果実
「持ってきたよー」
子供のひとりが高らかに報告をしながら、他の場所から運ばれて来た果実が積まれている家の前に走って行く。
「おー、ご苦労さん」
家の前で丸太を切っただけの簡易な椅子に腰掛け、果実の選別をする男に褒められると子供は達成感に満ち溢れた表情でいる。
その後でぜぇぜぇと肩で呼吸をする籠運びの相方がいなければ完璧であった。
「こら、仕事は出来ても仲間の事を考えれないと駄目じゃないか」
こつん、と相方の事を考えずに走り出した子供を諌めると暁は腰に掛けていた水の入った竹筒を渡した。
諌めらた子供は褒められ待ちの表情を一変し、あわあわと表情を変え、暁から受け取った竹筒をまだ肩で呼吸をする相方へと持っていった。
「相変わらず面倒見が良いな」
果実の選別をする男に褒められ、まーねーと返しながら暁は抱えていた籠と背負っていた籠を地面に置くと水の張られた大きな桶に丁寧に移していく。
そこに他の子供達も自分で運んだ果実をどんどん浮かばせていく。
すると色とりどりの果実が浮いた美しい桶が出来上がった。
「うんうん、これだけあれば問題ないな」
傷もないし大きさも見目も充分だ、桶を満足気に覗くと、男は再び選別作業に戻った。
この果実は島にある森の木なり、腐りにくい代わりに変色しやすく、収穫した後は水に浸し冷やさなければならない。
木は気の塊であり、そこから実が離れるから気が途絶え、途端に醜くなるというのが男の受け売りである。真実かどうかは分からない。
果実は祭事の際に宮に納められ、島に捧げられる。
捧げられた果物は島に捧げられるという役目が終われば島民にも振る舞われる。
一度捧げられた果物は尊き物となり、その実を食べれば次の祭事まで健康でいられるというまじないのようなものがある。
暁はそういった確証の無い話に興味は無いが、いつもより冷えて美味い果実を食べられるので特に気にしていない。
「ねえねえ、俺達頑張ったから姉様褒めてくれるかなぁ」
俺達頑張ったよ、祭事の手伝い頑張ったよ、とふんふんと鼻息荒くどう?どう?と聞いてくる。
「そうだなぁ、選別も手伝ったらきっと褒めてくれるよ」
姉様は優しい御方だから、と続けると子供は見えない犬耳をピンッと張ると
「おっちゃーん!俺にも手伝わせてー!」と作業する男に走り寄っていった。
ふぅ、と一息つくと暁はその場を後にし、龍宮と呼ばれる建物へと足を向けた。
暁は己が主の元へ、向かうのだった。