スイカ割りの少女 ~少女にとってスイカとは~
スイカを爆発四散させた少女の心の内をちらりと。
『伝説のスイカ』を割り、魔王討伐(?)の為に旅立った少女は目の前に広がる草原を歩きながら思いをはせる。
どうしてこうなった。
さて、何故このような状態になったかと言うと、事態は3日前に遡る。
王都から(半ば強引に)旅立つこととなった少女は、聖剣に簡単な旅荷物を積めた風呂敷をひっかけて、とりあえず近場の街へと向かうことにした。
はっきりいって、光り輝いているとはいえ木刀の先に風呂敷をさげ、その木刀を肩に担いで歩く麦わら帽子に半そで短パンの少女という光景は、どこぞの学生が夏休みを満喫しているようにしか見えないが、そこはご愛敬とでもしておいたほうがいいのかもしれない。
何しろ少女の頭の中はスイカでいっぱいだからだ。
伝説のスイカを食すために割った少女。異常なほどスイカに執着を見せる少女の、その思い入れっぷりのそもそもの元凶は彼女の祖母にある。
お祖母ちゃん子だった少女は、物心ついたころから祖母よりスイカの話を、それこそ耳にタコどころか脳腫ができんばかりに聞かされて育った。
祖母曰く、スイカとは至高の存在であると。
幼少の孫娘に、どのような言い回しで語ったのかはともかく、どこまでも情熱的に、崇拝せんばかりに語り続けた結果としては推して図るべし。
少女はスイカがどんな豪奢な食事よりも、手に届くことのない境地へと導いてくれるものという、少々ぶっ飛んだ思考を持ってしまった。
そんな折に、少女は年に一度行われる『伝説のスイカ割り』の話を、幸か不幸か耳にしてしまった。
ただでさえスイカという手に入らない至高の存在が、手に届くところに来たのだ。
故に少女は確信していた。
『伝説のスイカ』を割ったら、それはきっと未知の世界へと旅立つほどの味を堪能できると。
…しかし現実は少女に残酷だった。心を無にして、その尋常ならぬまさに執念により確実に割ったと確信したスイカは目隠しを取った後、その姿を完全に消していたからだ。残っていたのは手にしている、なぜか光る木刀のみ。
そのことを理解した瞬間、少女の身体から力がすっかり抜けてしまった。
あれほど望んでたスイカは、その欠片すら残してなかったから。この際なんか光ってる木刀はどうでもよかった。
ショックのあまり、その場にへたり込んだ少女のそばに神官が歩み寄ってきた。
なんか声を張り上げて喋り出した神官に向けて、少女は確認した。
「私は、スイカを割れたのですね…?」
「無論だ、その手の木刀の輝きがその証である。其方がその木刀をもって魔王を討伐してくれることを、全ての民が期待するであろう」
神官の言葉に少女は木刀を見つめ、思った。
…この木刀、叩き折ってくれようか。
折角スイカが割れたのに、至高の味を堪能できると思っていたのに。
荒れ狂う少女の内心を知ってか知らずかは寡黙な少女からは判断つく訳もなく。
そうしてあれよあれよというまに、冒頭に至るのである。
少女の内心の葛藤はさておき、スイカ割りの少女と呼ばれる彼女は、今はまだ出会えぬ新たなスイカを求め歩き続けるのであった。
この世界にスイカは自生も栽培もされてません。
スイカ好きの方、ご了承ください。