魔王「その剣、ちょーだい」10
私は、剣を。
彼女は長く、鋭く伸びた爪を。
私は、あの時、殺意を持って。
彼女は、きっと諦めをその手に。
神が齎した、暗黒を切り裂く聖なる剣と、
魔物達を統べし、絢爛たる象徴。
その二つが、漸く、在るべき瞬間を迎えた。
触れ合った刹那、その接地点を中心とし、大気の振動が凄まじいウネリを伴って、膨張し、弾けた。
その振動は周囲のあらゆる物体を破壊する。
そして、少し遅れて、轟音が辺りに鳴り響いた――
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「勇者様!!」
勇者の御伴人として、魔王城までの道のりを共に歩んだラタスクという名の少女が、大気の胎動の中心へ声を投げた。
「ラタスク!もう、我々に出来ることはない。早くこっちへ!」
同じ御伴人である、マーリンという名の老魔術師がラタスクへ呼びかける。
老呪術師は、二つの莫大な力がぶつかり合うのを見て、早々に命の危機を感じ取った。
マーリンはラタスクを抱きとめると、予め用意しておいた転送点となる呪術陣(*呪力をストックすることができる。複雑な呪文の組み合わせで構築される*)への、転送呪術を発動した。
(勇者よ……しっかりと役目を果たしてくれよ。お前は、母親とは違うはずだ――)
マーリンとラタスクは崩壊を続ける巨大な建造物の中から、退避した。
魔王「その剣、ちょーだい」10 ー終ー