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第七章第六節



◇◆◇◆◇◆◇◆◇




(……身体が成長とともに急激に変化するが故に、同じ病気でも子どもの方が圧倒的に進行が早い。……毒物を摂取したときの影響も)



「クラ、ウスさん……本当、ですか。おばあちゃんは、本当に……」



 うつろな目に光をともす少女を見て、クラウスはどんな笑顔を返せば良いのかわからなかった。



「まだ容態を確認し続ける必要はありますが……ちゃんと治療はほどこしました。また元気な姿のおばあさんに会えますよ」



 告げた途端、少女の瞳はおびえに揺れた。



「わ、私……おばあちゃんにひどいことを……おばあちゃんに会わす顔なんて……」



 かたかたと震えだした少女に思わず手を伸ばす。



「大丈夫……君のしたことは、正当防衛だったのでしょう?」



 耳元で囁くように告げれば、びくりと小さな肩が震えた。



「最初に襲いかかってきたのは……君のおばあさんでしょう、フロレットさん」


「わ、私……」


「やめてと言っても、話が通じなかった。腕についている傷は……おばあさんから受けたひっかき傷だ。――獣のひっかき傷なんかじゃない。人間のつめでつけられたものだ。殺されると思った君は、近くにあったナイフで自分の命を守ろうとした。自分を守るのに精一杯だったのでしょう」


「ご、ごめんなさい、そんなつもりじゃなかったんです、私、私……お、おばあちゃんのこと……」


「僕は君のおばあさんのことを少し前から診察していたんですよ。……君のおばあさんは少し病気だったんです。身体ではなく気の病の。だから少し精神が錯乱して暴れた……君を傷つけようとしていたわけじゃない」


「本当……ですか、……おばあちゃんは良くなるんですか」


「…………ええ」



 人を救うためには、正直ではいられない。そんなこと、ずっと前から知っていたことだ。


 中毒症状を緩和するには、体内に残存している薬物を抜く必要がある。中毒患者が薬物を摂取しない日々を送るのは、壮絶な苦痛を伴う。果たして衰弱した老体が耐えきれるかどうか。



「君のおばあさんは、良くなります」




 僕は大嘘つきだ。




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