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3話 再目撃

 学校を終え、夕闇に染まる帰り道を1人自転車を漕ぎながら、山本の講義を振り返る。

 山本の話は非情に分かりやすくタメになった。アドバイスの元、その場で銀髪の少女の絵を描き直したら見違える作品となった。


 今までは人物を描く機会は殆どなかったため、そういった技術を身につけてこなかった。しかし、これからは違う。この右目は人を見せつけてくることが分かったのだ。

 右目が映すモノを描き残すために、今日教わったような絵が1人でも描けるようになりたい。そのためにも数をこなさなくては。


 そんな考え事をしながら運転していたためだろうか交差点の右から来る車が視界に入らず、危うく轢かれそうになり、急ブレーキをかける。

 車はイラついたようにクラクションを鳴らしていき、薄暗い中ライトもつけずに猛スピードで走り去っていく。

 嫌な車だと過ぎゆく後ろ姿を睨んでいると、何か違和感を覚える。考えるのもつかの間、その正体に気づく。


 右目には車が見えていない。

 車だけではない。気づけば辺りの通行人も見えなくなっていた。


 小学生の頃、自転車に乗っている最中に突然右目の景色が切り替わってパニックになり、車道に飛び出してしまって車にはねられたことがある。

 あの時の痛みなどを思い出し、俺は慌てて自転車を降り、歩道の脇へと移動する。右目が使えない状態で自転車に乗るのは危険だ。


 右目が何かを見せつけてくるのはいつものことだが、見えるはずのモノが消えるのは初めての事態だった。

 自転車のハンドルを握る手に汗を感じ、思わぬ事態に自分が緊張していることを悟る。


 緊張を解すかのように頭を振り、思考を巡らす。

 兎に角、異常を探すにせよ、逃げるにせよ何かしなければ。ここにいるのは時間の無駄でしかない。

 だが何をすれば……。


 焦る気持ちの中、ふと銀髪の少女が思い浮かぶ。

 そうだ。彼女を見ていた時もあからさまな奇怪は現れなかった。

 それに周りに元からなかったのではあるが、一応は車や人も見えなかった。


 であるならば、今この周辺に彼女、あるいは似た存在がいるのかもしれない。

 そう考え、左目を閉じて周囲に視線を走らせる。


 動くものが存在せず、全てのモノが死んだかのような異様な世界。

 そんな世界の中、目を凝らすと銀色の輝きが見えた。

 車道を挟んだ向かいの歩道の遠くの方に、長い髪を揺らしながら歩いている。

 

 追いかけたところでできることはないだろう。むしろ彼女と逆方向に移動した方がいいのかもしれない。

 それでも俺は右目について少しでも何か知りたくて彼女を追いかける決断を下した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 とは言ったものの、移動手段は自転車を手で押しながらの小走りだ。通行人の怪訝そうな目が少し痛い。

 だが、普通に両目を開けているとモノが見えたり見えなかったりで違和感が酷くて自転車に乗ることは難しい。

 ちなみに右目だけだと車が見えなく交通事故一直線、左目だけだとそもそも追いかけるべき少女を見ることができない。

 安全を期して走るしかないのだ。


それに2人の距離はそこそこ離れているが、少女の歩く速さに対して、こっちは現役男子高校生である。

 直ぐに追いつく。

 車が少女をすり抜けるという不思議な光景を目撃するまでそう思っていた。


(……信号無視ってズルくないか?)

 だが、考えてもみれば当然なのであろう。少女のいる右目の世界には車がいないのだから立ち止まる必要もない。

 彼女は赤信号でも構わずに横断歩道をゆうゆうと歩いて渡っている。

 一方の俺はというと、信号が変わるの待つしかなく、その間は走ってあがった息を整えていた。自分にも車に対する当たり判定が無いことを試す気にはなれない。


 距離を詰めては赤信号の度に離されるというのを繰り返しているため、全く追いつけない。

 この均衡が崩されてしまうと少女を見失ってしまう。

 そんな状況に焦燥感を抱きながら懸命に足を動かしていると、彼女が交差点を曲がるところが見えた。


(マズい!)

 更に走るペースを上げ、息も絶え絶えになりながらその交差点にたどり着く。

 少女の曲がった方向に右目を向けても既に彼女の姿は見えなかった。


 無駄足だったか。

 重いため息を吐き出し、疲れた体を薄汚れたビルの壁に預ける。


 まだ右目に人や車は映っていないから、彼女はまだ近くにいるはず。

 そんな何の根拠もない考えの元に今一度奮い立つ。


 闇雲に探すのは無しだ。

 この周辺にあるこれといったものといえば……駅か。

 乳酸の溜まった足を軽くほぐした後、俺はもう一度走り出した。

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