学校って最初の数日で友達出来ないと悲惨だよね
前回伝え忘れましたが、R-15と残酷的な描写のタグで保険です。
期待していた方は申し訳ありません。
入学式の翌朝。ミコトは部屋のベットから起き上がり、身支度を整えた。
昨日の民族衣装と違い、学舎都市の制服である。金製の釦のついた紺の長袖の上着を、白の襯衣の上から羽織る。上着と同じ紺のズボンを、履きベルトで止める。つまりは、読者の皆さんの世界では学ランと呼ぶ物である。
「ふぁー、おはよう。ミコト」
少しして、反対側のベットからオムが起きてきた。まだ眠たそうに、眼をこすっている。
「おはようございます。オム王子。」
オムの方を向いて答えた。
「硬いなぁ。オムでいいんだぜ?ミコト」
オムは身支度を始めながら、顔を少し顰めて、会話に答えた。
「できませんよ。王族を呼び捨てなんて、僕は小心者なんです。」
「よく言うよ、昨晩は自国の皇女と楽しそうにしてたじゃないか。」
「見ていたのですか?」
ミコトは、僅かに驚きの表情を見せた。オムの社交性の高さは、昨日今日の付き合いのミコトにも伺える高さだ。なのに、あの一人ぼっちでいた皇女を放っておいたのは、何故だろう?そう考えた。
「そりゃそうだ。あの凍心皇女は、社交界の有名人だからな。」
「凍心皇女ですか?」
ミコトは社交界と呼べるものは、昨晩が初めてである。島の外に出たことのないミコトは、外の世界の世情に疎かった。
「碌に動かず、眉一つ動かさない。おまけに常にマイペースで、何時も相手を振り回した挙句、相手の話題は煙に巻くんだ。感情がほんとにあるのか疑う奴さえいる。」
「それで、凍心皇女なんて呼ばれてるんですか?」
「ああ、心も凍り付いた皇女、凍心皇女。誰が呼び始めたかは分からんがな。」
「そんな風には思えませんでした。昨晩は振り回されましたが、何だかんだ最終的には、踊って下さいましたし。」
ミコトは不思議だった。確かに、ココロが自由人なのも、不愛想なのも身をもって知っている。
しかし会話ができない相手では、決してないと思っていた。
「それが既に偉業なんだよ。あの凍心皇女、ココロ皇女と踊ることが出来たのはお前が初めて。それどころか会話が10分以上続いた事さえないんだ。」
「・・・流石に誇張ですよね?」
「誇張ならよかったがなぁ。」
オムの言葉に、ミコトはこれから先のことが、ますます不安になって額を抑えた。
「「おおぉー!」」
身支度を終えたミコトとオムは、寮の一階にある食堂に来た。やはり食堂の作りもシンのもので、豪奢なつくりだ。
二人は貴族と王族だが、シンの文化に馴染みのない分、十分に感動できた。
「ミコトー!」
食堂の作りに感嘆する二人だったが、そんな二人に声をかけ、近づく者がいる。
昨晩ミコトと踊った相手、皇女ココロである。当然、ココロは女子生徒用の制服を着ている。白い上着に赤のネクタイ。紺の長いスカート。セーラー服と言うのが、分かりやすいだろう。
「ふぇ?!皇女様?!」
ミコトは動揺した。昨日の今日であるが、いまだにミコトは、ココロ皇女が自分に対して向ける行為に困惑していた。
学舎都市の4分の1の人間が集まる食堂で、どうやって自分を見つけたのか?方法が分かったとして、相応の労力が必要な行為だ。昨日会ったばかりの人間のために、如何してそこまでするのか。分からなかった。皇女は自分に対し、如何する気なのか?ミコトは理解に苦しんだ。
「あいつが凍心皇女の・・・」
「一体どんな関係だ?」
「あら、イイ男!」
ココロの掛け声に、食堂にいた人々が騒ぎ出した。その多くは、服装がやけに小綺麗である。
社交界でのココロの噂を知る、貴族や王族の類だろう。ミコト達に注目が集まりだした。
「ミコト、おはよう。」
しかし、ココロはまるで意に介していない。
「お、おはようございます。皇女殿下。」
周囲の視線に怯えを感じながら、ミコトはココロに挨拶をする。
「タメ語!」
ココロはミコトに対して、ムッとした感じで怒った。やはり表情は変わっていないが、雰囲気が機嫌の悪さを伝えていた。
「す、すまん。」
ミコトは慌てて、口調を戻し謝罪した。
「おいおい、俺は無視かい?皇女様。」
オムがココロに対し、口を開いた。
「・・・誰?」
ココロは少しの間思考したが、相手がだれか分からず首を傾げた。
