かのじょのこと
城下町から離れた薄暗い森に彼女は住んでいる
森の奥
泉の近く
木で作られた小さな家に住むのは
人を嫌う研究者でも
年老いた魔女でもなく
赤い髪の少女がひとり
街の人は
彼女の事を何も知らない
時々 買い物に訪れて
何も 語らず去っていく
誰の 記憶にも残らない
ただ
森の奥にひとりで住んでいるという
まるでそよ風のような少女だった
♪
そんな彼女の楽しみは
本を読むこと
眠ること
あたたかいお茶とあまいお菓子を用意して
誰が綴ったともしれない文字を
読んで 遊んで
それらと共に夢を見ること
家の奥には書庫がある
小さなベルと
少しだけ頑丈な木の扉
鍵がかかったドアの向こうは
天井に届く程の本棚に
数え切れない数の本
棚の本はいつの間にか増えている
誰が書いたのか分からない
いつ増えるのか分からない
彼女はただ
それを読むのを楽しみにしている
繰り返し
繰り返し
読んでは眠り
穏やかな時を過ごしている
手書きのそれは
誰かの記憶
誰かの日記
どこかの出来事
どこかの世界
どこかの誰かが
憶え
整理し
記したそれを
今日も彼女は読んでいる
夢に抱いて眠ってる
♪
「今日は なにを読みましょう」
少女は本棚を眺めていた
「うーん。新しい「本」は増えてないのね」
残念 と小さな溜息
並んだ背表紙を指先でなぞりながら
書庫の奥へと進んで行く
「そうだ」
ぴたりと足を止めて くるりと書架を振り返る
本はただ
静かに並んで彼女の言葉を待っている
それはまるで
女王様の言葉を待つ臣下のよう
「季節からひとつずつ選んでみたらどうかしら」
どうかしら
声が響いて
静寂が返ってくる
沈黙とは 肯定であるという
「うん、みんな賛成ね! それじゃあ――」
彼女は本棚から一歩離れて
壁いっぱいのそれを一瞥し
目を閉じて拾い上げる
本棚に収められている「きおく」を
自分がかつて触れた「はなし」を
「だいじ」に仕舞ったその位置を
自分の中にある目次から
春
夏
秋
冬
それぞれひとつ
「うん」
薄暗い書庫で 赤い瞳が穏やかに微笑む
「これにしましょう」
そうして部屋から持ち出したのは4冊の本
♪
火のない暖炉
前に置かれたロッキングチェア
深く座って
膝掛けを整えて
まずは一冊
彼女の読書
はじまり、はじまり
昔書いてた物を少し手直し。
今となっては設定が変わっている物もあるけれど、それはそれ。これはこれ。
ジャンルは何になるか分からなかった。




