
タイミングが合ったようで、化けネズミが滑ってこけた。
化けネズミは、そのまま切り株に頭をぶつけて昏倒した。
うまくいったぞ。
名付けて、「待ちぼうけ作戦」だ。
意識を失っている間に、化けネズミにゴリマッチョさんをけしかける。
裸絞をかけてもらい、そのまま私が凍ったバナナで殴り続ける。
え? 最初からゴリマッチョさんに絞めてもらえばよかったんじゃないかって?
そうかもしれない。
殴り続けたおかげで体力がゼロになった化けネズミは、そのままポリゴン状になって砕けたあと、消滅した。
++++++
システムメッセージ:ミッションをクリアしました。
チュートリアルミッション:初めての戦闘に勝利する。
クリア特典:チュートリアルで使用したアイテムの上位アイテムがもらえます。
++++++
「え?」
どこかでみたような文章だけど。
入手したアイテムは……?
++++++
システムメッセージ:バナナの木を入手しました。
新しいキャラが使えるようになりました。
ゴリマッチョ(女)を入手しました。
++++++
「またバナナじゃん!」
ゴリマッチョの女の人が手に入ったのはいいのかな。
男女ともに被害者役には向いていないと思うけど。
こうして、私は、バナナシリーズとマッチョを集めていくことになるのだった。
おかしい、こんなはずではなかったのに……
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ミステリーハウスをつくろう 掲示板
おすすめのプレイヤーハウスを紹介するスレ
1:名無しの推理作家
ミステリーハウスをつくろう ミステリーハウスモードの紹介スレだ
おすすめのプレイヤーハウスがあったらどんどん紹介してほしい
自薦でも他薦でも構わないぞ
~~
504:名無しの推理作家
やばいプレイヤーみつけた
ネタバレになるけど、ほとんどバナナしか使ってないのに、50個もミステリーが遊べる
505:名無しの推理作家
>>504
バナナ生える
506:名無しの推理作家
>>504
謎のこだわりだな
作者はゴリラに違いない
507:名無しの推理作家
>>504
バナナ有能すぎ
508:名無しの推理作家
>>504
ストーリーモードでも、バナナで殴るプレイスタイルの女の子がいるって聞いたけどまさか……?
509:名無しの推理作家
>>508
なに、バナナって武器なの(錯乱)
510:名無しの推理作家
>>508
バナナ強いよな、ナーフしたほうがいい
511:名無しの推理作家
>>508
ええ……(困惑)
512:名無しの推理作家
テンプレ更新しなきゃ!
初期ガチャ当たりアイテム:
・装甲車
・火炎放射器
・バナナ ← New !
513:名無しの推理作家
ゲームタイトル、ミステリーハウスをつくろうじゃなくて、ミステリーゴリラをつくろうに変えた方がいいな
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こうして、私、ハルカは「ミスつく」の中でも有名なプレイヤーになっていったのだけど、私がそれ知る日はまだ先である。
運営への反抗心から、ひたすらバナナミステリーを作成し、ストーリーモードではバナナでモンスターを殴る日々を続けるのだった。
ウホホ。
完
連載版を書いているんですが、書き溜めに時間がかかりそうなので、とりあえず、冒頭を改変しつつ、読み切り版にしてみました。
一般的なVRMMOものではないのですが、気に入っていただければうれしいです。そのうちひっそりと始まる連載版が始まったときにでも、またお会いしましょう。
連載版を読むならこういうミステリーが読みたい、とかがあればコメントにでも下さい。
おまけのあとがき芸
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ゴリマッチョ(男)は、バナナの皮を踏んで転んでしまった。
床にはなぜか、白い星が五つ並んでいるッッ!
☆☆☆☆☆
ゴリマッチョ(男)はこけた勢いで、星に頭をぶつけてしまったッッッ!
頭からは流れる血で、ダイイングメッセージを残そうとするゴリマッチョ(男)ッッ!
だが、最後の抵抗もむなしく、星の色が変わっただけだったッ!
★★★★★
ハルカはバナナの皮を部屋の隅によけると、保存ボタンを押して、名前を付けた。
「うーん。タイトルは『評価欄の殺人』にしておこうかな」
今日もまた、新しいバナナミステリーが誕生したのだった。
完
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