「オムだよ!ラムセスの王子の、前に合っただろ?お前の誕生会で!」
オムは自分のことを覚えてないのに、ショックを受けた。
「ミコトと踊ってたから、少しは不愛想が治ったと思ったら!ちっとも変わってないでやんの。」
オムは目に見えて不機嫌になった。
「落ち着いてください、僕なんて、その誕生会呼ばれてすらいませんよ。」
ミコトはオムを宥めながら、言った。
「ミコトも俺にはタメ口聞いてくんねーし。ココロは皇女なのにタメ口なんだな。」
まるで拗ねた子供の様に、口を尖らせオムは言う。王子と言えど、ミコトと同じまだ七つである。
「だって、タメ口じゃないと処刑されると思って。」
「じゃあ、俺にもため口じゃないと処刑な。」
オムは軽ーい感じで言った。
「ふぇぇぇぇぇぇぇぇぇー!?」
ミコトは驚愕した。世の王族や皇族は、如何してこうもタメ口の要求が好きなんだ。ミコトは不思議で仕方ない。
「あの、じゃあ、オム。」
「おう!」
ミコトが迷いながらも、勇気を出してオムを呼び捨てした。するとオムは、目に見えて上機嫌になった。
「ミコト、オム、食堂の椅子無くなる。」
ココロの言葉に、周りを見回したミコトとオム。食堂は既に、ほぼ満席状態である。
「急げ!」
オムの掛け声を合図に、三人は席を探し始めた。
少しの間歩き回って三人は、丁度よく三つ並んで空いた席を発見した。
「ここ、座っていいか?」
オムは空席の近くにいた生徒に訪ねた。
「いいぜ!俺はジョン。ジョン・ドゥ!名前の通り記憶喪失者!」
真ん中の空席に座っていた少年が、オムの言葉に答えた。三人はその空席に座り込んだ。
「お前、ミコトって奴だろ?噂になってたぜ、孤独な皇女様と運命の出会い!かー、羨ましいねぇ。普通そう言う物語の主人公っぽいイベントって、俺みたいな凄い過去のあるやつのところに降りてくるんじゃねーの?」
ジョンは座ったミコトに向かい、まくし立てた。
ミコトが今まであった人の中でも、特にテンションが高い。ミコトはテンションの高さに押され、少し気遅れした。
「その点、俺は凄いぜ。何せ過去が無いんだからな!毎日が青春時代だ!」
しかし、ジョンはお構いなしである。ミコトは赤面し、ココロは無表情のまま俯いた。
「お前にミコトの何が分かる!そら俺も合ったばっかりで、そんなに知らないけど!ミコトが凄い良い奴なのはわかるぜ!ミコトはいくらココロに振り回されても、苦言一つ言わなかった!ミコトの優しさの証拠だぜ。」
ジョンに対し、怒ったのはオムである。ココロやミコトもそうだが、権力者やその親族と言うのは周囲から忌諱の目で見られることが多い。所謂、出る杭は打たれると言う言葉の出る杭になるのだ。
故に幼いながらに人を観察する癖があるオムは、ミコト言う人間を既にある程度見抜いていた。
「悪い、ちょっと言い過ぎたな。」
ジョンはバツの悪そうな顔をした。
ジョンは調子に乗りやすいたちで、玉に調子に乗り過ぎ無自覚に人を傷つけるきらいがある。今回もそういう事だ。
「でも、君たちが悪目立ちしたのは確かだ。何せココロさんは、皇女で宝人だからな。変な連中に絡まれたりするのは覚悟した方がいい。」
ジョンはさっきとは打って変わり、真面目な様子である。ジョンの忠告は最もで、事実三人は周囲から多くの視線を感じていた。
「中には、変な気を起こす奴がいるかもしれない。」
ミコトは顔を青くした。何度も言うがミコトは臆病者である。
その上、オムやココロの様な王族、皇族。ミコトの様な貴族。果てはジョンの様な身元不明者。学舎都市には文字道理、あらゆる身分の子供達が在籍するのだ。
ミコトより上の身分の権力者などざらにいる。権力のゴリ押しに、ミコトは弱い。だって凡人だもの。
「大丈夫だって!ミコトが凄い所を見せればいいんだ!あいつと事を構えるのは御免だって思わせりゃいいんだ!」
そう言うのはオムであった。しかし、ミコトの不安は晴れない。
「どうやって、凄いところ見せるのさ?」
ミコトは言う。その問いにオムは答えられないまま、学舎都市最初の食事は、暗い空気の中進んでいった。
尚、ココロはずっとナイフとフォークに苦戦していた。(カモイは箸が主流でナイフ、フォークになれていなかった。)
次回こそ学舎都市の生活が本格的に始まる筈です。