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2話 意味

 岬で少女の絵を描いた翌日の放課後、美術部の部室として使用している美術室を訪れていた。

 自身の技量不足により納得できる絵を仕上げることができなかったので、勉強になりそうな本を探しに来たのだ。

 真剣な表情で自分の作品に向き合っている何人かの部員に挨拶をすると、俺に気づいた山本が立ち上がり駆け寄って来る。


「美田君が来るなんて珍しいね。どうしたの?」

「ちょっと本を借りにきた。」

「へー、何の本?」

「人物画だ、少し書き方を学びたくなってな」

「え、美田君が人物画?

 山本はそう言って後ろについてくる。どうやら絵を描くのに戻る気はないようだ。


 目当ての物がある美術準備室に入る。

 ホコリっぽい臭いに顔をしかめてしまう。普段は掃除してないもんなこの部屋。長居はしたくないので、欲しい物を調達してさっさと出ていこう。


 物がとっちらかった足元に気をつけ、本棚の前に立つ。

 教科書などが乱雑に押し込められた中に、お目当てであるそれっぽいタイトルが書かれた本も並んでいる。

 だが、どれが教材として優れているのかがさっぱり分からない。

 とりあえず目についた本を手に取り、パラパラとページをめくる。


 そうこう悩んでいると、隣で同じ様に本を開いている山本が尋ねてくる。

「美田君は人を描いていてどこでつまずいたの?」

「何で1回描いている前提なんだよ」

「美田君は絵をたくさん描いているけど風景ばっかりで、人を描くことには慣れていない。それで、自分が思ったように表現できなかったのが面白くなくて勉強しようとしてるんじゃないかなって」

 微笑みかけてくる山本に対して、俺は不満げに鼻を鳴らすことで答える。


「それで、どこがダメだったの?」

「顔だよ、表情を表現できなかった」

「表情か、確かに難しいね」


 同意を示した山本は顎に手を当てて何か考える素振りをみせる。

 そして、破顔して言い放つ。

「いいこと思いついた。美田君の描いた絵を見せてよ」

「何?」

「ほら、見せてくれたら何かアドバイスができるかもしれないし」

 確かに山本の描く人の絵は上手だ。教わればタメになるだろう。

 だが、この絵を見せるのには恥ずかしさがある。


「照れてないでさ。誰かに見せたいから、見てもらいたいから描いているんでしょ」

 全くもってその通りだった。誰かに見てもらわなければ描いている意味がない。

 だが……。


 葛藤の末、俺は無言でスケッチブックを差し出した。


 受け取った絵をまじまじと見つめた後、山本はニヤつきながら俺を見つめてくる。

「美田君ってこういう女の子が理想のタイプなんだ。だから見せるのためらったんだ」

「見たまんま描いただけだ。何故そういう話になる。」

「照れなくてもいいって。だって、銀髪の子なんて普通いないよ?」

「それは、まあ、そうだが」

「仮にいたとしても、モデルさんをやってもらうぐらいには描きたいって思ったんだよね?」

「ああ、もうそういうことでいい」


 説得することを諦め、投げやりに同意する。

 何時だってこうだ。俺の見ているモノ(描く絵)は誰にも分かってもらえない。もはや他人に見せても意味がないとさえ思えてきている。

 この右目の味方はいない。


「なんか暗くなっているけれど、どうしたの?」

「面白くない話をされているんだから当然だろう」

 こちらを覗き込み尋ねてくるのに対して、ぶっきらぼうに返してしまう。


「少しからかい過ぎちゃったかな。ごめんね」

「あ、いや違う、俺の方こそふてくされて済まない」

「じゃあおあいこってことで」

 謝られることで罪悪感を覚えるも、山本が気にしている様子は見て取れない。


「よし、美田君のことは置いといて、絵のアドバイスしちゃおうかな」

 むしろ楽しげな顔をしており、紙とペンを取り出しながら説明を始めた。


 アドバイスは放課後のチャイムがなるまで続いた。

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