夏
夏。
そこに記されているのは、
とある冒険者の繰り返される最期でした。
視界が暗転していく。塗りつぶされていく。
僕は、どれくらい死んだんだろう。
憶えてない。
ただ、様々な死に方をしているような気がする。
死とは一度きりのはずなのに、何度も思っている気がする。
そしてその度に、色んな僕の死がフラッシュバックする。
ある時は身体を斬り裂かれて。
ある時は燃やされて。
凍らされて。
時には殴られたりして。
そうして死んでいった気がする。
でも、気が付いたら僕は立っている。
海辺に。
洞窟に。
氷の山に。平原に。
古びた城の一部屋に。
街の片隅に。図書室に。森の中に。
そうして僕は、殺され。目覚める。
数えきれないくらい、死ぬ瞬間がある気がする。
……あれ。
僕、どうして生きてるんだっけ?
□ ■ □
僕は召喚術士だ。
モンスターを召喚し、使役し、旅を続ける冒険者。
長いこと冒険者をしているから、ひとりでも世界中を歩き回ることができた。
見た目はひょろいと言われても文句言えない。背もそんなに高くないし、鍛えたってどうにもならなかったけど。ひとりでどこでも行けるというのは、僕のちょっとした自慢だ。
召喚術士とはとても珍しい職業だ、と誰かが言っていた。
僕にとっては当たり前だったんだけど、世界にひとりと言われたこともある。
確かに、同じ職業の人に出会ったとはないけど。数が少ないだけでそんなもんだと思っていた。
僕は、小さい頃からモンスターと一緒に育ってきた。
魔術理論やマジックアイテムに興味があったから、ずっと勉強をしていて。それらを上手く使えば、誰かを呼び出すこともできるんじゃないかと気が付いて。
仲良くなったモンスターを召喚し、共に戦い、旅をしてきた。
理論は単純だし、モンスターと心を通わせることができる人は少なくない。
だから、きっと誰だってできるようになる。
そう思ってた。
□ ■ □
僕がどんな存在なのかを突きつけられたのは突然だった。
初夏も過ぎて。海が賑わい、夜空が彩られ。日は長く、雨は足早に去って行く。イベントが多く、賑やかな季節だった。
その日も、太陽の暑さから逃げるように森の木陰を歩いていた。
突然、メッセージが記された半透明なウインドウが、僕の視界に飛び込んできた。
それは、世界からの伝達。
この世界では、世界からの伝達を誰でも受け取れることができる。
神託とかは別だけど、大体は生まれたときから持っている宝石版に映し出される。
大体はどこかの地域で行われるイベントのお知らせだったりするのだけど。
今回そこにあった内容は、僕にはどうにも理解できなかった。
・召喚師の実装予定とテスターの募集
・放浪の召喚術士「カメリア」の討伐
「とう、ばつ……?」
召喚術士カメリア。それは僕の肩書きと名前だった。
慌てて宝石版に指を滑らせて、情報画面を開く。
なんか嫌な予感がして、ステータスを確認する。
「……」
言葉が出なかった。頬はこんなにも熱いのに、背中がひやりとした。
身体が震えて。
頭がぐらぐらした。
表示されているステータスはめちゃくちゃだった。魔力も体力も桁違い。
レベルなんて最高位と言われる数値を軽々と超えていた。
嘘だ。
昨日まではそんな事なかったはずだ。
魔力も。体力も。レベルも。それなりに上位だったけれど、こんなに桁違いではなかった。
それなのに。それが意味する所は嫌でも分かった。
つまり。
僕が。討伐対象。
□ ■ □
僕。カメリアはこう言ったらしい。
「僕は、今からこの世界を壊すよ」
待って。僕はそんなこと望んでない。
「僕だけが持っているこの力を、誰もが持てるようにする。その均衡が崩れたらモンスターは一層警戒し、力を持つ」
契約は対等だ。僕の魔力を媒体に、彼らの糧にして呼び出される。
術式を解除すれば彼らは元の場所へと帰っていくし、いつだって応じてくれる訳じゃない。
なによりも。使役なんかじゃない。信頼関係を結んで初めて一緒に戦うことが、旅をすることができる。
それは、平和への一歩じゃないの?
けれども、僕はこう続けたのだという。
「彼らに対抗しうる力が欲しいならば僕に勝て。世界を壊されたくなければ僕に勝て。勝て。勝て。勝って。世界を。力を。平和をその手にしてよ」
そして「カメリア」を倒すと、とある宝石が手に入るのだという。
彼が魔術を学ぶ中で編み出した、モンスターに育てられた子供であるという背景があるからこそ成せた新技術。
その秘術を扱うための宝石を手に入れること。それが、召喚術士になるための最低条件。
嘘だ。
僕はそんな事言ってない。
世界なんて、壊したくない。
でも。
召喚術士は僕の他に出会ったことはなくて。
その姿も生い立ちも、どうしようもなく僕のことで。
そのからしばらくは。
怖くて怖くて眠れなかった。
□ ■ □
その日以来、僕は逃げまわる日々を送っていた。
幾人もの冒険者が僕を見つけては追いかけてきた。
誰も僕の声を聞こうとしない。
ただ、敵意だけを向けてくる。
僕はその度に撃退して。
殺されて。
ギリギリで逃げて。
なんとか退けて。
殺されて。
逃げて。
殺されて。
そして。
殺された。
「君も、僕を殺すんだね……」
そうして僕の命が尽きる。
君「も」……?
そんな疑問を挟む余地もなく、視界が暗転していく。塗りつぶされていく。
僕は、どれくらい死んだんだろう。
憶えてない。
ただ、様々な死に方をしているような気がする。
いつも全力で戦って、息が切れて、痛くて、辛くて。
ああもう死んでしまうんだ、と悟った瞬間、僕は思い出す。
ドットになって散らばっていく景色。
0と1だけの、真っ暗な世界に落ちながら。
最期に気付くのはいつだってこれだ。
ああ。僕は――NPCだったんだ。




